【やっつけ映画評】探偵物語

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     1983年の公開らしい。俺は既に小学生、つまり人格も当時の記憶もそれなりにある年代のころの作品で、公開当時のポスターもうっすらと覚えている。つまり、個人的には手の届く範囲の昔の映画、という位置づけになるのだが、見た印象としては「飢餓海峡」とあんまり変わらないくらいの昔の映画に思えた。なんでだろう。

     同じ俳優が主演する同じタイトルの全然別の人気ドラマがある、という時点で、今だったら違う題名で制作するよう要求されそうな気がする。試しにネットの感想を覗いてみたら、「間違えて借りてしまった」と、半ばクレームのような調子で書いている人がいた。気持ちわからないでもない。なにせ松田優作がちっとも活躍しない(それでも存在感というか説得力というかはやたらにある)。活躍するのはもっぱら薬師丸ひろ子の方で、要は彼女を見るための映画なのだろう。童顔にころんころんの丸っこい体つきで、健気に奮闘する様子は実際もの凄くかわいらしい。それだけで見る価値十分という気はする。

     さてこの「古さ」についてだ。先に断っておくが、「古さ」はこの場合、「悪いこと」ではない。

     そりゃ公開時を知っているとはいえ、30年以上前の話だから、己が年を取ったというだけのことかもしれない。大学生の服装・髪型にしろ飲食店の内装にしろ、何気ない公共の灰皿の形にしろ、東急東横線という都会の電車もまだ駅員が切符にハサミを入れている景色にしろ、時代を感じる。別にこの作品に限らずだが、当時の日本の風俗を知る資料としてはなかなか価値があると思う。そういえばこんなんだったと、当時小学生に過ぎなかったが肌触りの甦るところはあった。おかげで、映像を見る目が史料を見るような観察になってしまったところはある。

     もう一つは、話の古さ。これは「黄金の七人」のときに書いた話と同じで、今こんな内容のフィクションを作るのは非常に難しい。殺人事件に巻き込まれ、警察からもヤクザからも追われる身となった、この大ピンチを抜け出すべく真犯人を探してあか抜けない女子が奮闘する。これだけでもかなり牧歌的な設定だが、尾行したら都合よく密談を盗み聞き出来るだとか、ヤクザの組長の元に堂々と乗り込んで行くとか、こんなのんびりした展開は今では稚拙に思われてしまうだろう。フィクションの世界も、発展と同時に出来ないことも増えたのである。個人的には、そういえば赤川次郎ってこんなんやったなあと、景色と同じく忘れかけていた肌触りを思い出した。ひたすらライトなミステリと思わせておいて、売春等、生々しくえげつない話が急に出てくるところも含め、こんなんやったなあと。

     飢餓海峡は、三國連太郎や高倉健が若い男前という時点で、まるで歴史遺産のような映像にも思えるが、扱っている内容は今でも十分使い回し可能だ。一方本作は、飢餓海峡に比べれば公開時期比較なら約20年、作中の時代設定比較なら約40年は新しい勘定になるが、内容的にはもはや作れない遺産のような作品である。その辺りが、差し引き同じく飢餓海峡、というように同じくらい古く感じた理由かもしれない。
     単に音声のくぐもった質感が、古い映画と似ていた、というだけのことかもしれないが。

     この作品、最初から予想のつくことだが、淡〜い恋の物語でもある。告白してキスする、という流れがそちらの流れのクライマックスになるのだが、こちらもこちらですっかり古いものになってしまった気もする。好きだと告白してキスして終わる、などという脚本を俺が書いたら、周りから心配されてしまいそうだ。いや、それは単に上手く書けているかどうかだけの話で、恋の話はやはり普遍的なものがあるのだろうか。

    1983年日本
    監督:根岸吉太郎
    出演:薬師丸ひろ子、松田優作、岸田今日子

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