【やっつけ映画評】最強のふたり

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      会社員時代の先輩で、酔うと「どうせお前らは俺を馬鹿にしている」と絡んでくる人がいた。俺も含め、大卒者ばかりが占める社内で、その人は高卒だったからである。こちらにすれば、凄く仕事の出来る先輩であったから、馬鹿にする要素があるとすれば「エロビデオ買い過ぎやろ」ということくらいしか心当たりがないのだが、「学歴を気にしていない」という時点でそれは犹っている者瓩瞭淡△任△襪箸發い┐襪ら、反論は全て虚しい。普段は明るく気さくな人だったから、どう接していいのか困惑したものである。

     逆に知り合いの出版記念パーティというやつに出席したときのこと。当然出版業に関わりのある人間ばかりがわらわらといるのだが、出版なんて特に東京の仕事なもんで、俺にしてみれば会話の前提が随分と違う。強豪校に練習試合に言ったら「今年のPLは大したことないな」なんてことを相手校の選手が平気で口にしてて、あーそうか、この学校のレベルになると普段からPLと対等に対戦してんのか、みたいな、終始そんな感覚だった。しまいに「面倒くせえ連中だなあ」とわけもなくイライラしてたものである。

     人間同士がわかり合うのは難しい。学歴だの社会的地位だの親の所得だの話せる言語だの、持ってるものに差異があると事は余計ややこしい。

     本作は、気の合う男同士の物語である。

     ドリスは失業中の前科者。現在はワルというわけではないが、真面目に暮らしているわけでもない。一方フィリップは、大富豪。事故で首から下が動かないから介護者を探していて、応募してきたドリスと知り合うことになる。

     この2人、持つ者/持たざる者どころではないほど、なにもかも違う。所得は天と地ほどの差がある。ドリスが介護員に応募してきたのは、不採用の実績があれば失業保険が貰えるから。フィリップは豪邸、マセラティ、自家用ジェット、何でもある。教養があって芸術を愛し、周りからも尊敬されている。一方のドリスは頭はなかなかよさそうだが、無教養で粗野。肌の色も違うし、年齢もフィリップの方が遥かに上だ。

     逆にフィリップは体がまったくもって不自由で、ドリスは腕っぷしも強く、ダンスも踊れる。だから収支がトントンか、とブラックなことを考える人もいるかもしれないが、こういう場合は、持つ/持たないが、それぞれ加算されるだけのことの方が圧倒的に多いのが人間というものではないだろうか。互いに持たない部分を妬み、一部捻じれの部分があるから余計ややこしい。そういう不幸な関係がやすやすと想像つく。

     この作品は、いわゆる障碍者モノとして注目された。首から下全部が動かないというとても困難な障碍を負った人に対して、ズケズケと遠慮のない態度で接するドリスの姿は、障碍者だからという構えが一切なくて清々しい――。そういう評価であるが、以上のようなことを踏まえると、障碍というのは持つ/持たないの一部に過ぎず、所得、教養、育った環境、ついでに肌の色や年齢等々、あまりに違う人間同士が、なぜか分かり合え友情を育めた、そちらの方が余程奇跡で幸福なことだと思う。著しく金持ちの人間なんかと普通話は合わん。

     障碍を持った人間に対し、遠慮のない態度で接するのは、関わり方としては望ましいやり方のひとつだろう。井上雄彦「リアル」でも、そんなキャラばかり登場する。もちろん常に正しいわけではない。人間なんて色々だから当たり前だ。

     障碍者に対し、遠慮のない態度を取る狎気靴記瓩隼たような態度が、教養や地位のある人間に対して不作法に振る舞うことだ。サラリーマン金太郎はじめ、挑発的な若造ほど権力者にかわいがられるというのはマンガのパターンだ。しかし、これまた常に正しいわけではない。記者時代、若いのをいいことに、地位のある人間に無礼な態度で接して面白がられることも多かったが、「あなたの態度は失礼だ」とフツーにこっぴどく怒られたこともある。

     フィリップにとっては、障碍だけでなく、彼の地位だの何だのあらゆることに対して、ドリスが遠慮がないことがとても心地よかったのだろう。ドリスはただのフールではない。フィリップが高値をつけた抽象画を見て「こんな鼻血ブーみたいな絵、オレでも描ける」といってのけた後、実際に描いてしまう芯のある男でもある。彼ら二人がなぜ仲良くなったかといえば、お互いどこかしら自分というものをしっかり持っているという共通項があるからではないだろうか。人間同士の付き合いとしては、かなりの理想形であり、だからこの映画はとても清々しいのだろう。

    「Intouchables」2011年 フランス
    監督・脚本:エリック・トレダノ 、 オリヴィエ・ナカシュ 
    出演:フランソワ・クリュゼ、オマール・シー、イヴォンヌ アンヌ・ル・ニ
     

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