【やっつけ映画評】ふたたび

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      高々5年でかつ中身もスカスカという俺の記者経験の中で、唯一人並みに仕事をしたなあと思うのが、本作のストーリーの軸となっているハンセン病だ。とっくに完治した患者たちを、法律でずーっと施設の中に閉じ込めていたという特異な歴史を辿った病気で、その歴史ゆえに出会った人出会った人がみんな印象深過ぎる人たちだった。

     なので個人的にとても思い入れのあるテーマなのだが、それをドキュメンタリーではなく、劇映画として扱った作品の登場には、己の狭量をさらせば「ちい、先を越されたぜ」というのが正直な第一印象であり、願わくば超駄作であってくれという気持ちも半分あった。結果から言えばいい映画だった。いくつか荒っぽいというか趣味に合わないところもあったが、「アンヴィル!」以来、映画見て落涙したし、見てよかったなと素直に思う。

     先日出演した骨髄バンクの啓発舞台は、関係者の間でかなり好評だったと聞いているが、俺自身も初演の時に客で見たとき、なかなかよく出来ていると思った。あくまで家族モノとして作っていたからだ。事実や知識の普及啓発が目的だったとしても、使う媒体が舞台という娯楽である以上、娯楽作品であること見失っては、ただのスローガン大合唱になってしまう。

     この映画も、冒頭に厚生労働省や医師会の推薦という字幕が出てくることから明らかなように、ハンセン病についての啓発を期待して(あるいは周りから期待されて)の作品であるが、ジャズという舞台装置を持ってきたところがミソだ。

      神戸で何かの店(何の店かちっともわからないのは少し気になった)を経営している貴島家に、爺さんの健三郎が一時帰省してくる。健三郎はジャズマンとして頭角を現してきた若い時分にハンセン病を患い、半世紀に渡る施設での孤独な生活を余儀なくされてきた。健三郎は孫の大翔(ヒロト)を伴って、若き日のジャズバンド仲間を訪ねる旅に出る。

     というような、バンド再結成モノともいえる設定が、後味爽やかな“青春”映画に仕立て上げている。無論そのことで、知識的な部分はかなり控え目だ。例えば、健三郎や、施設を退所した大友という爺さんは、いずれも大金を持っているようなのだが、それがなぜかは説明がない。酔っ払いが「国からせしめた金で」と絡んでくる台詞がかろうじて一つあるが、つまり国が裁判で負けて、元患者たちに賠償金を払った事実を踏まえている。そこまで説明すれば野暮ったくなるから判断としては正しい。

     では本作では、啓発的な意味で伝わるものはあまりないのかといえば、考えさせられる部分は十二分にある。

     それは財津一郎演じる健三郎のディティールだろう。背負わされた運命に対する絶望や諦観、それでも捨てなかった極わずかの大切なこと。それらを滲ませる財津の演技はこれぞ俳優という圧巻の一言であり、劇映画でこういう社会問題を取り扱う意義だともいえる。ドキュメンタリーなどの他の方法ではなかなか伝えにくい部分だろう。厚生労働省や医師会がどこを推薦しているのかは知らないが、俺が「推薦」する場所はそこだ。

     健三郎のキャラは実際に俺が出会った人々と重なる部分も多かった。誰もが家族に「迷惑」をかけることを痛いほど気にしているし、健三郎が「国からせしめた金で」と絡んできた酔客を受け流したように、誰もが侮蔑的なことを口にする人間にいちいち表立って目くじらを立てることはしない。人格者というわけではなく、みんな年を取り過ぎたからであり、その年輪が全部悲しみで出来ているからだ。

     そして健三郎が決してバンド仲間や亡き妻との絆を捨てなかったように、みんな絆と同義のものを求めていたと思う。「知って欲しい」という欲求だ。俺を相手にしてくれたのも、その一点に尽きる。知らない人、偏見を持った人、若い人、とにかく色んな人に知って欲しいと彼らは考えていた。誰かを糾弾するような記事や、お涙頂戴のような記事は「要らんぞ」と何度も釘を刺されたものだ。

     なので、脚本構成上、ジャズを持ってきたのはとても有効だと思う。世代を超えることが出来るからだ。健三郎はジャズのラッパ吹きとして鳴らし、ヒロトも大学でジャズを演奏している。頑固爺と今時の大学生を結び付けられる装置は他になかなかないだろう。
     しかしそれだけに、ジャズの部分はちょっと消化不良だった。健三郎からヒロトに何が伝えられたのかをもう少しはっきり描いてもよかったと思う。

     冒頭、ヒロトは自分の即興を、周囲から個人プレー過ぎるとなじられたことに不平をこぼしている。メンバー同士が即興でぶつかり合うのがジャズだというわけだ。一方で健三郎が大事にしたのは絆であり、それは多分、ヒロトの青臭いジャズ理論より一枚上を行くものだと思う。ラストで健三郎からトランペットを受け継いで演奏するヒロトは、爺さんとの旅を踏まえて一体どんな演奏をしたのか。ナベサダの演奏シーンをくどくどやるより、大事なのはこっちだと思うのだが。ジャズの魂がわずかでも継承されてこそ、「知って欲しい」と願っているあの人たちの期待に応えられる傑作となり得たのではないだろうかと思う。

     蛇足。健三郎が入所していたという設定の、作中現れる施設。あそここそ、俺が幾度となく訪れた大島青松園だ。あの島でのロケシーンはそんなにないのだが、懐かしさとともに「くそ」という言葉がこぼれてくる。

    「ふたたび〜Swing me again」2010日本
    監督:塩屋俊
    出演:鈴木亮平、MINJI、財津一郎、藤村俊二、陣内孝則、古手川祐子、渡辺貞夫

    コメント
    先日、高松から直島に船で渡る際、「国立大島青松園」という行き先があり、初めてその位置を認識しました。
    • okano
    • 2011/09/25 2:42 AM
    一度行ってみて
    • 森下
    • 2011/09/27 10:30 PM
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