【やっつけ映画評】恋人たちの食卓

0

     邦題のせいだろう。特に期待せずに見たのだが、とても面白かった。主人公(?)の女優・呉倩蓮が池上季実子に似ていると思いながら見ていたが、そのうち満島ひかりに見えてきた。彼女が80年代風の髪型と化粧をしたらこんな具合になりそう。特に似ているとも思えない2人の女優が呉氏を真ん中に置くとグラデーションでつながる。


     冒頭の料理のシーンから釘付けになる。台湾のかの有名な圓山大飯店で料理長を務めていたという設定の父親が、自宅の台所で宮廷料理的な豪華な中華を調理している姿がテンポよく描かれる。妙に楽しいシーンだ。でかい包丁を細かく扱う器用さに代表されるように、中華は豪快なようで繊細で、そこが映像向けなのかもしれん。宮廷料理っぽいせいか、工程がやけに多く複雑で、そこもまた惹き込まれる。

     

     この引退したシェフ・朱は、妻を亡くした頑固おやじで、年頃の娘三人と同居している。週末は四人でこの豪華料理を囲むのがルールのようで、三人娘のそれぞれの平日の悲喜こもごもが同時並行で進みつつ、定期的に食いきれない豪華な晩餐になる。「三姉妹」がデカい家に同居している点と長女と次女が勝気な点で「海街diary」を思い出した。「小津安二郎のような」という評も目にしたが、あれらの作品と異なり、意外なことにやけに展開が早い。冒頭の調理シーンと同じくスピーディで、そこが本作の大きな魅力だと思う(長女が決意の変貌を遂げるシーンなんか最高)。小津というより、地味にまとめていると見せかけて結構ぶっとんでいる点、川島雄三だと思った。


     家族というのは、特に親が保守的な場合、ルーティンの比重が高い。子供たちが大人になり人格が確立してくると、個人の人生と家族のルールがぶつかりあってくるからそのうち煩わしくなる。とはいえ、こういう家庭の親は家族に対する責任はきちんと果たすから、自身が自身の選択だけで生きて行こうとするのには多少なりとも罪悪感が伴ってくる。特にこの家庭の場合、母親はすでに亡く、父は高齢だから尚更だ。
     

     そういう立ち位置を最も表しているのが、すでに紹介した池上ひかりこと次女の家倩だ。「キャリアウーマン」という言葉がまだ空洞化していないころ、つまり女性の社会進出がまだ新しかったころに男に伍して敏腕ぶりを発揮する優秀な女性で、最初に「家を出ようと思う」と切り出すのも必然に見える。それがどんどん裏切られる展開になっていくわけであるが、男系の色合いが濃い社会では、女性の場合、「結婚する」は「家を出る」と同義であるところがポイントだ。一見時間が止まったような家族だが、結婚によって大きく変動していく。

     

     子供にとっては家族は世界同様、最初からあるものだ。次女の視点に立てば、途中で下に妹が生まれ、母が死去する変化はあったものの、絶対的ともいえる父親がいて、煩わしい姉がいることには子供のころから変わりがない。だから煩わしいと感じると同時に切っても切れない自己存在の確認の場でもあるわけだが、親にとっては自分一人から始まり、伴侶を得て娘が一人ずつ増えていく格好になる。家族はあくまで一つの段階であって、所与の世界ではない。結婚によって家族の構成が大きく変動する中で、父親も一つの決心をするのは自然といえば自然だ。その選択が驚愕のどんでん返しなので家族モノのくせにミステリのような風合いが漂う。「ショックで気を失う」というのは映画やドラマでおなじみの演出ながら、はじめて説得力を感じる卒倒を見た気がした。それくらいのドンデンだった。

     

     こうして父と娘たちそれぞれが自分の道を進み出し、すっかり時間が止まったようだった4人の食卓を終焉を迎える。そういった中で家倩がラスト付近で見せる涙と選択が、家族と食卓(=それまで暮らしてきた家)の関係性をよく表していると思う。面々は誰も死んでいないし、遠くに行ったわけでもないから家族自体は相変わらず存在しているのであるが、今までの食卓がここにあり、これからもあることの意味は、実に煩わしくも憎たらしくもあり、そして同時に美しくもあり愛おしくもある。

     

    「飲食男女」1994年台湾
    監督:アン・リー
    出演:郎雄、楊貴媚、呉倩蓮


    コメント
    コメントする








       
    この記事のトラックバックURL
    トラックバック

    calendar

    S M T W T F S
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    282930    
    << April 2019 >>

    selected entries

    categories

    archives

    recent comment

    • お国自慢
      森下
    • お国自慢
      N.Matsuura
    • 「続く」の続き
      KJ
    • 【映画評】キューブ、キューブ2
      森下
    • 【映画評】キューブ、キューブ2
      名無し
    • W杯与太話4.精神力ということについて
      森下
    • W杯与太話4.精神力ということについて
    • 俺ら河内スタジオ入り
      森下
    • 俺ら河内スタジオ入り
      田中新垣悟
    • 本の宣伝

    recent trackback

    recommend

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM