【やっつけ映画評】手紙は憶えている

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     「ラスト5分の衝撃」という煽り文句がついていた。こういうのは大抵後味が悪い。バッドエンドだということもあるし、このラストのどんでん返しのためだけに2時間付き合わされたのかという虚しさもある。
     それでもアウシュビッツサバイバーである老人が、ナチの生き残りを見つけ出して殺そうとするという筋書きに惹かれて見ることにした。で、後味は悪かった。ただし前者のみの「悪さ」で、後者の虚脱は感じなかった。この仕掛けは、ちょっと無理があると思うから、ミステリとしてはB級なのかもしれないが、題材が題材だけに考えさせられる部分はいくつかあった。

     

     先にあらすじを述べておく。妻を亡くしアメリカの老人ホームで暮らすゼヴは認知症で、1日たつと記憶を失う。そのゼヴに、ホームの友人であるマックスが密命を与える。自分たちがいたアウシュビッツで、管理業務に従事していたナチの生き残り(=家族を殺した実行犯である仇)が、名を偽りアメリカで暮らしていることがわかった。その偽名ルディ・コランダーに該当する人物は4人に絞られているので、4人に面会した上で、当人だと確かめられたら殺害する。ゼヴは認知症であるため、計画のすべてをマックスが手紙にしたため、それを懐にしまってゼヴは復讐の旅に出る。

     

     記憶がなくなることと足腰が覚束ないことを除けば、ゼヴは思慮深く、見てくれが偉丈夫なことも手伝ってか周囲も親切で、旅は比較的順調に進む。要所要所で小さなトラブルに見舞われるものの、あまり尾を引くことなく解決するので、どちらかというと淡々と安心して見ていられる。そうして1人また1人と面会していくのだが、人違いである別のルディ・コランダーたち(各自なにがしかの形でナチスドイツとのかかわりがある)にもそれぞれの人生が簡潔ながらも印象的に描かれている。とにかく話の都合上、爺さんばかり出てくるのだが、全員演技が見事だ。

     

     印象的だったのは、外れのルディの1人の息子だ。父の影響でナチ信者になっている。ゼヴが「父の旧友」だと勘違いするや、徐々にナチへの称賛を重ねだし、目の前の爺さんがナチ嫌いという可能性は微塵も考えないその能天気な振舞いが、日本の右翼しぐさの人々と重なって見えた。実のところナチを称賛する彼の父親も、SSや突撃隊といったいわば当事者ではなく、軍の料理人という周辺者だったというのも妙にリアルだった。

     

     さて以下からは、衝撃のラストというのに触れて行く。

     

     3人がハズれだったので、いよいよ本命と思しき4人目との面会である。この4人目の正体が徐々に明らかになっていく過程は上手い。罪を告白する場面の演技も真に迫るものがあって胸を打たれる。しかし何かが微妙にかみ合わず、困惑するゼヴに真実が明かされる。この4人目のルディも確かにアウシュビッツでの殺戮に加担した元ナチだが、探していた仇とは別人で、ゼヴ自身こそが捜していた当人だった。アウシュビッツで家族を殺されたユダヤ人は、手紙をしたためたマックスだけ。ゼヴは4人目のルディとともに、戦後、アウシュビッツに収容されていた被害者を装って生き延びようと、互いに腕に管理番号の入れ墨を彫って偽装していた。つまりは全てマックスが練り上げた壮大な復讐劇だったというオチである。

     

     認知症についての正確な医学的知識はないが、さすがに無理があるという印象だ。そんな強烈な過去を都合よく忘れるものかね、とまず思ってしまう。一応、4人目のルディを通して、過去を消して生きることは描かれており、無理やり感を差し引くことには一定程度成功しているとは思う。にしてもなあ、とご都合主義はやはり漂う。

     

     それでも、トリックを離れてメッセージ的な部分を考えてみると、示唆に富んでいるとはいえる。やられた方はいつまでも覚えていても、やった側はすぐ忘れる。別に戦争じゃなくても、日常的な暴言や侮蔑でもしばしば当てはまる。俺自身もついこの前、山口で友人に「前にお前にこんなこと言われた」と指摘されて、まったく忘れていたものだった。そのような、「やった側はすぐ忘れるし、やられた側はいつまでも覚えている」という構図を、ドギツく戯画化した物語だととらえることができる。

     

     ただ戦争の場合、加害/被害の話ももちろんだが、それと同等に重要なのは、「どうしてそうなったのか」だと思う。今後の教訓という点では、より重要なことともいえる。本作についていえば、殺した/殺されただけでなく、「なぜ殺すことになったのか、加担したのか」だ。彼らナチの下っ端たちは「仕方なかった」というのだろう。従わなければ自分が収容所に入れられる。だが本当にそれだけか。というのも無論あるし、仮に「仕方なかった」としても、仕方なくしたのは何で、今後再び仕方なくさせないためには何が要るのかは、やはり考えなければならない点だと思う。日本の場合も、二度と戦争をしてはならないという反省のもとで加害と被害の話は熱心だったが、どうしてそうなったのかの検証は希薄だった。そのことが、現在加害の話がこじれて面倒なことになっている原因の1つではないかとも思う。

     

     事実を突き付けられたゼヴは、己の過去を思い出し、その瞬間自分に向けて引金を引く。過去を消した卑怯さ含め、犯した罪と再び対面すれば、自分を完全否定するしかなくなったのだろうと想像する。何の不思議もない判断ではあるが、現実にもこのようにして、多くの当事者が口や目を閉ざしたまま生涯を終え、そうして今があるのだろうと思った。後味の悪さは、単に主人公が悪者だったというだけでなく、以上のような歴史にまつわる一側面が付随してくる分、ひときわ濃厚だった。

     

    「REMEMBER」2015年カナダ=ドイツ
    監督:アトム・エゴヤン
    出演:クリストファー・プラマー、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ


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