【やっつけ映画評】悲情城市

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     子供のころ、NHKで放送していたような記憶もある。少なくともタイトルだけは知っていた(「非情」ではなく「悲情」だというのは最近知った)。が、いざ見ようと思ったら「セデック・バレ」よりも困難だった。台湾映画を代表する作品だと思うが、日本では若干幻の作品と化している。

     

     DVDは通販で買えるがためらう価格である。レンタルはないし、動画配信もネット上の検索では引っかからない。大阪市立図書館は在庫を持っているがリクエスト大好き大阪市民によって結構な順番待ちとなっている。

     

     おとなしく順番を待つしかないのかと思ったら、津の図書館に置いていた。観劇の際に立ち寄ったのは本作目的である。既に書いた事情により、1/3くらいを残して途中でやめたのは、大阪府下でも所蔵があるのを確認していたからでもある。
     というわけで後日、茨木の図書館に行った。津同様レーザーディスクの所蔵で貸出禁止である。館内の視聴コーナーは津のとき同様埋まっているのだろうかと案じつつ、所蔵している中央図書館にいくと視聴コーナーそのものがないという予想外の展開だった。

     

     「いやあ、うちにはもう置いてないんですよ」と、市内の別の図書館での利用を案内された。ただし所蔵はこの中央なので、わざわざ再生機器を置いているところに移送してみることになる。なんのこっちゃ。それにしても事前に電話で聞けばよかった。そう後悔したのは、「中央」という名前の割にはアクセスがやや悪いからで、新駅の総持寺から歩ける距離だと地図で見当をつけていたのが、猛暑もあって無謀な挑戦になってしまったのだった。
     移送の手続きを取って、後日再生機器のある別館を訪れた。開館前に行くべく準備したつもりが少し遅れを取った。案の定、開館と同時に視聴コーナーは占拠されていた。というか、1か所しかないので1人利用の時点で満席となる。電車とバスを乗り継いできているので2時間待つよりほかない。幸いここは図書館なので、時間の活用の仕方はある。休憩がてら、外の喫煙所で煙草を吸っていると、屋根にブルーシートをかけた家屋が目立つのに気付いた。震源地が近いからなあ。

     

     以上のように手間取りながら、大作の鑑賞を終えた。考えてみるとレーザーディスクで映画を見たのは初めてだが、こんなに画像が粗いんだな。VHSと大して変わらん印象だった。そのせいかどうか「本作の影響でロケ地の九份が有名な観光地になった」と語られる説は本当なのだろうか疑わしく思えてしまった。町の印象があまり感じ取れなかった。

     

     大河ロマンの類だ。NHKの歴史モノではなく、海外ドラマでよくある「一家の歴史」を描くテのやつである。冒頭、玉音放送から始まり、台湾から日本人が引き上げていく。半世紀続いた「日本」の時代が終わりを迎え、田舎町の顔役的な一家である林家にも新たな時代が訪れる。この林家と親類や知人らたくさんの登場人物が入れ替わり立ち替わりする込み入った構成だ。「〇〇都市」というタイトルをこれまで演劇で何本か見たことがあり、総じてどれもしょうもなかったが、あれらの演劇がなんとなく理想として思い描いていた世界が本作にはあるのではないかと、演劇的な雰囲気を多少なりとも感じながら見た。まあ単に、登場人物が入れ替わり立ち替わりするところと、視界がカラフルなところが共通しているというだけなのだが。

     

     ある一家(ないしはある町)がたどる波乱に満ちた悲喜こもごも。本作は手短にまとめればこうなる。大河ロマンの定義がまさしくそういうものだろう。その一家なり縁者なりが、実際に起きた歴史的な出来事に翻弄される様子を描くことで、一般人の視点から歴史の激動をリアルタイム的に描くところに魅力がある。本作の場合は、そのような手法で炙り出すテーマが、まさしく「台湾」そのものといっていいだろう。

     

     日本の敗戦と撤退によって、台湾の人々は「日本国民」ではなくなった。これが朝鮮半島と同じようで異なるのは、半島の場合(南北の分断〜内戦という別の悲劇があるにせよ)元の朝鮮なり韓国に戻る、いってしまえばわかりやすい構造なのに対して、台湾は猝瓩覘畧茲明確ではなかった複雑さにあるといえる。

     象徴的なシーンは、主役格の一人、林文清が列車内で絡まれるやりとりだ。複数の男に「日本語を喋ってみろ」と迫られるが、聾唖の文清は言葉が出ない。そのため襲われそうになるのを友人が必死に止めに入る。この日本語を要求したのは何者かといえば、敗戦後であるから当然、日本人ではない。また文清は「憎き日本人の疑い」をかけられたわけでもない(そうだとすれば「日本語を話してみろ」という要求と矛盾する)。

     これは同胞たる台湾人か、外様たる外省人かを確かめる犹邯貝瓩任△襦F本の敗戦・撤退によって、台湾は中華民国の一部となり、国民党政府の人間が上陸してきた。これが外省人で、人数は少数だが国民党の人々なので支配者層になる。一方、元からいた人々は本省人と呼ばれるが、ずっと以前に大陸から渡ってきた人やその子孫がいる一方で先住民族系の人々もいるのは「セデック・バレ」や「KANO」で見る通り。ヤクザの頭目がトラブル処理を話し合う場面では通訳を介しているので、言語的にもバラエティに富んでいるのがわかる。

     

     話を戻すと、半世紀にわたり「日本国民」だった台湾人は日本語が話せるのに対し(モーナ・ルーダオも話していた)、大陸からやってきた外省人は話せない。文清は言葉が出なかった時点で「外省人」だと思われたということであるが、それだとなぜ殴られるかといえば、よそからやってきて支配者然と振舞うので反感を買っていたのである。色々違いはあるとはいえ、同じ文字と同じ文法構造を持つ言語を話す人間同士が対立し、その人定確認のために随分異なる文法構造の言語(日本語)が用いられる。なんとも頭がこんがらがる話ではないか。ちなみに半世紀という時間は日本語の台湾語化を生むのに十分だったようで、登場人物の台詞の中にはたまに日本の単語が混じる。空耳アワーかと思ったが、現在の台湾語でも一部の日本語は使われている模様。

     

     ドイツが去ってソ連がやってくるポーランドとは異なり、東西冷戦のせいで内戦になる半島ともまた違う。本作では、2.28事件の荒波が林一家や親族知人を巻き込んでいく一方で、地元チンピラ同士の抗争が同時並行的に林家を襲う。このごった煮感あふれるストーリー展開は、いったい何を描いている作品なのか不明確にしてしまいかねない点で、ナントカ都市的な演劇とかぶってみえてくるのであるが、歴史用語にもなっている政治的大事件と、それに比べれば取るに足らないようなヤクザの抗争が同列になっているカオスが監督の描きたかった台湾の実相なのだろう。

     考えてみれば、同胞のような違うような人々同士の弾圧と反抗はナショナルアイデンティティがどこにあるのかよくわからない点で、ヤクザ同士の抗争とどう違うというのか、端的に指摘してみせるのはとても難しいと思う。

     

     テーマは「台湾」といいたくなる丸ごと感をドーンとぶつけられ、正直よくわからないままエンドロールを迎えたのであるが、曲が妙に染み入ったのは制作時期にはやったシンセサイザー型の壮大な曲調にノスタルジアを抱いただけではあるまい。


     登場人物が多いので、「これ誰だっけ?」といくつかなってしまい正直途中でちょっとダレてしまったところはある。ついでに史実では、この後国民党の軍政が続くので、本作で示されている悲劇は何も好転しないから、全然終わりっぽくない具合で映画も終わる。その点、「カティンの森」「残像」で書いたことと(ポーランドとは異なるといいつつ)重なるわけだが、すでに述べたように少なからず本邦は無縁ではないわけだから、少なくとももう少し見やすい環境は設けられないものか。ところで本作はYoutubeで見れる。ただし日本語字幕ではない。

     

    「悲情城市」1989年台湾
    監督:侯孝賢
    出演:梁朝偉、辛樹芬、陳松勇


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