【La 美麗島粗誌】(3)旅の目的と書籍

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     一昨年、昨年と2年連続で夏のこの時期、海外を旅行した。その惰性で今年もどこかにと考えたとき「安い」「気軽」の条件を加えると必然、台湾になる。加えて、韓国、中国東北を既に訪れているのだから、かつての帝国版図だった台湾訪問は欠かせない。
     「週末台湾行ってきた」という知人は、過去に何人もいた。韓国よりも断然多いのだが、統計を確認すると日本人の渡航先は韓国の方が倍以上多い。都合の悪い統計には目をつむるとして、とにかく俺の主観の範囲内では最も気軽な海外旅行先が台湾という位置づけだ。なので俺自身はようやく訪れたという印象すらある。


     ひとえにこれまではあまり関心を持たなかったからだが、にわかに興味が湧いたのは、昨年だったか安田峰俊「境界の民」を読んだせいだ。「多くの日本人は台湾について、日本の敗戦・撤退後、国民党の軍政が続いてその後民主化された程度のことしか知らない」というような著者の指摘を見て、ギクリとしたからであった。俺もまさにそうだ。この本では馬英九政権末期の「ひまわり学生運動」関係者を取材しているのだが、そこから垣間見える現在の台湾の活気のようなものがやけに印象に残ったのだった。

     

     そういえば台湾には故宮博物院という世界的な博物館がある。国民党が大陸撤退時に持ち出した中華の秘宝を大量に保存している。東洋美術の学芸員をしている友人と巡ったらこれはなかなか楽しそう。共通の友人含め、「近いうちみんなで行こうや」などと話していた。


     それで今年になり、初めて台湾の人と知り合う機会があった。こうなるともはや行くしかなかろうと、勝手に天啓を感じて義務感めいたモチベーションが活性化する。飛行機のチケットを手配したら、次は頭でっかちの本領発揮で読書と映画だ。

     

     映画については既に書いた。韓国映画に比べると、日本市場での取り扱いはずいぶんと頼りない。レンタル屋になかなかないことはすでに書いたが、レンタル屋の配置も、「アジア」の棚に韓国映画に混じって置いていたり、洋画コーナーに置いていたり、まちまちである。「KANO」なんか日本の役者が多数出演しているせいか邦画の棚に置いているケースもあった。さすがに無知蒙昧ではないか。
     それに対して書籍だが、台湾に関係する本は身近な観光地だけあってかなり多い。ただし観光関連がかなりを占め、次に多いのは歴史関連。今の台湾について書いた本は案外見当たらない。安田氏の指摘通りに思えてくるが、まさしく求めていたそのままのタイトルの新書があった。


     これは馬英九〜蔡英文の政権交代を中心に、その背景等々を掘り下げて説明している。なかなか面白いのだが、政治の話ばかり読んでも仕方がない。もう少し別のテーマはないだろうかと新刊コーナーを眺めたら、これまた格好の本があった。


     へえ〜面白そう、とすぐに購入し、読み始めてようやく気付いたのは、著者が「台湾とは何か」と同じ野嶋剛であった。人材不足! まあつまりはこの野嶋氏が今の台湾関連では精力的に書いているといえる。
     この本は、日本で活躍する台湾ルーツの人々を取材している。蓮舫や、テルがまた老醜を晒した温又柔ら人選も興味深いのだが、「故郷喪失者の物語」という副題が台湾の特殊性をよく表していると思う。もちろん在日韓国・朝鮮人の場合も、国籍が向こうにあるだけで半島は異国にしか映らないという人もいようが、そもそも立ち返る場所はどこにありやという揺らぎの点で、もしかすると戦前に半島や満洲国で生まれた日本人の方が似ているかもしれない。その辺りの複雑さは「悲情城市」のところでも軽く述べた。付け加えると、冒頭に流れる玉音放送は「歓喜すべき敵の降伏」ではなくて、当時日本国民だった彼らにとっても敗北を意味し、同時に当時の日本人と違って何国民でもなくなった瞬間でもある。

     

     本書の登場人物の多くは、世代からいって祖父母や父母が激動の時代を生きているから、個人史を切り口とした日台の近現代史にもなっている。大変に面白く読んだ。合間に「私が台湾赴任時代によく行った美味い店」なんかも出てくるから少々マニアックな観光情報も得られる。
     いずれの本も、共通したテーマは台湾の複雑さだ。今風にいえば多様性か。説明にいちいち手間がかかると野嶋氏も自分で書いているが、たしかにややこしい。そのややこしさを生んだ原因として、日本の存在は物凄く大きいのであるが、多くの人はそれを知らない。俺もそう。裏を返すと、こんな風変りでおもしろい存在がお隣さんなのはラッキーなことでもあるんじゃないか。

     こちらは有名作家のルポ。氏はほかにも歴史関連のムック本も出している。「台湾」で検索しても引っかからないタイトルのせいで知るのが遅れた。「悲情城市」の視聴時、順番待ちの時間に棚を眺めていて知った。台湾各地を訪れ、素人目線で思ったことを綴ったような内容で、いってしまえばこのブログとやっていることは定義上は大差ないのだが、現地の人のサポートがある分、アクセスのよくない変わった場所に行っているのと、文章や考察に一定の格調高さがあるのはさすがキャリアのある作家といったところ。


     著者の片倉氏は、日本統治時代の建築物関連の本を多数出しているが、鉄でもあるらしい。うっすら鉄の俺としても興味深い本だ。わかりやすい鉄道利用ガイド本にもなっている。台湾鉄道旅の10大魅力として、「モーター音を楽しむ」が「友人をつくる」より上位に来ているところに著者のプロ鉄意識を感じた。

     駅舎や官公庁のような巨大建築ではなく、元は官舎や商店だったような小ぶりの建築物を中心に紹介している。多くが現在、喫茶店や書店などに再利用されているので、カフェ巡りのガイドとしても使えよう。何かのついでに立ち寄ることがあれば、くらいの感覚でこの本は持参した。


     「台湾とは何か」でも軽く紹介されている小林よしのりの「台湾論」は、日本で大いに売れた台湾本の一つだと思う。実は俺も当時買った。ただし熱心に読んでいた初期のころと違って惰性で買っていた時期なので、まったく読んでいなかった。実家に帰ったついでに埃を払って目を通してみたが、あのシリーズの例の調子がすっかりしんどく感じてしまってすぐやめた。惰性で買うのをやめたのも本書のころだったと思うが、あのころも、もうしんどいと思ってやめたものだった。ただまあこの人、似顔絵は巧い。似ているというだけでなく、実在の人物をちゃんとマンガのキャラクターとして描いているところはさすがだと思う。

     

     本の話はこの辺にして、旅の話に戻ろう。ちなみにくだんの学芸員はともに行く予定だったが、直前に「ごめーん、実は仕事が・・・」と断られた。


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