成長分野の文章

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     普段やっている仕事の多くは資格試験の対策で、使うテキストは基本的に教科書というよりは問題集になる。過去問を集めた内容だが、どれくらい最新の問題を入れて更新するか、その頻度は業者によって結構差がある。年によって内容にそう大きな変化があるわけでもない科目の場合(ほとんどがそうだけど)、20年くらい前のものばかり取り揃えて平気なところもある。入替作業自体面倒くさいし、著作権の絡みで費用も発生するからそうなる。


     大手になるとプライドもあろうから、例年積極的に最新の問題を入れてくる。それでそこから依頼を受けて、いただいた問題集を開けると、国語的な問題で使われている長文に、どうやら昨年度は日本バンザイ利権的な文章が使われていたようだと知った。いよいよ浸食してきた。


     大学や高校の入試問題でも、国語の長文に使用される文章に一定の傾向があるのは昔から指摘されている通りである。それは例えばすぐ朝日新聞からとってくる安直さだったり、一部の物書きに集中するこれまた安直さだったりだが、承諾が得やすい/得にくいという大人の事情以外にも、問題文に使いやすい文章があるというのは間違いない。読みやすい文章、読みにくい文章は受験者の層に応じて重宝されたり回避されたりするし、専門語の解説のようなあまりに個別具体的な文章も使いにくい。文中に絶妙の比喩を用いていると、そこに傍線をつけて意味を問う定番の設問が作りやすかったりもする。

     

     ただそれだけでなく、やはり内容の面白さはある程度選別基準に入っているのではないかとも思う。少なくとも俺が担当している資格試験の場合、過去問の文章は特に新しいやつに関していうと面白いものが多い。西洋の庭園は〜これに対して日本は、みたいな高校生のころにさんざん読まされた逆オリエンタリズム全開のような文章は、20年くらい前の問題だとよく見るが、ここ10年以内ではあまり見ない。このため、まったく更新のない問題集で講義を依頼されると、授業準備がこの上なく苦痛になる。俺自身が読んでいて面白くないからだ。もしかすると問題作成者の読解力も昨今は落ちているので、かつては受験国語の定番だった小林秀雄なんかは敬遠されているのかもしれん。書いてることが意味不明なので問題が作れないとか。まさかね。


     ま、どうせ読むなら多少なりとも目からうろこの文章の方がよいだろうし、俺も助かる。作成者が己の趣味で選んでいたとしても、以上のような事情につき、それはそれでいいことだとも思う。特にある程度読解できる学生が相手の場合、試験としては大して難しくもないから問題を解くだけだと緊張感が維持できない。「この一見実生活とは関係のなさそうな高尚な御高説も、実は皆さんの生活に当てはまるんだよ例えばね」なんて水を向けて、おぉなるほど!なんてことになればしめたものである(というこちらの思惑通りにはならないことの方が圧倒的に多いが)。あるいは読めない学生の場合も、内容が知的好奇心を刺激する方が、読書の入口としてはよい刺激になるというものだ(というこちらの思惑通りにならないことの方が圧倒的に多いが)。

     

     という幸福な時代は短かったということか。もちろん、どの文章も内容が常に正しく完全なはずはない。時代に合わなくなったケースもある。自国の歴史文物を再評価するのが重要なことであるのは言うまでもない。ただしバンザイ利権がこれらと大きく異なるのは論旨が粗雑なことだ。幼稚といってもいい。例えていえば、日本の野球は世界一だと誇る基準が「MLBに認められた」になっている矛盾と同じような構図である。その矛盾に無自覚に書いているのか、それとも売れることしか考えておらず内容は当人にとってもどうでもいいものとしてしか書いていないのか、いずれにせよ、「ここで書いていることの矛盾に気づいた?」という他山の石としては格好の教材とはいえるものの、問題文としての一種の権威を帯びて扱われるのはどうかと思う。無邪気なバンザイは無邪気な差別偏見につながるから、余計に警戒心は働くのであるが、それと同時に、この粗雑な文章を問題文に使った作成者の知性と姿勢を大いが大いに疑わしくなるのも、これはこれで深刻である。


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