【やっつけ映画評】マルクス・エンゲルス

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     鑑賞のためスカイビルにある映画館に行ったところ、結構な数の観光客がいた。中華系以外も多数いてかなり人気のようだ。いずれも展望台目当てなのだが、「エレベーター乗り場は3F」と表示があるものの、3F行きのエスカレーターは、吹き抜けを登っていくため実質2階がなく、最初に現れる床が2階なのか3階なのかわかりにくい。結果、間違えて4階まで行き「???」となる人々も少なくなく、目の合った何人かとは身振り手振りで教えてやった。せめて韓国人くらいには、「あっちだよ」くらいの超カタコト韓国語を披露したいと欲張ったが何も出てこなかった。

     それで本作を見たら、登場人物たちによる多言語が飛び交うこと飛び交うことのフライボール革命。いや、本作の主人公を考えると革命という言葉を軽く使うと危ういか。とにかくマルクスなど「英語勉強しなきゃなあ」と言っているうちに、場面が変わるとやたらと流暢に喋る上「イギリス人風にいえばhand in gloveさ」と、慣用句まで使いやがる。やんなっちゃうねえ。


     原題「若きカール・マルクス」の通り、30になるかならんかくらいまでのマルクスが主人公の伝記モノだ。実在の画家や音楽家の伝記映画は珍しくないが、哲学者というのは「ハンナ・アーレント」以来。あちらはひたすらタバコ吸いながら難しい話をし続ける内容だったが、本作は議論だけでなく、労働者にぶん殴られたり官憲に追い回されたりと、なかなかエキサイディングだ。
     おそらく左翼運動華やかりしころを生きた人々にとっては、青年期のビートルズかローリング・ストーンズの伝記映画でも見ている気分なんだろうと想像しながら見た。有名なエピソードを映像で再現しているところにニヤリとしつつ、「何だ、知ってる話しか出てねーじゃんかよ」とか「あの話は省略かよ」とかボヤきつつ。そんなことを感じたのは、マルクス単独の話というよりエンゲルスとのバディものみたいになっているからで、その辺りがバンドを連想させたのだろう。見終わって、やけにワインが飲みたくなったが、微妙に体調がすぐれなかったのでぶどうジュースで誤魔化した。似て非なるものだった。


     ちょうど仕事で産業革命についてさも知ったように説明してきた帰りだったので、マンチェスターの紡績工場がスクリーンにどーんと出てくる様子は圧倒された。やがて共産主義を生み出すことになる資本主義の矛盾が、肌感覚で伝わってくる様子は興味深い。そのような社会問題を前に、ジャーナリスティックに2人が行動していくので、劇映画が成立する。その点、哲学者が主役の映画というよりは、「ペンタゴン・ペーパーズ」に近い。実際マルクスは新聞で書いてたし。ついでにマルクスが必要以上に喧嘩腰で相手を批判する結構面倒ななヤツなのだが、その辺りはシャーロック的でもある。

     

     映画は、共産党宣言を著す場面がクライマックスとなっているが、あの文章の妙な力強さの雰囲気は映画の中にもよく出ていると思う。マルクスの他の著作もそうだが(というほど読んでないが)、やたらと力強い。漢文的な洋式的修辞法かつ、演説のようなアジテーションもありつつ、現実や学識も押さえている。要するに物凄く頭がいいのだろうと思う。シャーロック的振舞いになるのも、その頭脳明晰さによるのだろう。

     

     映画はここで閉幕するため、その後彼らが仕上げた共産主義が怪物になる様子は描かれない。エンドロールには、抵抗運動を中心とする歴史映像が使われているが、暴力的な社会主義指導者は登場しない。このため、その後の恐怖政治化の検証もなく顕彰しかないのは今更だという批判も成立する。一応、論的を叩き潰さないと気が済まないマルクスの態度とか、総会でかなり強引に看板のすげ替えを実行するエンゲルスの振舞いとか、その後の共産主義団体が歩む萌芽は見て取れなくもない。元気のいい若者を、おっさん連中が面白がって好きにさせたら足元救われた、というのも社会主義国の建国史にもみられる現象である。まあ何主義であろうと政治はそんなものだが。

     

     ただ、共産主義が全体主義になるという批判もすでに今更なところはあって、その崩壊をとっくに人類は目の当たりにしている。どちらかといえば、本作で描かれていることは、古くてかつタイムリーな内容になっているというのが、少なくとも日本においては当てはまる。

     高プロの旗を振っている経済団体の面々と、本作に登場する工場の経営者はぴったりと重なって見える。時計の逆回し現象であるが、労働行政がなかったころの人間と、とっくにある時代の人間が同じことをいっているのだから、低賃金長時間労働でないと経営が成り立たないと自ら無能を吐露しているトホホ度合は増している勘定になる。そうするとマルクスみたいに喧嘩腰でモノを言うしかない気はしてくる。冒頭、森で木の枝を拾うのは窃盗かという問いが出てくるが、水道民営化をした国では雨水も企業の所有になったから遠い昔の話ではない。こうなってしまうと、そりゃ暴れるしかないよ下々のみなさんたる我々は。必要以上に噛み付く15の夜的彼の態度に、やむかたなしと妥当性を皮膚感覚として感じれてしまう我らが社会の現在地点がやるせない作品でもある。


    「Le jeune Karl Marx」2017年フランス=ドイツ=ベルギー
    監督:ラウル・ペック
    出演:アウグスト・ディール 、シュテファン・コナルスケ、ヴィッキー・クリープス


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