【やっつけ映画評】レッド・ファミリー

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     気鋭の監督が脚本と制作総指揮を務めた素っ頓狂な設定で描く作品。巷の評価も高いようだが、残念ながら個人的にはチープに感じてしまってちっとも楽しめなかった。もしかするとキム・ギドクは、凝ったストーリーの作品を作るのは下手なんではないかと思ってしまった。

     演劇的なプロットだ。お爺ちゃんと若夫婦、娘、の四人家族が実は家族でも何でもなくて北朝鮮の工作員。隣の家にはおばあと若夫婦と息子、の4人家族がドタバタ騒々しく暮らしていて、嫌が応にも交流してしまう。いかようにでも話が転がせそうな設定で、こういう線対称な構造は舞台にはもってこいである。
     この偽家族が隣のおばかな家族にどのような影響を受け、逆にこのおばか家族もどう変化するか、その辺りが物語の軸になるところだが、これがどうにも弱い。

     例えば工作員たちは、当初、隣の家族を堕落した資本主義の象徴だと捕える。妻が家事をしないことに夫は怒り、夫が安月給で威張りん坊なことに妻は怒って喧嘩が絶えず、おばあと息子はゲンナリしている。そんな家族だからだ。豊かさが人間性を崩壊させるという価値観は、別に北朝鮮の工作員でなくても、多くの人が抱いている。「昔は良かった」系のうるさ型論客などはその代表格だろう。

     一方で工作員たちは、隣の困った家族に真の家族像のようなものを感じて、故郷に残してきた自分たちのホントの家族を思い出して感傷的にもなる。

     本作は、掘り下げ方がこの辺りで止まっているところがとても残念に感じたのである。

     一つには、韓国人家族の方に全く共感を覚えなかったということだ。だらしない妻に偉そうな夫、おそらく典型的な家族像を描くという狙いだったのだろう。にしても、鳥の死骸を隣の家の庭に平気で捨てたり、人としてどうかという点がチラホラある上、夫婦関係も「離婚した方がいいんでない?」と助言したくなるほど望み薄に感じるから、「あれがホンマの家族だ」と言われてもなあ、と思ってしまう。

     工作員の方も工作員のくせに脇が甘い。隣の家族と誕生会をしているときに、テレビのニュースに反応して北朝鮮賛美を始めるのだが、さすがにそれはないんじゃないと思う。工作員がそんな馬脚を現すようなことするかいな、という説得力の問題もあるし、物語の展開としても陳腐だ。こうなってくると、隣の夫婦喧嘩がこちらに聞こえてくるほど筒抜けなのに、大声で部下を叱責する工作員リーダーの声が向こうに聞こえないのはご都合主義なんじゃないかと細かい点までアラとして気になってくる。

     何より一番気になったのは、韓国側の価値観に特に揺らぎがないこと。おばか家族の方は、工作員の偽家族から特にこれといった影響を受けない。北側ばかりが「俺らおかしいんちゃうか?」と自問自答させられ、韓国側はそうではないから、「悪」と「善」が固定化していて、相対化されるものがなく、かなり鼻白んだ。下手に線対称構造にしているので、その辺のかたよりは余計目につくし、自国側に何らかのインパクトがなければ、フィクションにするも意味ないのでは? だって北側が明らかに分が悪いのは最初からわかりきってることだからさ。

     ラストの芝居を始めるシーンは、まさしく演劇的手法で面白い演出だった。あと、鉄工所の職人の元に通うオバサンの情念。肉体関係のある二人なのだが、男が工作員とわかっても「それがどうした」と、この職人兼工作員のオッサンを掴んで話そうとしない怨念のような愛の深さに戦慄すると同時に、妙に感動した。

    「붉은 가족」2013韓国
    監督:イ・ジュヒョン 
    出演:キム・ユミ、ソン・ビョンホ、チョン・ウ


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