【逸脱の安息日】チョコミント
2009年撮影@ソウル(ピンボケにつき加工)
コンビニに立ち寄ったとき、何気なくアイスの売り場を長めていると、商品が1つ目に留まった。「ブラックサンダーアイス チョコミント」。
そもそもアイスを買うつもりすらもなかった俺だが、ついそれを手に取り、レジに向かった。チョコミントが好きだから、というわけではまったくない。むしろずいぶん昔に食べて受け付けなかったので、それ以来食べていない。それがいつなのか全く覚えていないが、大学1年生のときに初めて出演した舞台の台詞でチョコミントの存在を知った覚えがあるので、食べたのも四半世紀ほど前だろう。それほど長いこと食べていないものをコンビニなんていうイージーな場所で入手できるというのも、ちょっと不思議な気分になる。
チョコミントは、定型化したつまらない議論の格好の的となる代表的存在である。うまいかまずいか、そんなものすきずきだろ、で終わる話だ。「すきずきだろ」はものによっては明快な答えのようでいて、実はただの無責任というケースもある。
「先生、俺大学行った方がいいと思いますか」
「すきずきだろ」
いや先生の責務は!とか。
だがチョコミントなどという、いってしまえば他愛もないおやつの場合、糖分摂取かカフェイン摂取に注意が必要な特別の事情がある人以外は「すきずき」で済む話だ。
ある食べ物が嫌いという人の話は、まれに勉強になるときがある。へえ〜そんな感じ方があるのかというような発見である。そう感じた経験があるというだけで、具体的に何の食べ物についてどういう感想があったのか何ひとつ覚えていないので「勉強になる」は言いすぎだった。
唯一覚えているのは、
「なすびが嫌い、口が荒れるから」
「緑茶が嫌い、口が渇くから」
「ふりかけが嫌い、口がパサつくから」
と口のコンディションに異常に潔癖な男(河崎)の話だが、この場合はへえ〜を超えて、彼が何を言っているのかよくわからなかった。
「嫌い」の話はしかし、多くの場合は聞くだけ不愉快なだけだ。なぜか人はしばしば嫌いな食べ物については、自身が嫌いというにとどまらず、「好き」の人を攻撃する。「あんなの食べるやつの気がしれん」。こんな感じ。
ただし「好き」の人が「嫌い」の人をなじるところからこの無駄な戦争が始まる場合も少なくない。「おいしいのに」「この旨さがわからんとは」。親が子供に好き嫌いをなくさせようとしているのならともかく、大人同士だ。相手の趣味嗜好を云々するのは慎重でなければならん。
そしてチョコミントの場合、半ばお約束のように「うまい/まずい」論争が始まる。しいたけやナスのように、美味しい食べ物として供応された中にしっかり入っていて青ざめる、というような気まずい状況とは無縁の、嫌いなら嫌いで一生大過なく過ごせそうな食べ物だけに社会性はより低い。「うまい/まずい」論争のしょうもなさ指数はその分より高いと思うのだが、しょうもない話だけにかえってお約束が発動しやすいのだろうか。非難がオートマチック化すると、周囲が否定すればするほど殉教精神が芽生える不幸にもつながりかねない。
定型化された話というのが嫌いである。先日も友人と話していた際、Zoomを使ったテレワークで、女性社員の背景に映り込んでいる自宅の様子に言及するとセクハラになる、という話の流れから友人が「そんなこと言い出したら何も言えんくなる」とコボすので、思わず「いくらでも仕事の話しろよ」と大きな声を出してしまった。
セクハラやパワハラの話においてお約束の「そんなこといったら〇〇できなくなる」というボヤきの陳腐さに加え、「何も」言えなくなるはずがない科学合理性のなさについ苛立ってしまったからだった。ついでにもし本当に「何も言えなくなる」のだったら普段の言動が完全にセクハラ相談室行き案件になるのでダブルで「ちゃんと仕事しろ」という話である。
そういうようなわけで、ブラックサンダーのチョコミント味を見かけたとき、俺の中で、チョコミントうまいまずいのくだらない論争に終止符を打たなければならないという義務感にかられたのだった。
何せブラックサンダーである。戦前に存在していたら、ハーシーズなど駆逐して戦争にも勝ったんじゃないかという気すらしてくる信頼のブランドである。俺は賭けることにしたのだった。
そしてやはりブラックサンダーは裏切らなかった。こうして俺はチョコミントを克服し、うまいまずいの論争に対して「別に好きでも嫌いでもないけど、まあモノによっては美味いんじゃない」と、この論争に対する最も白けるひと言を、実感を伴って言えるようになったのだった。
そして探究心すら生まれてきて、結果、スーパーカップのチョコミントが今のところ最も美味いのではないかと感じている。ミントの香りがろくにしないからだが。
- 2020.06.28 Sunday
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- 10:52
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- by 森下淳士