【やっつけ映画評】スターリンの葬送行進曲

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     邦題がふるっている。スターリン死後の権力争いのドタバタをコメディタッチで描いた作品、という概要によくマッチしている。冒頭に演奏会も出てくるしで。「チャイルド44」同様、ソ連が舞台なのに台詞が英語なのは、ロシアでこんな挑発的な内容が映画に出来るはずもないだろうから諦めるしかない。ただ、コメディにした狙いはいい選択ではなかったのではと思った。


     「清須会議」と似たような話だ。絶対的な独裁者(それはつまり恐怖の支配者でもある)の死後、取り巻きたちが合従連衡しつつ互いを出し抜こうとする。最終的に権力を握るのがフルシチョフというのは知っているが、途中がどうなのかというのは、専門家を除けば余程のロシア好きか社会主義者でなければ知らないのではなかろうか。当然俺もよく知らない。歴史モノの一つの醍醐味は、途中はどうだったのかの臨場感を味わえる点だ。
     単に経緯についての知識を仕入れるということではない。例えば織田や武田が強大な時期に、「実は弱小徳川につくのが結果的には一番有利」とは誰も予測できないわけで、その先の見えなさを後世の人間が実感するのは難しい。フィクションはそれを疑似体験できる点で歴史の解説本とは異なる。なので登場人物が必然の結果に向かうかのように描かれる歴史モノはあまり面白くない。「西郷どん」は割とその印象が強くあまり楽しめない。

     

     本作の場合、後継を争うマレンコフ、ベリヤ、モロトフ、ブルガーニン、カガノーヴィチ、フルシチョフのいずれについても、よく知らない俳優が演じている。知った俳優はピアニストを演じたオルガ・キュリレンコくらい。スターリンの息子ワシーリーを演じた俳優もやけに男前だったが、いずれも脇役だ。要するに、主要プレイヤーに主役っぽい俳優が誰もいないところが、カリスマ死後の先の見えなさをよく表している。

     

     ブラックコメディなので、史実を正確になぞっているわけではないということは見る前から想像はしているが、一方で、ネット情報によれば史実も結構踏まえているようだ(原作が衒学趣味のようにトリビアルな知識を盛り込んだマンガらしい)。例えばラストの裁判〜処刑のシーンについて、「あんな殺し方ありえねー」と感想を書いている人がいたが、ああいう死に方だったという説もあり、それを採用したとみられる。スターリンがぶっ倒れたとき、レコード機に演奏会の録音が載っていたのも本当のことのようだ。
    このような、一見作り話とみえて「実はホント」「実はホント説あり」といった要素が散りばめられているのは、どこまでが本当でどこからが創作か気になりだすから楽しい。「おんな城主直虎」でもよくあった。

     

     このような臨場感を整えた上で、問題はそれらをもって何を描くかだ。
     本作で強調されているのは、共産主義体制がしばしば陥る教条主義的な硬直性や回りくどさ、官僚主義的な責任の押しつけ合い、全体主義的な揚げ足取りといったことがまずある。スターリンの居室で大きな音がするが、勝手なことをして逮捕されたくないので、警備係は様子を見ようとせずにひたすらドアの警護を続ける。やがて発見されまだ息があるものの、医師を呼ぶには閣僚たちの議決がいる。独裁者に触れられるのは閣僚だけなので、その辺に警備の屈強な若者がいくらでもいるのに、オッサンたちがひいひい言いながら巨体を抱えて運ぶ。ところで有能な医師は全員収容所だから、藪医者しかいない――、といった具合である。
     もう一つ強調されているのは、権力争いの醜悪さで、スターリンの娘が到着すると、我先にお見舞い申し上げて歓心を買おうとするといった、わかりやすい出し抜き合いをプレイヤーたちは必死に演じている。

     

     独裁者死後の後継争いというせっかくの題材だが、これら2つはメインにしても仕方がないんじゃないかというのが感想だ。
     先に2つめからいえば、ゴマすりそれ自体を嗤っても安直な権力批判にしかならず、古さを拭えない。

     

     1つめの共産主義体制を嗤う部分は、制作しているのがいわゆる西側諸国になるので、どうしても露悪的に見えて鼻白む。対立していた片方が、相手の愚かさを皮肉るのは党派性がつきまとうからだ。ロシアでは本作が上映中止となり、いかにもロシア政府の閉鎖性を現わしているのだが、旧西側の国に言われてムっとする気分はわかる。西側が完全正義ではないし、西側にだってこの手のお役所的な滑稽さはいくらでもある。「ザーコーヴ」に反発する日本人と似たような感覚だといえる。
     むしろ、今時の世界で問題になっているのは、お役所仕事を徹底的に攻撃した結果起こっている制度の歪みや主旨の喪失だろう。「わたしは、ダニエル・ブレイク」で書いたことが該当する。特に彼らは政府の中枢を担う権力者なので、緊急事態とはいえ法手続きを重視していること自体は、嘲笑するよりその意義を改めて考えてしかるべきだと思う。ま、人命は優先されてしかるべきだと思いつつ、ぶっ倒れているのがスターリンなので助けなくていいんちゃうともつい思ってしまいつつ、であるが。

     

     その点でいうと、ドグマ的だったはずの彼らが、正当な手続きを踏まずイレギュラーな方法で狎亀銑瓩鮗孫圓垢襯薀好箸海修警句とすべき点だろう。恐怖支配の源がいなくなっても、それが継続されてしまう点だ。以下はネタバレになる。

     

     

     鬼が消えても新しい鬼が出てくる、というだけの単純な話ではない。なにせ、スターリンの恐怖政治を支えた秘密警察の長・ベリヤが後継争いではちょっとリードしつつ、そのくせ自由主義的改革をやろうとしているのだ。
     彼がなぜ自分たちが捕まえた人々を釈放したり、一旦スターリンが息を吹き返したときに舌打ちをしたりしたのか、この辺りの説明がないのでよくわからない(史実ではベリヤは疎んじられていて、スターリン急死は彼が毒を盛ったからという説もあるようだ)。もう少しどうにかしてほしい箇所であるが、とにかくベリヤはスターリン体制を快く思っておらず、彼と対立するフルシチョフも権力奪取後はスターリン批判をしたことで有名だから、ゴリゴリのスターリン信者というわけではない。大枠でいえば、双方に大きな相違がわけではない。それでも対立するのは、片方が権力を掌握すれば、片方が消されることがわかっているからだ。そしてベリヤは秘密警察という強力な組織を手中にしている。

     

     こうなるとフルシチョフも必死だ。彼は他の閣僚を味方につけベリヤの追い落としに成功するが、そのやり方はまったくもってイレギュラーでクーデターに等しい。ベリヤはこれまでさんざん無実の人間を捕まえて拷問を加えてきただけでなく、少女趣味の性癖で鬼畜の所業を重ねてきたから同情できないどころかざまあみろの感すらあるが、この男を排除するために正当な手段を使えなかったというところに問題がある。


     ベリヤが秘密警察を押さえているとか、正規の手続きで時間をかけていると逆襲のチャンスを与えかねないとか(そもそも当時のソ連にどれくらい「正当な手続き」が用意されていたのかは不勉強につき知らない)理由は色々あろうが、結局は自分たちも同じ穴のムジナだからだろう。いずれもこれまでスターリンにこびへつらってきた身である。そうしなければ殺されていたという現実的な問題はあるにせよ、後ろ暗いところも多々あるはずだ。正当な裁判手続きを踏むことは、自分で自分を裁くに近い事態を招きかねない。なので私刑のような形でベリヤは消される。

     

     仮にベリヤが重大な害悪だとして、その悪の排除のために結局はスターリン的手法を用いてしまうところが全体主義や独裁体制の醜悪さ恐ろしさだ。そのフルシチョフも、権力掌握の後、背後にいる眉の太い男に追い落とされることが示されて映画は終わるが、自身がそうだったのだから終わり方も必然といえる。

     

     まあこのようなことを考えられたのは、映画が一定程度そのような描き方をしていたからであり、その点よく出来た作品といえるのだが、だからこそ序盤のドタバタコメディ風味は余計だったと思う。このような恐ろしい結末は、一見スターリン体制のような特異な状況でしか起こりえないように思えるが、それに加わったのがどこにでもいるような可笑しみを誘うオッサン、ということが伝わる触媒としてコメディ要素を使えればよかったのに、と思った。

     

    「THE DEATH OF STALIN」2017年イギリス=カナダ=フランス=ベルギー
    監督:アーマンド・イアヌッチ
    出演:スティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、パディ・コンシダイン


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