見舞い(6止)
博物館群から離れた場所にあるので、今まで見たことがなかった
時間があったので上野に向かった。田舎者が東京で時間を持て余すと上野に行くくらいしか思いつかない。国立なのに金欠というので話題の科学博物館を初めて訪れた。常設展が、1日では見切れないくらいだと聞いていたが、実際そうだった。これらの膨大な標本が金欠で管理できないというのであれば、解決策はすでに大阪府が提示している。駐車場に隠しておけばよい。
大英博物館なんかがエジプト辺りから持ち帰った(強奪した)文化財を返却しない理由の1つに、現地側が適切に管理できるのか疑わしい、というのがある。日本もおかしな格好でそのような状態になっている。
せっかくなので市谷に移動して、大日本印刷がやっている活字博物館(市谷の杜 本と活字館)を覗いた。あっちこっちに「DNP」の看板を掲げた巨大なビルが建っているDNP村のようなエリアで、この会社がこんなにデカいとは知らなかった。
昔、講師の契約をしていた会社がこのDNPに買収されて傘下に収まったのだけど、巨大なビル群を見るにつけ、惑星とホクロくらいの差異を感じる。なんでこんな馬鹿でかい会社が、あんなちっこい会社を買おうと思ったのだろう。案の定さっさと手放していた。
さて、本好きに加えて新聞屋勤務、印刷屋勤務の経験がある身なので、活字には多少の興味がある。新聞屋も印刷屋もオフセット印刷だったので活字との縁はなかったが、活版でないと印刷できないのが一部あり、そういう注文が来ると活版印刷機を持っている同業者に依頼しに行ったものだった。
どういう注文かといえば和紙の印刷で、文人気取りのおっさんとかがまれに和紙の名刺を注文する。受け取った台紙と原稿をその同業者のところへ持っていくと、当時70代くらいと思しき爺様が「やっときます」と受け取る。その奥の方に、確かに活字の棚が見えたのだが、印刷するところは見たことがなかった。
活字の仕組みは知っていたが、版をどうやって作るのかはよく知らなかった。一番の疑問は、空白部分をどうしていたのかで、今回ようやくその疑問が解けた。写真は、右の名刺の版だが、こうやって版を組み上げる。集めたパーツを紐で縛り、印刷機の固定具にはめ込んで印刷するようだ。
行間の空白部分を埋めている金属片をクワタというらしいが、そういえば新聞屋の古株の人は、「クワタ」という用語を使っていたと思い出した。活版の空白のことではなく、そこから転じて、何かの記号を指していたような覚えがあるが、記憶があやしい。
係りの人々が優秀で、こちらも多少の知識がある分、聞きたいこともいくつかあって、会話が楽しかった。そしてカフェコーナーには悪乗りもいいところのメニューが置いてあった。シアンやマゼンダの再現はよくできている割には、やはり黒い飲み物は再現が難しいんだな。
- 2023.08.30 Wednesday
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- by 森下淳士