映画の感想:高倉健2つ

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    「君よ憤怒の河を渉れ」

     「高倉健に嫉妬する田中邦衛が自分と重なって見えて頭を抱えちゃったよ」と知人がしみじみ語るので、本作が気になって見ることにした。その結果、全然別の作品だとわかった。当人が勘違いしていたのか、俺の聞き間違いか、この際どちらでもいいが、とにかく違った。田中邦衛は出ていたがチョイ役だった。何より「嫉妬」とか「自分と重なる」とか、そんな人間の典型を描くような作品ではまったくなかった。

     強盗強姦の濡れ衣を着せられた検察官・杜丘は、逃亡し真実を突き止めようとするも、警察の包囲網が迫り…、というような王道といえばいいのか、とにかくよくあるパターンのサスペンスだ。古いフィクションは警察の描き方が雑で嘘っぽい、という偏見からすると、(刑事が常時拳銃を携帯している点を除けば)なかなかホントっぽい描き方になっている。杜丘を追い込む刑事を演じる原田芳雄も待ってましたの芳雄節で抜群に恰好いい。

     期待をもって見ていたら、まずはBGMに耳を疑った。逃亡劇にはちっとも似つかわしくない街ブラロケのような能天気な曲調。これはもしや、無実の罪を着せられた男の悲哀を嗤う映画なのだろうか、というくらい強烈な印象を与えてくる。そして、狡猾な芳雄刑事に追い詰められ、杜丘大ピンチ!という場面。こういう場合、主人公がどこに隙を見つけて逃げ出すのかについて、鑑賞者は固唾をのむわけだが、まさかヒグマが乱入してくるとは思わなかった。ヒグマが明らかに着ぐるみなのは、もうこの際ご愛敬でいいというくらいの意外すぎる展開だ。芳雄、豪快に引っかかれて死にそうになってるし。

     さらには新宿に潜伏していることがばれ、大量動員された制服警官や私服刑事が杜丘を追い詰めるシーン。ヒロインに電話で助けを求めると、「私がなんとかします!」と妙案ありとばかりに快諾する。こういう場合も鑑賞者はどのような策を講じてくるのか固唾をのむわけだが、すでに頭のどこかではトンデモ展開を予想している。それがまさか「大量の馬」だとは思わなかった。疾走してくる馬群に大混乱になる警察と新宿の群衆。うち一頭にヒロインが颯爽とまたがっていて、杜丘はどうにか難局を脱するのだった。矢吹丈かよ
     このほかにもツッコミどころ満載の豪快な展開を見せる本作だが、こういうノリの映画のいいところは、黒幕を容赦なく射殺してしまうところだ。この冤罪の背後には大物政治家がいるのだが(杜丘はこの大物の虎の尾を踏んだから消されかけたという構図だが、踏んだ尾の正体がこれまた汚職とかそんなレベルではない全く予想外の代物だった)、この黒幕の関与を証明する証拠はない。こういう場合、主人公の名誉は回復されるもののホントの悪はのうのうとしている、現実ってのは世知辛いね、というのがオチの常道だが、本作の場合は「証拠はあるのか、うははは」「うるせえ!バキューン」(←芳雄)で片が付く。あー、すっとした。時間を返せ。

     ちょっと面白いと思ったのは、これくらいデカい悪になると、発砲した芳雄を立件すると藪蛇になるので、むしろウヤムヤにされやすい、つまり殺して正解だったということで、ちょっとした発見だった。そして冤罪は晴れたが、杜丘が逃亡中に犯した罪(無免許飛行機操縦など笑)はちゃっかり問われているのは新鮮だった。

     あとこの可哀想な黒幕が「皇紀2635年の歴史と伝統を忘れて日本を社会主義化しようとする不定の輩に残らず思い知らしてやる」と語る台詞は、日本会議の存在に注目が集まる今見ると、ある意味感慨深かった。現代は、そんな薬学に頼らなくても、世の中あんたの望むようになってきているよと言いたくなったが、本作公開から40年くらいたっているので、この黒幕も年齢的にとっくに死んでいる。社会を「変える」のは時間がかかる。今すぐどうにかしたいなら、薬学に頼れってことか?

    1976年日本

    監督:佐藤純弥

    出演:高倉健、中野良子、原田芳雄

     

    「ブラック・レイン」

     昔2回ほど見たような記憶がある。ただのなんてことない刑事モノだと思っていたが、知った人がこの映画がいかに傑作かを力説していたので、では確かめてみようと改めて鑑賞した。改めて見ると、確かに面白い作品だ。子供時分に見たからと言い訳しつつ、不明を恥じつつ。そして、改めて見てみると、かの有名な、阪急梅田駅のコンコースをバイクが走るシーンで、バイクに乗っているのは松田優作ではなかったと気づいた。優作演じる佐藤の部下だった。これは國村準なのだろうか?

     本作の面白い部分は、その知人を筆頭に、多くのファンが指摘している通りで、異文化の人間同士が互いを尊重することで成長する点だ。日本の刑事代表である松本は、独断専行的なニックを苦々しく思いつつ、最後は逸脱行為に出る。一方アメリカ刑事の代表であるニックは、同僚の仇でもある悪役の佐藤を、殺すとにおわせて逮捕することを選ぶ。こういう価値観のすっかり成立してしまったオッサンの、確立したはずの価値観が揺らぎを見せると、個人的にはビビっとくる。そしてこういうことが面白いと感じるようになったのは、三十もとっくに過ぎてからだったように思う。

     さて、ニックと同僚のチャーリーが、大阪に到着したばかりのときに見せる態度は、ほとんど進駐軍である。無論、見たことはないので勝手なイメージだが、「なんで英語を話せるやつがいないんだ!」と言いつつ、英語が通じないのをいいことに、バカにしくさった態度を取る。世界の覇権言語を母語にしている人間の驕りがうまく出ている。都市部の人間は「なんでセブンイレブンがないんだ!」とか平気で言うが、それと同じだ。今時は、スターバックスコーヒーも全国にあるそうだが、都銀は現在でも往々にして地方都市にはないのでご注意を。

     一方の松本は、実直でクソ真面目な男だから、馬鹿にした態度は取らないのだが、彼の上司はアメリカから来た刑事2人をかなり馬鹿にしている。部外者にウロウロされたくないという縄張り意識もあろうが、アメリカ人なんかみんなチンピラというようなアリガチな偏見が、こちらもうまく出ていると思う。だからこそ、2人の友情と、その象徴的なシーンであるラストが活きてくるのだが、お辞儀で謝意を示そうとするニックに、「親友同士はこうするもんだ」と松本がアメリカ式の握手を求めているところがポイントである。日本万歳流行りに欠けているのは、松本のこの態度だろう。お辞儀スゴいで喜んでどうする。

     さて、タイトルは、若山富三郎演じるヤクザのボス菅井が、ニックに語る台詞の中に登場する。菅井が「黒い雨」と評するのは、「日本を堕落させたアメリカ式民主主義」のことである。その点、「憤怒の河」と相通じる部分が垣間見えて興味深かった。

    「BRACK RAIN」1989年アメリカ

    監督:リドリー・スコット

    出演:マイケル・ダグラス、高倉健、アンディ・ガルシア


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