舌が肥える

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     「舌が肥える」という言葉は、プラスマイナスどちらの意味だろうか。辞書でも二通り紹介されている。モノの違いがわかるようになるというプラスの意味と、好みが贅沢になるというどちらかというとマイナスの意味合いを込めた使い方だ。
    知らないことだらけだった若いころは、前者の意味がケースとして多かった。大阪のたこ焼き、香川のうどん、高知のカツオ、どれも最初食べたときは、これまで食べたものとのあまりの違いに心底驚いたものだったが、しかしこれはモノ自体があまりに違うので、舌が肥えるという話かどうかは疑わしい。

     

     ここ何年かは、人と酒を飲みに行く機会がひところに比べてぐっと少なくなったため、外で何か美味いものを食う食事芸人みたいな行為は縁遠くなったのだけど、それと反比例するように舌の肥えを実感している。基本的には地味な食材についてで、これまで気にもとめなかった違いが急に気になりだすという形として現れている。

     

     例えば去年くらいから、俺は料理酒を変えた。これまでは、合成清酒を使っていた。いわゆる「料理酒」より安い酒である。日本酒版発泡酒みたいなもので、清酒風だが清酒ではないので税金の関係で安い。調味料だから、こんなもので構わないだろうと使っていて、長年特に不都合も感じていなかった。
     しかし、昨年くらいから、自分で作った煮物がやたらとマズく感じ出し、原因(=マズさの味成分)を考えるに、これは料理酒のせいではないかと結論づけ、安物の清酒に切り替えた。多少値段は上がることになるが、マズいのだから仕方がない。結果、マシな味付けになった。
     そういえばこんなこともある。納豆は、発酵のせいか、冷蔵庫に長々と入れっぱなしにしていても案外大丈夫で、消費期限ではなく賞味期限と書いてある通り、期限をとっくにすぎても昔は平気で食べていた。ところが何年前からだろう、そう昔ではないのだが、古い納豆は豆がジャリジャリして歯ごたえが気持ち悪くなるということに気づいてしまい、それ以来古い納豆が嫌いになった。昨年出張でホテルの朝食をいただく機会が何度かあったが、バイキングの納豆がまさしくそうなっていたので、二度と取らなくなった。周囲は気にせず食べている人が多いので、己が過度に神経質に思えてきていい気分はしないのだが。

     

     それで最近困っているのが、朝食のパンだ。朝はトーストに、その日の気分と冷蔵庫の中身によって、卵が乗ったりハムが乗ったり何もなかったりする。この食パンに対しても、昨年くらいから段々と嫌気がさしてきた。昔は業務スーパーの60円くらいのやつで平気だったが、やがて受け付けなくなり、10年ほどは大手の百数十円のやつをその日の安売り次第で買っていたのだが、それも限界が近づいているようだ。それで少々値の張るパン屋の食パンを買ってみたり、大手の商品でも若干高額なライ麦パンだの玄米パンだのを買ったりする。すぐに売り切れると評判の店の食パンも食べてみた。いずれも100何十円食パンより美味しいのだが、エンゲル係数はかさんでくる。昨今は、エンゲル係数がかさむのは経済成長の現れらしいから(これは閣議決定されてないんだっけ?)立派な行為なのかもしれん。

     

     それである日気づいたのは「マーガリンをバターに変える」である。元凶はパンでなくマーガリンなのかもしれない。と考えて、改めて値段に少々びくつきながらバターを買ってみたが、予想通りカチカチで塗りにくい塗りにくい。それでマーガリンと混ぜたやつを試すと、味と扱いやすさがちょうどよかった。これなら、元の食パンに戻してもよさそうな気がする。

     

     昔母親と買い物に行ったときに、安売りや半額シールには目もくれず、居並ぶ商品の中でも高めのもの(例えば80円の豆腐の隣にある130円くらいの豆腐)を躊躇なくカゴに放り込んでいく様子を見て、はぁ〜自分は食に関しては金持ちのボンだったのかと驚いたことがある。父親を筆頭に、気に入った商品を食い続けたがる保守的な性向のせいで、「いつもの豆腐と違う」等と文句を言われるのが面倒でそうしていたと理解していたのだが、今の俺と同じく「気にならなかったはずの差異が妙に気になりだした」せいだったのかもと想像した。つまりは、この親にしてこの子というだけのことかもしれん。


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