【巻ギュー充棟】戦争とオカルティズム
ガザが再びかまびすしくなっている。若いころ、宗教は怖いなあとか愚かだなあとか愚にもつかぬ感想とともに横目で眺める程度だった。
現在は、「あなたムスタファよ!」と言われたころよりは、ちょっとはものを知った上でニュースを見ている。岡真理氏の講演も映像で見た。上記リンク先、十二支一周前の自分の書いたことを久々に読み返したが、自分の若干の成長を確認できた。
まず思ったのは、EUや加盟諸国の、政府、報道も含め、想像したより浅はかということだった。もう少し慎重で理性的なのかと思ったら、違った。9.11の直後の雰囲気とよく似ていると思った。西ヨーロッパの先進国メディアが、日本のメディアと変わらないような条件反射的な奥行きのない報道をしているのを見せられると、だいぶ精神的にキツいものがある。ただし、アメリカも含め、市民が即座にデモをしたりなんたりで、これらの動きを批判しているのはさすが先進国だと思った。
ネタニヤフ政権が極右のろくでなしなのはわかっていたが、喋っている内容が、まるでカルト宗教でイカれているとしかいいようがない。ついでに国民にも、SNSで嬉々として自演の差別動画を投稿しているのがいる。人間だれしも持っているが普通は隠す醜い部分を、まったく隠さずここまであからさまに開陳できるのは、それだけ関係性が一方的に優位にあるからだろう。この醜悪さは遺体の映像よりもある意味キツい。愚かな国民は外からだとこう見える、というのは他山の石でもある。
極右というのは、宗教上の排他性とワンセットになるのがパターンなようで、現在の日本だと統一協会がまさにあてはまる。これは戦前も同じで、本書は戦前の軍人たちに、オカルトが蔓延していた実態を紀伝体式でまとめている。知らない話だらけだった。
戦前に新興宗教のイメージがあまりないのは、それこそまさに「教科書が教えない」で、日本史の教科書に登場しないからだ。改めて確認したが、山川の教科書に、大本教は登場しない。松本清張を筆頭に、戦前を舞台にしたノンフィクションやフィクションを通じて、実はかなり盛んだったと知ったのは、30をとっくに過ぎてからのことだったように思う。
登場する軍人は、秋山真之や石原莞爾のような大物もいるが、ほとんどはよく知らない将校ばかりだ。彼らがハマるの1つがユダヤ陰謀論だから、イスラエル建国の源流に、うっすら間接的に絡んでいることになる。実態としてはネトウヨが受け売りをばらまくのと同じレベルのようだが。
他は日ユ(日猶)同祖論、大本教とその分派など。いずれも竹内文書を信じていて、日本(天皇)を宇宙の中心に据えているところが共通している。『虹色のトロツキー』に格好よく登場する安江仙弘が、竹内文書をありがたがるおっちょこちょいだったのは初めて知った。
ただし、安江がそうであるように、本書に登場する軍人たちが、日本の政治や軍事を動かす中心をなしていたわけではなく、どちらかというと傍流だらけだ。オカルト活動が問題視されて出世コースから脱落したり、そもそもそこまで出世頭ではなかったりの人が多い。石原莞爾は有名だが、東條英機と対立してわきに追いやられたから同じく傍流みたいなものだ。小磯国昭は首相になるが、敗戦直前のころの首相だからオカルトが炸裂する間もなかったようだ。
そうすると、「軍人の一部におかしなのがいた」で終わってしまう話なのだが、戦前日本の軍事・政治に宗教性がなかったということにはならない。本書に登場する軍人たちの世界観の中心には、至高の存在として天皇がおり、天皇自身がその聖性を否定していないので、いわば巨大な宗教組織の端っこに一部異端の人がいた、くらいの構造である。
本書は最後に昭和天皇をもってきており、結局、ことの中心はここなんだなと再確認させられた。タイトルを見直したら、最初からここに焦点があることがわかる。
自民族中心と他民族蔑視の極右的な視点は、当時の政府中枢、軍部中枢だけでなく、多くの国民も共有していた。当時スマホとSNSがあったら、イスラエル国民のような恥知らずの自演動画を投稿していた国民は一定数いたはずだ。日本はそれで戦争に負けた。その残滓を克服できなかったため、現在は経済が凋落している。
かたやイスラエルは、当時の日本と異なり、国際的に孤立していない。このため敗北することもなければ、残虐行為が裁かれることもないだろう。ただし極右カルトに実務能力がないのは世界共通のようで、何も解決させることはできない。醜い動画を作っている連中が、最終的に報われることもまたないだろう。ただし、本書に登場する軍人たちが総じて長命だったように、パレスチナ人と異なって長生きだけはするんだろうな。
「戦争とオカルティズム 現人神天皇と神憑り軍人」藤巻一保 二見書房2023年
- 2023.10.20 Friday
- 読書
- 11:51
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- by 森下淳士