【やっつけ映画評】1987、ある闘いの真実

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     歴史上の大きな出来事をフィクションの題材にする場合、どこをどう切り取るかが重要になる。重要というか出発点ないしは作品テーマそのものだが、切り取り方をしっかり考えないと内容も長さも収拾がつかなくなる。

     最も代表的でシンプルな切り取り例が「主人公を誰にするか」だろう。ここで以前に紹介した作品でいえば、ニクソン時代のアメリカについて、ウォーターゲート事件を取材した記者の立場から描いたのが「大統領の陰謀」で、FBIの側から描いたのが「ザ・シークレットマン」、ウォーターゲート事件に至る前を「陰謀」の記者の上司や社長を主役に描いたのが「ペンタゴン・ペーパーズ」、辞任後のニクソンをテレビ司会者の視点から描いたのが「フロスト×ニクソン」、当人の伝記映画が「ニクソン」といった具合である。


     欧米の映画だと、この切り取りバリエーションがやたらと多いのがナチスやヒトラーになるだろう。いまだに新作が生まれている。韓国映画でこれに匹敵するのが南北分断や軍政時代だ。本作同様、全斗煥時代の抑圧を扱った作品には「弁護人」「タクシー運転手」があり、「殺人の追憶」も時代設定は同じだ。軍政とはあまり関係のない内容ながら、当時の殺伐とした空気が全体をじんわり支配しており、これもまた軍政時代の切り取り方の1つとみてとれる。

     

     本作は、全斗煥時代の韓国を舞台に、聴取中の参考人の不審死を巡って、隠蔽を計る警察と真実を暴こうとする検察官の戦いを描くことで軍政時代をえぐったミステリー、かと思ったら全然違った。


     タイトル通り、1987年の韓国を描いている。切り取り方でいえば、かなりの大枠大風呂敷だ。誰か1人の生きざまや何か1つのトピックでもって軍政時代を象徴させるというような堅実で手慣れた手法ではない。まるで素人のような欲張りなくくり方を、破綻なくまとめ上げている。その上娯楽性も十二分にあるから恐ろしい傑作だ。実在の人物含め、かなり多くの登場人物が入り乱れる構成だが、このこと自体が韓国社会が身をもって知りえた抵抗の形を示しているのだと思う。

     

     水滸伝型の、主人公が入れ替わるスタイルだ。不審死の隠蔽を謀る警察に真っ向対立する検察官は、序盤以降出てこなくなる。代わりに記者の話になり、看守の話になり、学生の話になり・・・、と同時並行しながらリレーしていく。検事、記者、刑務官がダブっているので、同じくリレー形式の「半落ち」を思い出した。学生ヨニが出てきたところで失速したように見えたのは、浦沢直樹のせいだろう。ヨニは浦沢作品でおなじみの「気高く強い処女」キャラによく似ている。そして浦沢作品で「気高く強い処女」が登場するとしばしば物語が失速する。しかし本作に関しては杞憂に終わって安堵した。


     そして予備知識なく見たので、何気なく登場する別の大学生が、実在の人物と知って軽くドンデン返しのような印象を受けた。催涙弾に当たって流血する実際の写真を、本作とは全然別のところで以前に見たことがあったので、予想外のところで実話とシンクロする格好となって迫るものがあった。映画の登場人物がどう展開するのか、前もって知らずに見ていた分、歴史をリアルタイムで疑似体験するような形になったからだ。

     

     発端は参考人聴取中の大学生の死亡だ。軍事独裁の時代、北朝鮮との対立も苛烈で、同じ年には大韓航空機爆破事件も起きている。当然、日本でいう公安部門の活動も盛んで権限も大きい。防共の大義名分の下、かなり無理筋のことをやっていたのは「弁護人」「タクシー運転手」でも描かれている。当然、この大学生の死も拷問死の疑いが濃厚にある。それを裏付けるかのように、警察は遺体の焼却を急ごうとするのだが、臭いと感じ取った検察官が待ったをかける。


     結局警察側が検事のブロックを突破し、隠蔽工作が進められるが、それを阻止しようとする次の動き、次の動きが、ラグビーのディフェンスのように連続して現れ、少しずつ事が明るみに出ていく。これを担うのがチラシに並んでいる主要登場人物たち(隠蔽側も含まれているが)だが、彼ら以外にも暴露を支えるチョイ役が多数いるのが本作のポイントだろう。


     例えば最初にスクープするのは、リークを受けた中央日報の記者だが、彼はその後ちっとも出てこない。抜かれた側の東亜日報の記者がその後活躍する。あるいは中央日報にリークする人間は既に紹介した硬骨漢の検事ではない別の人物で、彼もその後一切登場しない。重要な情報を漏らす医者も同様だ。
     このような雑多な登場人物構成は、小説ではそれほど珍しくはないが、映像ではあまりないのではないだろうか。例えば小説の映像化の場合に、登場人物が整理統合されることがしばしばあるように、一般に映像ほど猝蟻未紡燭た擁瓩魴う傾向があると思う。
     事実だからそれをなぞっただけ、ということはできるが、ここから見えてくるのは、強大な力に立ち向かうときには、各自がそれぞれ自分の職分や裁量の範囲内で出来ることをやるしかないということだと思う。

     

     大きな自然災害なんかもそうだが、「一人ではとても太刀打ちできないけれど、どうにかしないといけない」という事態に直面すると、つい浮足立ってしまう。何かしなければならない、しかし私に何ができるだろう、でも何かしなければならない事態だ、ああ私は何て無力なのか、とうっかり絶望しそうになるものだが、結局のところは各自が出来ることをするしかないし、それしか出来ない。個々人が出来ること自体は一見些細なことだったとしても、それが次の人を動かし、またそのことが次の人が動くことを可能にし・・・、と連鎖していく。こういう積み重ねがあって初めて強大な力をもたじろがせる大きなうねりを生み出すということなのだろう。

     

     こうして抵抗側が入り乱れる一方で、悪役側は固定しているのが本作が破綻なくまとまった大きな要素だ。パク所長の安定感ある悪役ぶりは本作を支える屋台骨であるが、警察側も一枚板ではないところが面白い。不祥事をトカゲの尻尾で済ませるのは日本の警察でもおなじみの常套手段だが、決して部下を見捨てないパクの姿勢が、横暴に権力濫用するだけではない凄みをもたらしている。

     少なくともパク所長は、「弁護人」のカン課長同様、当人なりの明確な正義感、使命感でもって行動している。それだけ当時は「北の脅威」「反共」が現実味を持っていたからだが、そのせいで「政府にとって煙たい存在」はすべて「北の脅威」と同一に見えて暴走し、権力濫用が肥大化する結果になる。

     暴走は当人たちにとっては仕事が増えて楽しくて仕方がないのかもしれないが、肥大化は必然的に大量のスネ夫を生む。パク所長の周辺にいるのは、勝馬に乗りたいだけか、保身のためか、はたまた仕事だからやっているだけか、いずれにせよパクの使命感には程遠い小物ばかり。そしていざとなったら生き残るのはジャイアンではなくスネ夫だというのが世の理で、最終的にパクが足元をすくわれたのは己の暴走・肥大化が呼び寄せた自業自得といえる。

     

     裏を返せば差し迫った危機がそこにあるという状況を作り出せば権力の強大化が図れるわけで、「あいつはアカだ」同様、誰かを敵認定していけばいい。公務員ガ、教員ガ、あるいは「こんな人たち」ガ、はたまた不法移民ガ、報道ガ、と国内にやすやすと敵を作ろうとする姿勢は、ただ大量の小物と割を食う熱心な人を生み出すだけだと日本もアメリカも学んでおく必要があったよね。まるで特効薬のように勘違いして、勉強がタランカッタ。

     

     そういう韓国社会も褒められたものではなく、朴槿恵政権は「敵認定リスト」を作って政権安定を図ろうとしたのだった。本作はそのような抑圧の下で作られた。つまり、監督以下制作者も、役者諸氏(無論パク所長役も含む)も、この映画を作ること自体が、本作が示す「自分の守備範囲内でやれることをやる」を実践している。

     

    蛇足:でもやっぱり強いのは、強力な国家資格を持つ人間なんだなあ、と序盤とラストを見て思い知らされた気分。エリートに「駄犬」がいないと、始まるもんも始まらんてことだよね。だとすると、官僚が己の裁量で天下りできる状況があると、食いっぱぐれる心配がない分、「駄犬」の安定確保には有効なんじゃないか?自分自身で、ってところがポイントで、上の人間が斡旋する従来型だと大量の元国税庁長官を生み出すだけになろうから注意。

     

    「1987」2017年韓国
    監督:チャン・ジュナン
    出演:キム・ユンソク 、ハ・ジョンウ 、ユ・ヘジン


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