「続く」の続き

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     「続く」と告げた件の続き。本の感想だ。
     最近よく耳にする言葉だ。例えばこういう本だと、妙にいかめしく、悪口っぽく響く。

     「日本の病巣」みたいなタイトルと似たような印象があるのだが、こちらの選書の方は、本家本元、アメリカの反知性主義について述べた本で、歴史の本として面白い。(「日本の〜」の方もそれなり面白かったことを念のため補足)

     起源は、アメリカ植民を始めたピューリタンにまでさかのぼる。のっけから世界史の知識が必要になる話だ。公務員試験でも世界史の出題がなくなっていない自治体を受ける際は、宗教改革のところは出やすいので要チェックである。

     せっかくなので講釈を垂れてみる。ピューリタンとは、宗教改革の時代にイギリスで生まれたいくつもの何々派の総称だ。試験レベルでは、「イギリスのカルヴァン派」で問題ない。カルヴァンはルターと並ぶ宗教改革のキーマンである。
     ルターにしろカルヴァンにしろ、宗教改革の主題は個人の信仰のあり方にある。つまり信者は自分の信仰を見直すことを迫られるわけで、当時の従来のキリスト教徒(カトリックの人々)の一般的な信仰のあり方がどのようなものだったのかはちっとも知らないのだが、とにかくルター派やカルヴァン派の人々は熱心に信者としての務めを果たすことになる。
     少なくとも、おおかたの日本人のように、坊さん呼んでお経をあげてもらったから、あるいは神主にお祓いしてもらったから、儀式は済ませたから意味はよくわからんけど、万事OKとはならない。仏教のたとえのまま続ければ、経典をよく理解して御仏の教えを実践しなさい、ということになる。

     で、アメリカ白人の歴史は、この熱心な信者であるピューリタンたちが、宗教的な理想郷みたいなものを求めて新天地に渡ったところから始まる。当然、人々の生活の中心には、この「新しいキリスト教」がどんと位置している。

     反知性主義というのは、彼らの生活のこういう問いからスタートしている。キリスト教の教義に詳しいことは、信仰心の篤さと関係があるのかどうか。つまり、聖書をめちゃくちゃ読み込んで、これまでの解釈も含め全部頭に入っている人と、その辺は素人理解でしかないが、ハートの熱さは誰にも負けない人では、どちらが「よりよい信者」なのか、ということだ。……、というか、まだ読み終わっていない。読んだところまでの話の理解は、こういうことである。
     まだ途中なのだが、政教分離の起源とか、興味深い話が多い。ついでに筆者の学者としての真面目な語り口の中に、ちょこちょこ茶目っ気のあるいちびりが混じっていて笑える。

     これを公務員の採用に当てはめると、日本史だの憲法だの需給曲線だのの問題が解けることと、試験はさっぱりだが、熱いハートのあるやつではどっちが人材たり得るか、という問いになる。

     で、後者を是とする自治体が増えているということだ。これが公務員採用試験における反知性主義である。と俺が今定義した。
     もちろんキリスト教信仰とは関係がない。関係があるのは、「民間信仰」だ。民間企業の経営風に行政を運営すると、コストカットとサービス向上が実現出来るという考え方だ。大阪市の論文なんか、お題が思いきりこんな具合である。
     
    近年、行政経営の取組が注目されています。行政経営とは、今までの行政運営を「管理」から「経営」に転換し、民間の優れた経営理念や経営手法を積極的に取り入れながら、市民の満足度が向上するよう、市民の視点に立ち、成果を重視した行政活動を展開していくことをいいます。行政経営の取組が必要とされる背景とその目的や取組で得られるメリットについて説明し、実現するために解決すべき課題に具体的にどう取り組むかについて、あなたの考えを述べなさい。

     市長の顔を思い浮かべるまでもなく、言いたいことというか突っ込み所は多々思い付くのだが、この問題文の是非はともかく、採用も同時に企業風になってきているということだ。企業の採用における筆記試験はSPIばかりで、あとはとにかく面接面接集団討論たまに合宿とかエセプレゼンとか。一部、新聞のようにかなり難しい時事問題を出題してくる企業もあるが、こういう「事前の勉強が要る難しい筆記試験」が出るのは極少数派である。

     もう一つは、勉強すると馬鹿になるという古式ゆかしい信仰由来の考え方だろう。役所の四角四面の対応にウンザリしたとか、木偶の坊のごとく要領の得ない職員が出てきたとか、そういう不愉快な経験を持つ人は少なくないと思うが、勉強ばかりしてるからああなったという考え方である。特に最近は、警察等で一年以内に辞めてしまう人間が目立ち問題になっているというから、筆記試験が出来ることより、もっと大事な判断材料があるはずだ、という考え方に寄って行っているのだと思う。

     これは試験の苦手な学生や、試験がすっかり縁遠くなった社会人の転職希望者には朗報だ。逆に、「面接等のアヤフヤな採用が嫌いだから公務員を目指す」という学生には選択肢がなくなることになる。

     結局は、採用する側にとって有効な人材を得られる採用方法がいい方法だ、という小平みたいな話になるのだろうが、にしたってそう簡単に是非は決まらないとは思う。確か朝日新聞は、例年一発目に筆記試験でごっそり落としていたのを、ある時期面接を先にやるという方針に変更したが、結局もとに戻したと聞く。思ったより効果が得られなかったということだろうか。

     ちなみに、数年前の「公務員合格ガイド」みたいな参考書には、なぜこんなにたくさん試験科目があるのかという問いについて、公務員の仕事は多岐に渡りその理解の基礎には数学や歴史や法律といった教養が求められるので必然試験が難しいのです云々かんぬんと解説してある。あれれ、えらい方針転換ですやん、とも読めるし、結局出題している側もなぜ出題しているのかその理由付けがよくわからない、とも読める。
     俺自身は、「決められたことを正確にこなす」のが公務員必須の職業スキルだと思うので、それを試されているのだと理解してきたが、昨今の国会議員、地方議員の幼稚な発言を見るにつけ、「それ間違ってますよ」と諌める教養が公務員には必須な気もしてくる。「戦後史の正体」の孫崎亨氏は元外交官だそうだが、外務官僚は歴史の理解が必須なのでみんな必死こいて勉強したと著作の中で述べている。
     この話にはもう少し思うところがあるのだが、長くなってきたのでその気になれば、また続ける。

    コメント
    「こいつと一緒に仕事してみたい」と思える人がいるのであれば、極論すれば試験方式なんて何でもいいと思っています。
    最大の問題は、組織のトップである面接官に、見抜く目があるかどうかだと、最近まざまざと痛感しています。
    • KJ
    • 2015/04/29 9:36 PM
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