ABC打線とBBBB打線とKKコンビ

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    フェンウェイパーク県立野球場。グリーンモンスターこと芝生土手の外野席もあるよ。

     

     割と一方的展開で地区シリーズが終わった。
     ナ・リーグのブリュワーズ対ロッキーズのBC対決は3タテでBの勝ち。ロッキーズは下山すると貧打になるのかと思ったが、コロラドに戻っても変わらなかった。呉昇桓のポストシーズンも幕を閉じた。しかしブリュワーズはなぜシャンパンファイトなのだろう。ビールの町なのだからビールかけじゃないのか。


     ブレーブスとドジャースのAB対決は、ブレーブスが1勝したものの昔Bことドジャースが横綱相撲で勝利。ヤンキースが獲るんじゃないかと前に書いて実際にはドジャース入りしたマチャードが、ようやく活躍し出した。同じくようやく出番が来た前田は若干危なかったが0に抑えた。

     

     ア・リーグは、アストロズがインディアンスを3タテで下して難なく勝利。アルトゥーベ、ブレグマン、コレアと、ABCが揃った強力打線は好調の様子。インディアンスは昨年同様、クルーバー、ミラーが打たれたのでどうしようもない。ミラーは乱調もいいとこで全く見る影なかった。ウォームアップで外野手のように助走投げをするドローン男バウアーが一人頑張っていたが最後に力尽きた。

     

     レッドソックス対ヤンキースは、1勝1敗のタイになったところでやはりこのカードはもつれると思ったが、第3戦はコールド勝ちしそうな得点差でレッドソックスが圧勝。ヤンキースは最後にキャッチャーに投げさせる体たらくだった。レギュラーシーズンで野手が登板するのは珍しくないが、ポストシーズンでこれは初めてじゃないかと思ったら2度目とのこと。で、この野手投手を相手にホルトが本塁打を打ってサイクル安打を達成していた。こちらはいくらでもありそうなところポストシーズンでは初めての記録だとか。なんとなくゲタを履かせてもらっての達成のようにも見えるが、まあそれくらいじゃないとポストシーズンでサイクルを打つのは難しいということか。

     

     第4戦は、9回にキンブレルが四死球連発でヤンキースに1点差まで詰め寄られ、さらにきわどいタイミングのアウトにチャレンジのおまけがついた。結果的に判定変わらずアウトで試合終了だったが、もしセーフだったら緊張感を元に戻すのが大変だろうから多分負けてたな。一塁手は股関節の柔軟性が必須だと再確認。

     かつてのレッドソックスだったら死球推し出しの時点で負けのダークサイドに陥っていたように思うが、すっかりメンタルが常勝チームになったね。なにせベッツ、ベニンテンディ、ボガーツ、ブラッドリーJrのBだらけ打線なわけだが、かつて「呪い」を言われていたときは、劇的敗北にBの選手が必ず絡んでいたものだ。時代も変わった。ちなみにヤンキースのブーン監督は、かつての呪いのBのうちの1人だったが賞味期限は切れていた模様。ま、やはりABC対決にNYYはおよびでなかったのさ。スマンね田中さん。

     

     というわけで、ナ・リーグのBB対決は、2年連続ワールドシリーズ進出を狙うドジャースと新参者のブリュワーズとの新旧対決でもある。マエケン―KジャンセンのKKコンビ(もしくはケンケンコンビ)の出来次第か。

     

     ア・リーグは、昨年の地区シリーズと同じ顔合わせで、アストロズとレッドソックスのAB対決。強力ABC打線と、BBBB打線の対決でもある。ないしはアストロズ・マルドナードとレッドソックス・キンズラーの「ともに今季のはじめに大谷さんにサイレントトリートメントしたもんね」同士の対決でもある。2人ともエンジェルズを出て得したね。

     

     ワールドシリーズは、ドジャース×アストロズの2年連続対決か、ドジャース×レッドソックスの伝統チーム同士だけど102年ぶり対決(おもにレッドソックスのせい)か、それともブリュワーズ×アストロズの「お互いMLBの都合でア・リーグ⇔ナ・リーグ変更させられた悲しきエトランジェ」同士対決か。いずれも捨てがたいが、ブリュワーズ×レッドソックスの枕詞を何も思いつかない対決の可能性も十分ある。


    秋晴れの日

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      こう見ると的までまあまあ遠いでしょ。

       

       地元で国体をやっていた。
       実家は、前回国体のときに、競技場建設と合わせて造成されたかつての新興住宅地である。同世代の親たちがそこに暮らし出し、同世代の子供であふれかえった。なので幼馴染含め我々は国体の子といっていい。それからおおよそ半世紀たち、単純計算でも自ずと持ち回りの順番が来る。

       

       すぐそこにスポーツパークがあるため、国体に合わせて施設のリニューアルが進められているのは勝手に目に入る。何年も前からあちこちが閉鎖されて重機が入り・・・、というのを見てきて、いよいよ今年かあというような感覚は嫌でも醸成されるのであるが、いざ開幕となると全国的な注目のなさを痛感することになる。確かに毎年どこかで必ず開かれているのだろうけど、気に留めることがないからそりゃそうだ。皆既日食みたいなものか。地球上のどこかではかならず見られる勘定になるが、日本で見れるときだけ大騒ぎになる。

       

       帰省すると、駅周辺はあちこちに結果が張り出されていたり、土産物屋が増設されていたり、会場行きのシャトルバスが発着していたりでまあまあそれなりの雰囲気だった。終了間際だったので、競技の大半は終了していたし、県内全域に会場を設けているので、競技によっては行く気が起きないくらい遠い。地元の英雄たる五輪選手が出場するバドミントンは、彼女の地元での開催だったので、距離的にいって着いたころには終わっている時間帯だった。

       

       とりあえずはアーチェリー決勝を見物するとしよう。実家から自転車を10分ほどこいだところにどういうわけかもうひとつスポーツパークがあって、そこでやっていた。五輪選手の古川が出ていたので得した気分だ。

       

       俺も国体に出たことがある。高校時代アーチェリー部にいて、マイナーな貴族スポーツにつき田舎には4校しかなくうち1つは女子だけ。必ず3位以内に入る状況だった。そんな中で他の2校が男子部員不足で団体戦をろくに戦えない状況とぶつかり、棚ぼた的に優勝した。特に俺に関しては団体戦のメンバーにも入っていなかったので棚ぼたもいいところなのだが、とにかく「インターハイ出場」ということになった。

       

       それでいざ会場についたら、あらゆる表示に「国体」と書いてある。聞けばインターハイは全く別の県でやっていて、アーチェリーは当時含まれていなかった。ただの高校の全国大会が国体会場で行われていたということらしい。結果はわざわざ書くまでもなく、「出れるから出た」以外の何者でもない。

       

       さて時を戻して、大阪対愛知の男子決勝だ。古川が10点(的の真ん中)を連発するのを、へえ〜と眺めて終了後に周辺をぶらぶらすると、各県選手の控え場所のテント群があった。よくある白いテントが林立する下にテーブルがずらーっと並んでいて、試合を終えた選手たちが弁当を食ったり茶を飲んだりしながら談笑している。そういえば自分のときも、こんなテントの下で飯食ったなあと思い出した。急に過去の記憶が生々しく甦ってノスタルジックになるあの感覚ね。ただし惨憺たる結果に「はよ帰りてー」としか思ってなかったから思い出しても全然楽しくない。

       

       再び自転車をえっちらおっちらこいでメイン会場へ。普段はフリーパスで自転車ですいーっと通れる田舎のおおらかさを体現したような公園だが、さすがに多くの門が閉じられていて、臨時の駐輪場に移動させられる。外周の柵には、特産品や景勝地などをモチーフにした47都道府県ののぼりがはためいている。地元の児童生徒が動員されたのだろうか、手書きの絵なのだが、我らの地元ののぼりは超雑なカニの絵で済まされていた。わかるぞ、その気持ち。行ったことのない県のシンボルを調べて描く作業でキャッキャ言ってる傍らで、なんで自分だけ地元やねんという不貞腐れだろう。愛郷心より未知の世界に触れることの方が圧倒的に優先される。こうして俺のようなワールドクラスの人材を輩出する土地柄なのである。

       

       桐生のお陰で9.98スタジアムとデカデカと掲げる競技場で陸上(少年の部)を見た。高校生たちか。結構親も来てる様子である。外には売店のテントも並んでいて、今時っぽく凝ったメニューのあれやこれやを売っていて、まあまあ繁盛している。その向こうには、クラスメイトの実家が営んでいるレストランの看板が見えるのだが、少しは特需に預かったのだろうか。というか、チェーンが席巻する時代にあって、特にこれといった特色もない「レストラン」がしぶとく生き残っているのだから敬服する。

       その向こうには、かつて県教委だか市教委だかの建物があったのだが、潰されて巨大駐車場になっていた。築地市場ミニ版。小さいころは子供向けの事業に参加するため何度も足を運んだ場所だから、これまでの人生で場外で一度だけ寿司を食っただけの築地よりは遥かに縁がある分、寂寥感も勝る。

       

       まあまあ大がかりなくせに特段メディアから注目もされず、それでも続いている大会というのもすごいもんだと改めて考えさせられたのだが、あえていえば「この程度」の大会でもこんだけ手間暇かかるんだから、オリンピックを考えるとなかなかの恐怖をリアルに体感できる。貴重な体験であった。


      海の向こうのABC対決

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         先週の話。
         出張で福山に行き、授業が終わると学生が「まだ試合終わってないよな」と友人と語らい合いながら急いで教室を出て行った。そうか今日勝てば胴上げか。駅前のホテルに移動し、チェックインして・・・、と少々手間取って、ようやく夕飯を食おうと駅に向かったら、ユニホーム姿の人々が20人ほど集合していた。どういうわけか静かにたたずんでいて、おや今日はまたお預けか?と思いつつ、新聞を配っていたので号外かと思って受け取ったら日蓮大聖人的な機関紙だった。牽制球かよと安易な駄洒落を心中つぶやく。

         

         その辺の適当なラーメン屋にはいったら、とうに胴上げが終わった様子が中継されていた。何だ優勝してるじゃないか。なぜに静か?サイレントトリートメント?

         

         営業担当の人から電話があり「今日はお疲れ様でした。是非あの店行ってください」と、以前にご一緒したスナックを猛烈に勧めてくる。外交辞令で言っているのかと思ったが、どうやら本気だった。

         そこまで気を遣われてソデにするのも失礼かとぶらぶら歩いて向かった。スナック街は駅前の繁華街から少々離れている。一度タクシーで連れて行かれただけで場所もよく覚えていなかったが、たどり着いたから大したもんだ。先客とちょうど入れ替わる格好になり、客が俺だけ。「優勝したのに静かですね」と店主が言う。厚意に甘えてボトルを空けた。と書くと豪快だけど、単に残り少なかっただけ。

         

         ほろ酔いで駅前に戻ったら、酔客が「おめでとーございまーす」とすれ違うユニホーム姿といちいちハイタッチしている。監督の口癖(?)が定着しているのだろうか。特にファンでもないのでよく知らない。今度はようやく地元紙が号外を配っていた。ま、福山だと騒ぎもおとなしいものだが、何かと備前と安芸との対立をご当地ネタ的に聞かされてきたので、なんだちゃんとカープファンがいるやんと思いつつ、人口に比して少ないのだろうかと思いつつ。

         よくよく考えると、優勝の晩に街中にいたというのが初めてだったと思い当たり、なんとなく書き留めた次第。

         

         ところで大体同じころ、マエケンは海の向こうで逆転2ランを浴びてセーブに失敗していた。ドジャースは今季、かなり苦しい戦いだったのが、最後に昨季ワールドシリーズ最終戦まで行った底力を示してナ・リーグ西地区首位に立ったはずが、最後の最後でもたついた。

         中地区はずっと混戦で、大型補強で本命視されていたブリュワーズ、なんだかんだでしれっと強いカブス、マイコラスの意外な活躍で復調してきたカージナルス、ついでにパイレーツも、5チーム中、4者もみ合い。唯一、勝率が5割なかった負け越しチームがレッズなのだが、広島カープのCマークのパクリ元が一人負けの逆広島状態というのが何とも皮肉で、あな悲しや。来期はシンシナティ・カープ、広島東洋レッズに交代したらどうか。中地区はさらに、セ・リーグは久々に激戦になるんじゃない。ウィンウィンだ。

         

         それで西・中地区とも、2チームが同成績になる前代未聞の事態になったので、この4チームが地区優勝を決するために居残り試合を1試合課される羽目に。一発勝負で負けた方が、一発勝負のワイルドカード行きになる。結果、ドジャースとブリュワーズがそれぞれ大勝して地区優勝。負けたカブスとロッキーズがワイルドカード行きとなった。

         

         こうしてようやくポストシーズンの櫓が組まれたわけだが、今季はABC対決だな。
         ナ・リーグ東地区は急に強くなって昨年までの常勝チームだったナショナルズをぶっちぎって、アトランタ・ブレーブスが早々に優勝を決めた。帽子のマークはAである。
         中地区は、帽子のマークがCのカブスが本命だったが、ブリュワーズが勝った。ミルウォーキーなのでマークはM(たまにグラブのイラスト)だが、ブリュワーズなので見なしBである。
         西地区はLAドジャーズで、前身はブルックリン・ドジャーズで帽子は「B」だった。まるでイスタンブールをわざわざビザンチウムと読ませることで成立するドイツ帝国の3B政策のようだ。みなしBだが、すでにブリュワーズがいるので、LAのAでも、何ならもうDでもいいや。
         ワイルドカードは、正統Cのカブスと、マークがCRのコロラド・ロッキーズ。C対決。

         

         ア・リーグ東地区は、Bの王道ボストン・レッドソックスが球団記録の108勝で優勝。
         中地区は、ヘルメットだけCマークのクリーブランド・インディアンス。
         西地区は、アストロズ。ヒューストンにつきマークはHだが、アストロズなのでみなしA。
         ワイルドカードは、アスレチックスとヤンキース。アスレチックスはマークがA'sなのでAでよろしい。略称も「Aズ」だから、王道のAといってもいい。NYYことヤンキースは、今季のABC対決には全くお呼びではない。

         大谷のエンジェルスこそマークがA、かつ天使の輪っかつきでありがたいのであるが、2つ負け越した。アストロズの一人勝ちかと思われた地区で、アスレチックスとマリナーズが意外に健闘して王者を苦しめた中、シーズン序盤以外出る幕はなかった。手術成功の由。お大事に。

         

         そして早速ワイルドカードが開幕。追加の1試合でそれぞれ大負けしたカブスとロッキーズの対決だけに、どっちもちっとも点が入らず、日本対ポーランドのような湿気た展開だった。息詰まる投手戦というよりどっちも打線が湿って点が取れずに延長戦。盛り上がりを欠いたままロッキーズが勝った。王道Cが脱落し、RつきのCが残った。ロッキーズにはいつの間にか呉昇桓が加入していて、ポストシーズンおめでとさん。同じくいつの間にかカブスに移籍していた「途中まで優勝請負人」(所属したチームがポストシーズンには出る)マーフィの御利益はなかったようだ。

         

         アメリカン・リーグのワイルドカードは、やはりAでもBでもCでもないNYYの勝ち。せっかく綺麗に揃いそうなところ、およびじゃないって言ってるのに。短期決戦に弱いと言われ続けているアスレチックスは、一発勝負は余計ダメだ。経験豊富なNYYには勝てんわなあ。大体ヤンキースは、ワイルドカードとはいえ、100勝超えてるから普通なら地区優勝している。

         

         ワールドシリーズは、アトランタ対ボストンのAB対決が一番綺麗な気がするが、ABC対決が崩れてしまったので、崩したヤンキースが勝つのかも。ブリュワーズ対ヤンキースだと、今季マーリンズから大放出された選手同士の対決になる。うーん、それだったら昨年と同カードでドジャースがアストロズに雪辱を果たす方が楽しいな。ダルがいないから今度は勝てるんじゃないか。

         

         ところで、イエリッチとスタントンの供給元となるチーム解体を行い「今年は負けるのが仕事」とまで言われたマーリンズは、ナ・リーグ最多黒星は達成したものの、ア・リーグに100敗以上が3チームも出た。中でもオリオールズは115敗の大爆死。首位と61ゲーム差。勝率.290。って打率やん。両リーグ合わせて弱かった順にドラフトの指名権が割り振られるので、負けることにも少々意味があるのだが、マーリンズは5番目。タイガースと同率だったが、前年はマーリンズが大きく上回っているので指名順は後になるとか。やや中途半端な結果に終わったなあ。


        掌中の読書

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           台湾から帰国して、結局来なかった学芸員の友人と会って飲酒したのだが、必然話は故宮博物院の展示になる。写真を見せて気になったことを質問すると、「ああ、それはね」と即答してくるところはさすが専門家といったところだが、最も気になるのはやはり、どうやって持ち出したかだ。


           戦争をやってる最中に、それも負けが濃厚で撤退戦をやっているときに美術工芸品を渡海させたのだから、狂気の沙汰にも思える。それもいい物を選りすぐっているのだから、戦争中に何をやってるんだという話にも思えるし、他方で、それを実行できる専門家がいないと素人にはどだい無理な作業でもある。ついでに故宮の文物は、台湾に行く前は、攻め入った日本から守るために、北京から南京をへて、蜀の山奥へ、まるで劉備玄徳のような疎開の旅をしている。日本通運が舗装道路をトレーラーで運んだわけでもないから、それだけとっても想像のつきにくい話である。

           

           それで早速検索してみたら、格好の本があって、著者がやっぱり野嶋剛だった。ついでに別の日に、某大学の図書館でぼけーっと蔵書の棚を見ていて、おや、おもしろそうなマンガがあるぞ手に取った。文革時代を舞台にしたマンガだが、訳者が野嶋剛だった。
          俺が「知りたい」と好奇心を持った先にいちいち現れるこの人、もしかして「超優秀な俺」なんじゃないかと思ったが、要するにあれだよね。西遊記の悟空と釈迦の掌の話だよね。そんなに年の変わらん俗人同士のはずなんだけどなあ・・・。

           

           まあこういう歴史の裏話を手堅くまとめるのは学者よりは記者の得意な仕事だろう。知りたいことは概要ながら知れたし、ずいぶん面白くも読んだ。一度も外に出したことがなかったので、故宮の係員は誰も梱包の方法を知らず、骨董屋のおっさんに習いに行ったとか、日本からの疎開の際に何度も奇蹟的に破損を逃れたので「文物有霊」という言葉が生まれたとか、ホントは7回台湾にピストン輸送するはずが内戦で3回で終わったとか、10代で故宮になんとなく就職したあんちゃんが最後までこの逃避行に関わったとか、なかなかのドラマにやはり溢れていた模様。

           

           それだけでなく、俺が呑気に見物した故宮南院は、政治に翻弄された受難の果ての産物だとも知った。本書執筆時点ではまだ先行き不透明で、できないんじゃないかくらいの筆致である。にわかに、見れたことが妙に感慨深くなる。本書では、テーマパークにしたらええんとちゃうの案が出ているという当時の最新情報で終わっていたから、なってなくてよかったと胸をなでおろした。なってたら、哈爾浜のソフィア聖堂のように、荘厳な建物の隣に最新型の乗り物で遊ぶ子供がいるというわけのわからないアレと同じ様相を呈していた気がする。

           

           すでに述べたように、南部院區は、台湾原住民の文化を強く推し出した装飾を施している。本書によると元々は「もっとアジア全体に目を向けるべきだ」という発想から始まった。だが故宮においては中原純血主義とでもいうような排他的な価値観が強かったようで、そんな雑多なんいらんやろと反対も多かった。

           ついでにここには党派性も絡んでいて、「中華民国」がアイデンティティの国民党と、もう台湾共和国でええやん独立派の民進党のどっちが政権を取るかで、中原主義になるかアジア主義になるかにわかれる。出口を出たら入口かよと腐した東洋陶磁器の展示も、このアジア主義的な文脈上での特別展を解釈できる。出発点が思い切り政治だっただけに、どうしても色々つきまとうのである。本書によれば、先人の努力で昔に比べれば政治色は相当に排除されたようだが。

           

           ところで当の蒋介石が何を思って文物大移送をやったのかは今もって不明らしい。どんな意図があったのか、ほとんど何の言葉も遺していないのだとか。統治の正統を担保する皇帝の玉璽か、「RON」の黄龍玉璧みたいなものだという俺でも想像つくくらいのことしかわかってないようだ。黄龍玉璧は放射性物質で出来ていて、各国が核兵器に転用できるからと触手を伸ばすという筋書きだったが、実際に為政者が意地でも死守しようとしたのはただのよく出来た壺、というのが美術の魔性をよく現わしているね。


          【やっつけ映画評】15時17分、パリ行き

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             何気なく借りた2本の映画に、偶然にも濃密な関係性があった、という話を書く。
             1本はすでに述べた「人生はシネマティック!」。もう1本は「15時17分、パリ行き」だ。以下、「シネマティック」、「パリ」と表記する。


             「シネマティック」はすでに紹介したように、「ダンケルクの撤退を題材とした映画」を作るという筋立てだ。「ダンケルク」でも描かれているように、英軍の撤退には多くの民間の船が協力している。「ダンケルク」では1隻に代表させているが、実際には何百もの船が活躍した。「シネマティック」では、その中の双子の女性が乗り込んだ漁船を題材にしようとする。「なんと!女性が勇敢にも船に乗って兵隊を何人も救ったらしいぞ」と、政府の情報部局が映画化の可能性を感じ、主人公のカトリンを取材に差し向けるのだが、実態は全くの期待外れだと判明する。双子の姉妹が舟を出したまでは事実だが、途中で故障してしまい、ダンケルクには着いていない。噂だけが独り歩きしてしまい、事実のショボさがバレると恥をかくというので、姉妹は新聞取材はすべて断り、身を隠すように暮らしているくらいだ。

             

             これを娯楽映画にするには無理があるから、脚本化にあたっては、あくまで事実をもとにしたフィクションということで、話に尾ひれはひれをつける格好でドラマチックに仕立て上げていく。ダンケルクには着くことにするし、そこでイケメンとのロマンスがあったり、仲間が命を落としたりもする。実際にはイケメンも死者もいない。姉妹はまあまあシニアで、見かけも性格も地味だが、若く美人という設定になる。これが思い切り男目線のステレオタイプに基づいていることはすでに書いた。

             

             こういう作業は珍しくないどころか、三国志と三国志演義の関係に代表されるように、事実(歴史)を題材としてフィクション作るときの常套手段とすらいえる。華々しい盛り上がりを付け加えるだけではなく、繁雑な部分を省略することもある。どちらも目的はわかりやすく&「おもしろく」するところにあるだろう。

             

             「おもしろく」と「」をつけて表記したのは、おもしろくする脚色の価値観が時代とともに変わっていくからだ。個人的な印象の話に過ぎないが、飾り立てるよりはなるべく事実に即して描くのを重視する、というように実話の扱い方は変わっていったように思う。「シネマティック」の中で、主人公の先輩脚本家たるバックリーは、「おもしろい脚本の定石」を得意気に説諭するが、そこで語られる脚色は、今となっては実に陳腐に聞こえる。一方で「ダンケルクまで行けなかった」というのはそれはそれでむしろ面白いんじゃないか?と思ってしまうのだが、これとて要は、「事実に近い方が面白い」と捉える現代の価値観に俺もしっかりはまっているからだ。

             

             この「事実になるたけ沿う」と鼻につくくらい押しつけがましくやっているのがキャスリン・ビグローだと思う。「デトロイト」の項でも書いたが、この監督は、ドキュメンタリー風味の映像で、救いのはない実話を救いのないまま描き、時にエンドマークをつけることすら拒む。むしろドキュメンタリーの方がまとまりをつけようとする分、ちゃんと終わりがあるもので、その点ドキュメンタリーよりも剥き出しの生身の雰囲気が漂うのだが、なんだか過剰にすら映ってしまう。まあ、題材が毎回目を背けたくなるような現実を扱うだからだろうとは思う。
            で、「パリ」だ。

             

             この作品は、パリ行きの列車内で実際に起こったテロ事件を扱っている。閉鎖状況の中で、テロリストとどう対峙するのか、「エグゼクティブ・デシジョン」や「ダイハード」のヒーロー無し版のようなものを想像していたら全然違った。予備知識なしで見たのでびっくらこいた。イーストウッド監督は、ソツなくうまく作る人、くらいに思っていたが、誤解だったようだ。すごい映画だこれは。

             

             

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