【やっつけ映画評】スティーブ・ジョブス

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     モノクロ写真が時に雰囲気があって格好よく見えるのは、世の中カラー写真が一般的だからだ。カラーがないか、もしくは希少だったころにはそういう感覚は持てるはずもない。粗食のすすめ、なんて考え方が出てくるのは、食い物がある状態のときだけで、食糧難の国や時代、立場の人間にはそういう発想はない。

     本作の随所に登場するアップル社の有名なリンゴマークが6色のカラフルなデザインになっているのを見て、そんなことを考えた。現在、手近なところで見つけられる同社のマークは総じて単色である。流行り、といえばそれまでだが、パソコンも携帯電話もフルカラーが当たり前の世の中と、パソコンの画像がドットの粗いモノクロ、もしくは原始的な8色表示だけのころとでは、使いたくなる色数の感覚が変化する、ということではないだろうか。

     タイトルそのままに、かの有名なアップル創業者の伝記的な作品である。俺自身が持ったことがあるアップル製品といえば、Windowsのパソコンに入れているiTunesくらいなもので、それ以外にはこれまでひとつも持ったことがない(自主映画の編集とか、バンド音源の編集とかで、人様所有のMacにはさんざんお世話になってきたが)。なので詳しい人間が本作を見れば不満も多々あるのだろうが、俺自身は詳しくないから、その辺はよくわからない。
     それでも有名な人だから、ジョブスという人の逸話とか人物像とかで伝え聞くところはいくつかある。おおまかには、そういうイメージをほぼなぞった内容だった。完璧主義者の激情家、天才だけど非情なやつ。雑にまとめればそんな人物として描かれている。おそらくそれで大体合っているのだろう。未来が見えてしまう彼のような人間にとっては、他人は驚くほど鈍感か怠惰に見えて仕方ないに違いない。だから必然嫌なヤツにもなる。

     中盤以降は、会社の経営方針を巡る政争が中心となるからちょっとシンドイ展開になるのだが、序盤はとても面白く、興味深かった。俺自身は、缶詰と缶切りの話を思い出した。
     
    人から聞いた話だから真偽の程や、詳しい事実関係までは知らない。一昔前の、プルタブを引っ張れば蓋が取れるわけではない密閉構造をしていた缶詰、現在でも輸入物の一部の商品でお目にかかることがあるが、あの手の缶詰は缶切りがなければ蓋が開かない。「缶詰持ってきたけど缶切り忘れた」は昭和のマンガの定番ギャグである。
    ところが、缶切りというこの缶詰にしか用途のない道具は、缶詰の発明と同時に登場したわけではなく、缶詰の誕生から随分後になって世に現れたのだという。それまでは、ナイフで開けるものだとされていたんだとか。つまり缶切りは、イモの皮むき器と同じような「便利グッズ」というわけだ。なので「缶詰あるけど缶切り忘れた」は現代っ子には意味不明のギャグであると当時に、缶詰黎明期の人間にとっても意味不明のギャグになる。

    繰り返すが真偽の程は知らない。だけどありそうな話だとは思う。そしてまさしく本作序盤がそれに当たる。
    例えば、ブロック崩しを作るシーンだ。ゲーム会社に勤めていた若きジョブスは、完璧主義が災いして社内のトラブルメーカーになっていた。協調性を求める上司にジョブスは「一人でやらせてくれ。すごいのを作るから」と申し出る。上司はOKする(どうでもいいが、協調性ゼロのくせにこういういい上司に恵まれているのはずっこいやつだと思った)。さて新作ゲームの開発に乗り出したジョブスは、作業として何をするでしょうか。

    現代の感覚だと、当然、キーボードをカチャカチャ鳴らして素人には意味不明の記号が羅列したプログラムを組む、になるのだが、実際には基盤に集積回路やコンデンサーをハンダ付けするという工作なのである。なぜならこの時代、パソコンがないからだ。

    それどころか、このゲーム開発を手伝った友人のウォズが趣味で作ったパソコンの原型のような機器にジョブスは大興奮する。作業がテレビ画面に表示されてる! つまり実際の順序は逆だったということだ。同時代の人間には当たり前の話だろうが、パソコンがここまで普及した時代の人間にはそうはならない。俺はパソコン黎明期をなんとなく知る世代だから、そっち方面はからきし弱くてもなんとなくはわかる感覚が一応あるのだが、もっと後に生まれた人にはほとんど意味不明だと思う。針がないのに裁縫してる、くらいに映るのではあるまいか。

    そうしてウォズのアイデアに次世代の可能性を見出したジョブスは、パソコンを作って売り出すことを考える。プレゼンをしても全く理解されない中、何となく興味を示した電器屋のオッサンと契約を取り付け、アップル1号機の開発に乗り出す。
    こうして生まれた製品は、ボードだけ。今でいうならさしづめデスクトップパソコンの、本体のみのカバーなし、という形状だ。納品すると電器屋のおっさんは愕然として、「モニター、キーボード、電源がセットじゃないと一般人には売れない」とはねつける。つまり当時のジョブスにとっては、このボードだけが「パソコン」のイメージだったということで、この点電器屋のおっさんの方が未来が見えていたということだ。

    今となっては疑いもしない当たり前のことが、そうではない時代があった。もっといえば、後の時代の人間には、すっかり想像できなくなってしまった「当時の普通の感覚」があった。本作はそこを丁寧に描いていて、実に貴重な作品になったと思う。もしかするともう少し後の時代になれば、いくら資料をかき集めても、気付けない、わからない、となって、こんな風には描けないかもしれない。

    幼少のころ「マイコン入門」みたいな子供向けのマンガ本が手元にあった。兄が買ってきたマンガだった。そこに、未来のマイコンは他人のマイコンや他の家電製品とつながる、などと書いてあって、子供だったし、さっぱり意味がわからなかったことを割と鮮明に覚えている。

    スマホひとつで色々なことが事足りる現在を見ていると、あのころの未来予想図が今実現しているんだなあと、よくあのマンガを思い出す。それらすべてをジョブス一人が作り出したとは思わないが、彼を筆頭に、パソコン産業に関わった人々は、多かれ少なかれ今みたいな社会を想像しながら製品開発をしていたのだろう。そういう恩恵に与っている身としては、映画で手近に歴史を知ることくらいはするべきことなのだろう。そしてそれは、パソコンの歴史に限った話では当然ないはずだ。

    蛇足。「ラッシュ」に引き続き、やっぱり洋画の有名人伝記は当人にそっくりだ。ラストでジョブス以外の登場人物の実際の写真が紹介されているが、みんなそっくりに仕上げていて笑った。こういうのは丁寧な時代考証とかともセットになった演出感覚なのだろう。似せるって大事やね。

    「JOBS」2013アメリカ
    監督:ジョシュア・マイケル・スターン
    出演: アシュトン・カッチャー、ダーモット・マローニー 、ルーカス・ハース

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