【やっつけ映画評】スリー・ビルボード

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     娘をレイプのうえ殺された母親が、道路脇の立て看板3枚に「捜査はどうなってる」と警察を挑発するような意見広告を載せるところから始まる物語だ。住民全員が顔見知りのようなアメリカのド田舎で、クセの強い登場人物たちが入れ替わり立ち替わりして展開していく。印象的な導入だが犯人捜しのミステリではない。意外な展開が目立つが、トリック仕立てがメインディッシュの物語というわけでもない。ネジのはずれたようなキャラが目立つが、ドタバタのサイコホラーでもない。むしろ文学的な作品だった。終わったときは正直「?」となったが、後からじわじわ感じ入るところが出てきた。とはいえやはりわからないことも多い。

     

     劇中、相手からバレバレのヒントを出されているのに「すんません全然わかりません」と大ボケをかますギャグのようなシーンがあるが、俺はこの人物を嗤えない。おそらく何かの意味があるのだろう、思わせぶりな舞台装置は色々あったように思うが、そのほとんどは意味がわからず、気づけてもいない部分も少なくないだろう。その点で「裏切りのサーカス」を思い出した。

     

     あの映画は、「諜報部員の中に裏切り者がいる」という謀略モノの王道のような設定ながら、容疑者が最初から限られているので誰が「モグラ」であってもあまり驚きがなく、ミステリ要素にそれほど魅力があるわけではない。どちらかといえば、ハードボイルド的といえばいいのか、諜報員たちの生きざま死にざまが見せる重量感を楽しむ作品だと思うが、ただし、伏線は見事に貼っている、らしい。二回見たけど、よくわかんなかった。

     

     とはいえ本作の舞台は、英国諜報員のエリートたちの高そうなスーツや高そうな学歴や高度な政治的駆け引きとは全く無縁だ。何も楽しくなさそうな田舎町で、登場人物も総じてロクでもない。田舎の閉じた殺伐とした雰囲気が「ウインターズ・ボーン」と似ている。あの窒息しそうな雰囲気に比べれば、本作はまだカラっとしているが、かの物凄い迫力の刀自とカブる登場人物が本作には2人も出てくる(個人的にはネジのはずれたような十九の女子が最も不気味に感じたが)。

     

     看板を立てたことが物議を醸し、時間が止まったような田舎町に波風が立つ。それどころか物凄いスピードで各登場人物を取り巻く状況も変化していく。この予測のつかない展開が現しているのは、人は変わるということだと思う。変わったわけではなく、元からあった内面が表に出ただけかもしれないが(広告屋のにいちゃんは明らかにそう)、主人公格の娘を殺された母親と、差別的な警官はかなり大きな変化――それもよい方に――を見せている。一定の年齢に達した人間はそうそう変化するものではない上、まるで時間が止まったような田舎町でのことだから、余計にこの変化は感動的で、本作の一番の見どころはこの辺りだと思うのだが、変化をもたらしたものは、はて何だろう。

     

     直接的には途中で届く3通の手紙だ。そしてこの手紙をもたらした原因をさかのぼると3枚の立て看板にたどり着く。つまり看板が差出人に変化をもたらして手紙を生み、この手紙が登場人物たちを変えていくわけだ。共通点は何かといえば、直接相手に語り掛けている点だ。

     

     手紙はそもそも誰か個人が別の誰か個人に語り掛けるものだ。一方で看板は不特定多数に訴える装置だが、この物語の場合は個人名をあげて訴えている。お陰で中傷だと思われてトラブルになるのだが、少なくとも名指しされた当人にとっては手紙のようなものだろう。これに対して本作に登場するテレビ報道は実に扱いが軽い。報道はマスメディアの名の通り、不特定多数に発信するものでありかつ、しばしば「差出人」の主体が曖昧な伝達装置でもある(「今後の行方が注目されます」のような受身形の定型句がその代表的な現れ)。なので手紙のような好ましい変化はもたらさず、騒動に油を注ぐ程度である。

     

     ということを踏まえながらさてラストである。
     

     うまい伏線の回収をへて、刑事が娘を殺した真犯人と思しき男にたどり着く。だが「殺人の追憶」のごとくDNA鑑定の結果はシロ。ただしこの猴撞深圻瓩諒曚筺△修梁召梁羯譴鯀躪腓垢襪函∪鐫呂覇韻犬茲Δ糞潅椶僚蟠箸鬚笋辰討たと推測できる。だったら犯人ではないものの、いけにえのごとく血祭にあげてやろうと母親と刑事は意見が一致。そしていよいよ男の元に向かうため、車で出発するのだが、母親も刑事も互いに「あんまり気乗りしないなあ」とこぼしながら「ま、(やるかやらないか)道々考えよう」と車がしゅーんと滑走していくところで終わる。

     鑑定がシロだったせいで、復讐心や使命感が行き場を失い、結果暴挙に出ようとするも、どうも湿気た雰囲気での閉幕。わかるようなわからないような、と困惑したが、これもまた人は変わるということか。ついでに言えば、あの極悪人ぽい猴撞深圻瓩盧瓩鮗覚するなり悔い改めるなりの変化が見られるかもしれない。

     それで何がどうなるわけではないかもしれないくても、仕返しの心境を乗り越えなければ社会は成り立たない。そんな近代以降の人類史の到達点のようなものを、各登場人物はそれぞれの形で獲得していく物語だから、「気が乗らない」の結果、そちらに着地することを願いたいものだ。ポイントは、彼ら2人がかの猴撞深圻瓩法何を語り掛けるかだろう。あの凶暴そうな男に聞く耳があるかどうかはまた別問題である。最大の問題ではあろうが。
     

    「THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI」2017年イギリス=アメリカ
    監督:マーティン・マクドナー
    出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル


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