【やっつけ映画評】ザ・シークレットマン

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     「大統領の陰謀」の反対側を描く物語。要するに、このおじさんのお話である。

     原題はこの人の名前そのまんま。アメリカ映画では、こういう「半沢直樹」的タイトルは割と多いが、それだと意味がわかりにくいせいか、日本だと「徳川家康」「武田信玄」のように歴史上の人物以外でこういう題をつける習慣がないからか、大抵は差し替えられる(「ランボー」=原題First bloodのような逆のケースも稀にある)。それだったら邦題は、まんま「ディープ・スロート」でいいんじゃないかとも思ったが、同名のエロ映画があるからNGか。というか、そのエロ映画があだ名の由来だけど。登場人物のワイシャツの襟先が軒並みツンツン鋭角に尖っているのがまぶしい作品である。

     

     「大統領の陰謀」で強烈な存在感を放つ情報提供者「ディープ・スロート」が主人公で、題材も当然ウォーター・ゲート事件だ。「陰謀」での主人公だったウッドワードも超脇役ながら登場する(あと、「陰謀」では名前しか登場しない事件関係者も若干名登場する)。夜の立体駐車場が両作の交差点だが、これだけで「キターーー!」と気分が昂揚する。そして、「陰謀」よりもリアルに、いかにも会社連泊が続いてそうなヨレヨレのシャツ姿の若者が現れるのを見て、なぜだか目頭が熱くなった。40過ぎてこの方、涙腺の感覚がすっかりおかしい。この、同じような場面が別視点から再生される様子は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」あたりのタイムパラドックスものを思い起こさせる。

     

     本作のテーマは、「官僚」とは何ぞや、だろう。「ロシアゲート」などとウォーターゲートになぞらえた疑惑が指摘されているトランプ関連のニュースを見れば、なぜ本作が制作されたのかは想像力を働かせるまでもない。そして本邦にとってもタイムリーな内容だ。
     主人公のマーク・フェルトは、「陰謀」では、「素性も理由もよくわからないがヒントをくれる人」でしかないが、それもそのはずで、作品公開当時はまだ謎の人物のままだったから、これしか描きようがない。フェルトが死の直前に名乗り出たことで明らかになり、本作はその自伝をもとにしている。「高度な情報を知りえるそれなりの立場の男」というくらいは「陰謀」でも想像がつくが、実際にはFBIの副長官だったというから、それなりの立場どころか首脳である。

     

     こういう人が情報をリークしてくる意図は、私怨か世論形成のどちらかと相場が決まっているものだが、フェルトにはどちらも当てはまる。前任の長官がいなくなり、新長官として周囲も当確をささやく中、よそから落下傘的に別の人間が抜擢され、その上フェルトとは考え方が合わない。合わないどころか、完全に大統領側の人間なので、捜査の幕引きを画策してくる。長官がこうだから、副長官が抵抗しようと思えば報道を動かすのは定石ともいえよう。ただし国家公務員としては禁じ手である。本作では機密情報をダダ漏らしているように見えるが、「陰謀」ではヒントをほのめかす具合に描かれている。おそらく後者の方が実態には近いだろう。とにかく捜査の話が新聞にドーンと掲載されるから、部内では当然「漏洩した裏切り者を探せ」ということになり、それと同時に事件潰しは着々と進行する。展開は割に地味だが、この緊迫感に惹き込まれた。

     

     ニクソン大統領がFBIに介入しようとしたのは、前任者の存在が大きい。創設者にして長期独裁を敷いたJエドガー・フーバー長官は、歴代大統領の醜聞を収集して主導権を握る陰湿な人だった。この辺りは「Jエドガー」でも描かれている(同性愛の恋愛劇と出来の悪い老けメイクばかり印象に残っているが)。捜査機関が自身の情報収集能力を濫用しているような格好だから、官僚の暴走といってよい。彼の退場とともに、ニクソンがFBIに首輪をつけようと考えたのは必然だろう。

     

     これは好意的に解釈すれば、軍隊のシビリアンコントロールみたいなもので、強大な権限を持つ国家機関を野放しにしておくわけにはいかず、国民全体の奉仕者として適切に管理されなければならない。
     とはいえ一方で、全てが大統領の下にあるのは、これはこれでいかがなものかという実例が本作の扱っている出来事でもある。己が関与した犯罪の捜査にストップをかけることができてしまっては正義はどこにあるというのか。ニクソン自身、官僚の暴走を防ぐというような崇高な考えのもと首輪をかけにきたのではなく、もっとわかりやすい理由に基づくものだというのは、冒頭、前長官の秘密資料を「よこせ」と言ってくる時点でまるわかりである。

     

     本作の8割以上は、「大統領だろうが誰だろうが犯罪は犯罪として捜査し立件する」という捜査機関の独立性をめぐるフェルトの奮闘が描かれている。じゃあ残りの2割弱は何かといえば、これは後で触れる。


     

     巨悪に立ち向かう捜査官の矜持。フェルトの姿は刑事モノの醍醐味を地で行きつつ、併せて官僚のありさまも示している。四角四面の美徳といおうか。FBIは独立の機関だから干渉は許されない。フェルトが訴えているのはこのような原理原則である。先日、国会で「太田理財局長は民主党政権時代の野田総理の秘書官を務めていた。増税派だからアベノミクスを潰すために、安倍政権を貶めるために、意図的に変な答弁をしてるのではないか」と和田という議員に質問された太田氏は、「それはなんでも」を3回繰り返して否定していた。人間振り切れると感情が混線して発露がおかしくなるという見本のようなありさまで、さすがに同情した。こういう感情表現を演じられる俳優はいるのだろうかと脱線の想像をしつつ、官僚とは何ぞやの格好の素材だとも思った。相手が何党の誰であろうと「お仕えする」というのが太田氏にとっては疑いない原理原則で、そこを穿って見られると閉口するしかない。彼の後ろで目玉をひん剥いていた部下の人も同じだろう。

     

     正義を貫く一本気の男フェルトVS巨悪のニクソン、の意をくむスネ夫上司その他、という構図には、当然フェルトを応援することになるのだが、現実世界では、特に行政職の官僚についてはあまり評判はよくない。むしろフェルトのような姿勢は「独善的」

     

    「融通が利かない」「頭でっかちバカの典型」というとらえられ方をすることもしばしば。なので官僚を批判する政治家が人気を得る。無論、政治家の大事な仕事の一つは既存の法制度の改廃であるから、ぶつかり合うのは必然である。そこはやいやいやればいい。だけど官僚叩きが自己目的化するとろくなことにならないというのが明らかになっているのも事実である。「わたしは、ダニエル・ブレイク」しかり。そんなよその映画を持ち出さなくても、大阪がまさしくそうだし、大阪発の不透明な話が目下政府でエラい不正に発展している。官僚の独善や権益を批判する政治家の側も常に問われなければならないということだろう。というわけで、ウッドワード以下、報道の皆さん出番ですよ、ということになる。FBIの副長官ですら、時と場合によっては頼らざるを得ないのであるから、「ペンは剣よりも」を改めてかみしめてしまう。大抵はニクソンを退陣に追い込んだ部分のような場面を想定して使う格言だと思うが、その手前のよろず相談承り〼の部分もまたしかりなのだなあ。

     

     ただし、こうして正義が貫かれました大団円、で終わっていないところが本作のポイントだろう。
     終幕、と思わせておいて映画はテロ組織に対する違法捜査の裁判を描く。無辜の市民を餌食にする極悪組織はどんな手を使っても叩き潰せとフェルト自身が号令をかけた捜査を巡って彼は有罪となる。どんなに許すまじ犯罪集団であろうと、どんなにフェルトが真っ当な公務員であろうと、違法は違法。百も承知のフェルトは全部自分がかぶって罪を認めるわけであるが、もしもフェルトが反論すれば、これは先日見た演劇のお話になる。
    とにかく政治の不当な干渉があると公務員の世界はおかしなことになるわけだが、かといって彼らが思うがままに振舞えば、それはそれで関東軍なことになる。じゃあその匙加減はいかにといえば、それこそが法の支配ということで、当たり前のところに着地する。個人個人はそんなに完璧じゃないんだというのはフェルトを見てもわかることで、いわんやニクソン以下その他登場人物をや。ならば長年積み重なった叡智に従うしかなかろうて。


    「MARK FELT: THE MAN WHO BROUGHT DOWN THE WHITE HOUSE」2017年アメリカ
    監督:ピーター・ランデズマン
    出演:リーアム・ニーソン、ダイアン・レイン、マートン・ソーカス


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