本の感想と反省

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     昨年のことだったか、知人から雑誌の記事を見せられ「どう思うよ」と問われた。販売数ガタ落ちで、斜陽どころか日没にさしかかっている新聞は、いかにすれば復権するのかというようなテーマで、現職だったかOBだったか、とかく各社のエラい地位までいったおじさんたちの鼎談が載っていた。知人が言いたいのは、そこでなされている会話が十年一日状態の、いったい何十年前からそんな話をしているのだという内容で、そんな拙い現状認識だから売れないのだと、そういう話だった。確かに、まるで環境悪化で滅亡寸前のときにゴミの分別を話し合っているようなまるで現状認識が著しく欠如した内容だった。


     売れなくなってきたものをどうやって復活させるか。そんなことはまったくわからない。少なくとも中身を作っている編集の立場であれば、もっと面白い内容のものを、と考えるしかない。それが売上につながるかどうかは残念ながら不透明だが、それしかできることがないのでやるよりほかはない。でもどうやって?という肝心の部分について、何かと話題の本書はひとつの大きな提案をしている。


     色々と反省させられる本だ。一つには本書で紹介されている大手メディアが裏で使っている用語「泡沫候補」を俺も以前に使ったことがある点。ほとんど勘定のうちに入らないが、選挙の取材はちらっとだけ携わったことがある。政党が推す「主要候補」は先輩に任せていた(押し付けていた)ので、俺はもっぱらその他の面々を担当するのだが、本書のいう無頼系独立候補にめぐり合わせたこともある。
     あるときは、何を話しているのか相当理解に苦しむ立候補予定の男性が現れ、上司から「こんなわけのわからんやつ、立候補を取り下げさせろ」と命じられた。そんなことできるんかいな、というかやっていいのかそんなこと、と疑問に思いながら自宅を訪れると、すでに家族に説得されて辞退を決めた後で、その旨告げられ、余計な作為を駆使せず済んで安堵したものだった。

     これは結局立候補していない例だが、立候補に踏み切った人もいる。その人の場合、随分不思議な文字列の名前(珍しい苗字というわけではなく、占い師あたりが名乗りそうな名前とだけ書いておく)を名乗っていて、別に選挙で名乗る名前は「グレートサスケ」だっていいのだから問題ないはずだが、勝手に警戒感が生まれてしまい、一方で主張は一定の合理性がある。それで「泡沫」の扱いにするのかどうか社内でも議論になり、結果候補者が少ないこともあって「主要」の扱いになった。だが、いざ告示となると、選挙運動がかなりグダグダだったので「泡沫扱いでよかったやんけ」と怒られた。だが本書を読むとあれでよかったのだというところに落ち着く。

     

     ただし、この辺りのドタバタを後年、拙作の台本に盛り込んだのだが、描き方としてはただのキワモノだった。演じた酒井君が「おかしな人だが情熱はただならないむしろ愛すべき人」くらいのキャラクターを仕上げてくれたので結果的には反省も半分で済んでいる。本書に登場するマック赤坂などは、あのとき酒井君が演じたキャラクターと重なるところはある。
     ついでに身の回りに立候補をした人もいて、1人は昔のバイト先の社長で、もう一人は高校時代の同級生、あと演劇関係者で、知り合いの知り合いくらいの直接は特段付き合いの人がかつて立候補したことがあるという話も聞いたことがあった。前者2人は政治を志しても全然不思議ではないタイプだった上、3人目の人も外見がいかにもタダ者ではない怪優的な人だったのだが、いずれに対しても、まず思ったのは「何してんだ」という程度の感想であり、応援とか歓迎とか尊敬とか、そういう感覚は皆無だった。これまた本書を読むと反省させられる。

     

     そしていよいよ、年下の知り合いが地方選挙に立候補を予定していると知った。大学生のころから社会問題に関心がありつつ、ありすぎて空回り気味のある意味心配な若人であったから、以前なら「何してんだ」と思ったはずだが、天が挽回の機会をくれたのか、実にタイムリーで「おお、すごい」と素直に歓迎できたのはありがたいことであった。すっかり音信不通で、立候補の件も別の人からのまた聞きだったのが、偶然出会って激励できた。
     首相が大阪府連の総会か何かで来阪するというので、丁度仕事終わりの時間と使用路線が都合よかったので見物にいくと、若干名のアジ演説の若者とそれを囲む大量の警備部のお勤めご苦労さんです部隊に出くわした。そのうちの一人が彼で、ある意味偶然というよりは必然だったかもしれない。攻撃的にアジる担当と、共感を求める緩和担当の硬軟織り交ぜの軟の担当をしていて、政治家みたいななかなかに見事な話しぶりだった。そのうち、一人の紳士が無礼な演説はやめろみたいに食って掛かって警備部のお勤めご苦労様です部隊が割って入って軽いもみ合いになったのを、面白がって写真を撮っていたのだが、帰宅してPCに移そうとしたらエラーになって全部消えた。おー怖。

     

     彼らのように、政権に対する不満や反発を訴えるのは、そう感じるならそうしろという点、憲法がいう不断の努力というやつの例の一つである。ただしなかなか真似できるものでない。立候補ともなると尚更だ。なので素直に敬意を表すると、本書がいうのはまずその点だ。
     もう一つは報道について。政党のバックアップがない彼らはただでさえ徒手空拳なのだが、報道もロクに触れてくれないので公約や主張を知ってもらう機会が圧倒的に少ない。これは有権者の選択肢を奪っているのではないかというのが本書の指摘である。報道側にも言い分はあって、一つは紙面の都合だが、もう一つは独立系の人々には常人には理解しにくいぶっ飛んだ人もいること。例えば俺が出会った結局断念したあの人は、本当に何を言っているのかよくわからない摩訶不思議な人だった。仮に主張を取り上げるとしたら、相当苦労したと思う。本書にも登場する桜井某のように差別言説を振りまく候補の扱いも難しい。NHKの政見放送のように、これはこういう枠、という約束事を用意しないと、新聞が差別に加担する格好になってしまうのではという懸念は当然働く。本書も扱いに苦慮したとみえ、登場するには登場するが、あまり字数は割いていない。
     一方で、では政党がプッシュする「主要候補」はしっかりした主張をしているかというと必ずしもそうではない。与野党問わず、スカスカの主張しかできない空っぽの人も時にいるのは事実。本書はその辺りを比較していておもしろい。


     ただ何より惹き込まれたのは、独立系の人々の奮闘ぶりで、別に奇人変人大集合なキワモノ的面白さというわけではなく(たまにそんな場面もあり、男性器の俗称が「選挙」というテーマなのになぜこれほど登場するのかと不思議な本でもある)、熱い戦いぶりに結構感動する(主張には賛同できないものも多いが)。これは選挙報道のかなり強烈なアンチテーゼになっていると思う。こんな面白いものになるのかと、驚きもした。こういう報道ができれば、これはこれで民主主義の成熟に役立つだろう。売上が伸びるかどうかは知らないが。


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