メーカーの人々

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      とある仕事の依頼で、ここ最近、某メーカーで取材する日々だ。立場上、詳細を明かすわけにはいかないので漠然とした話になる。基本的には理科のお話である。一般消費者とは無縁の、実にマニアックな商品ばかり扱っている会社なので、車やテレビと違って機器のイメージすらない。そういう海抜以下のレベルから話が始まる。その上難解。取材が終わると、脳がぐったり疲れているのを実感する。

     しかしストレスはない。何しろ理系の人は話が端的で、余計な修飾語や言葉遊びがない。山中教授あたりを想像してもらうとわかると思う。基本、あんな風な人ばかりだ。ついでにこちらがわからないという前提があるので、質問もしやすい。どんなおバカな質問も、無知ですいません、いやいやこちらこそややこしくてすいません、なんてな具合に円満に進む。ただのスカスカ美辞麗句にしか見えない理念を押し付けられることもないし、下手な質問をして「いえですから」と半笑いで説諭されることもない。別にどこかの企業の悪口を言っているわけではない。

     ストレスはないが、話は難しい。物理に化学に統計学に、既に色々出てきた。門外漢にはキツい。
     前に、BBCの記者が書いた「フェルマーの最終定理」という数学上の超難問を巡る歴史についてまとめたノンフィクションを読んだことがある。そのあとがきで筆者が「○○教授には門外漢の私に、実に根気よく説明していただいた」などと謝辞を述べているのだが、「文系の私に数学を教えてくれた」という意味かと思いきや全然違う。筆者の経歴をよく見ると、ケンブリッジ大学で素粒子物理学の博士号取得、とある。数学ではなく物理の専攻だった、と「門外漢」の基準が高すぎて嫌味の域を超えている。
     というわけで、文学部出の俺は門外漢だと大声で主張したいところを、そういうのはやめて、曲がりなりにもそれなりお勉強が出来た身として謙虚に奮闘するのみである。ま、どの道現在の俺の立場で発揮される技術は、わかりにくい話をなるべくわかりやすくかつ面白くかつ、間違いや問題のない範囲でお茶を濁した表現を駆使してまとめる、である。これはサッカー選手のドリブルや、料理人の包丁さばき、演劇人のあめんぼあかいなあいうえおと同じ、売文業の基本である。

     さて技術者の人々ととっくり話してみて、新機軸の開発に必要なことは2つほどあると感じた。1つはどうにかしようとする、ないしはどうにかできること。
     わが身の回りでいうと、ココロックはないものは平気で自分で作ってしまう。以前勤めていた印刷屋のおやっさんも、その辺にあるもので印刷機の補助器具を平気で作って勝手に装着してしまうような人だった。役に立たないものも多かったが、アイデアは凄かった。収納上手のオバサンに似たような感覚だ。それをそんな風に使うのか、というような柔軟さである。我が父親にもそういう素養があるが、全部兄貴の方に行ってしまい、俺にはないものを作ることは、まったくもって平気では出来ない。そもそも不便なまま「平気で」我慢して過ごしてしまうので、作るという発想すら出てこない。
     で、べらぼうに金をかけた巨大なシステムの開発でも、大元の発想自体は、ないから作ろうと、ホームセンターで使えそうなものを物色して、組み合わせる、というそれと全く大差ない。

     もう1つは、入口からして異なるまったく新しい方法が出てくる柔軟さ。例えばこの明かりが暗くてどうもいかんなあというときに、通常は明るくするため光源の種類や角度を色々変えて改良を試みるわけだが、いっそ明かりをやめて音を使えばいい、くらい前提を変えてしまうことである。
     俺が取材しているこの企業の人によると、その業界でこれが出来るのは、もっぱら欧米企業で、日本はからきし駄目とのことだった。理由を尋ねると、向こうさんは世界市場を見てますから、使える研究費の桁が違います、というわけで、要はわけのわからんことばかり考えているろくでなしみたいな社員がごろごろいるのだろう。これらを短くまとめると、よく遊びよく学べということか。我が身を振り返ると、最近ちっとも遊んでいない。世の中全体がそうなきもする。学んでもいないし遊んでもいない。

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