【やっつけ映画評】共犯者たち

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     「共犯者たち」。確かにそんな内容なんだけど、ちょっと格好良過ぎやしないすかね。虎の意を受けて威を借るスネ夫たちがこれでもかと登場しては、総じて取材から逃げ回る様子が延々と繰り返される杉田某大会状態。こんな連中に「共犯者」なんて、ちょっと格好よさげな表現は勿体ない。「逃げ回る恥知らずたち」くらいがちょうどじゃないかしら。

     

     李明博〜朴槿恵政権がマスコミ対策に躍起になった事実は、彼女が失脚した後、日本でも知られる話となった。政権に批判的と目される芸能人のリストが作られ、レギュラー番組を失った芸人がいたり、「1987」もそんな状況下で神経尖らせながら制作されたと聞く。
     本丸は当然報道部門で、主要放送局では閣僚の不正を暴いたり政策の問題点を追及するような部門の閉鎖、番組の打切り、政権を批判したキャスターの降板等々が相次ぐことになる。NHKに限られる日本と異なり、いずれのテレビ局も、公益法人や公社が株主だったりで公共放送の性格を持つ分、政治が介入しやすい仕組みになっていることが背景としては大きいようだ。極端な例では李明博の側近だった人が社長に就任しているケースも紹介されているから「芸能人リスト」よりも介入の仕方が結構あからさま。いわゆる「息のかかった人」を経営陣なり株主の公益法人の理事に送り込むことで、矜持のある社員を制作部門、報道部門から追い出し、骨抜きにしていく。

     

     だけど本当に原因はトップの人事だけなのかしらと疑問には思った。
     本作で示される風景は、日本でも既視感がたっぷりだ。経営陣に息のかかった人間を送り込むことで、組織は政権の不正を追及する記者を追い出し、政権に批判的なニュースはひたすらネグって天気等のあたりさわりのなさそうな話題にことさらに時間を費やす。全部NHKで見たよ。こうなっている最大の理由は、官邸周辺からの圧力があり、その空気を先回りしてくみ取って、命じられていないことまでせっせと精を出すそれこそ忖度茶坊主幹部がいるからであるが、「一部の不心得者が大多数の良識ある職員の口を封じている」というわけでは決してない。現場にも現状を肯定している人が少なからずいるからこその実態のはずだ(職員個人の政治信条が問題なのではない。与党支持だろうと野党支持だろうと、ニュースをネグるのは別次元のことだ)。

     

     理由はいくつか考えられて、一つは田崎のスシローさんみたいに、政局情報のキャッチと禅問答の解読しかやったことがないので政権の振舞いが常軌を逸してきても同じ姿勢しかとれないケース。いわゆる正常化バイアスのようなものが働いて、異常事態なのに従来通用していた枠内でしか物事を把握できないので結果、思考回路が御用記者風味になってしまう。ただ、韓国の場合は弾圧と民主化の歴史が激しかった歴史を持つ分、この手の人は少ないかもしれない。

     

     もう一つは「ペンタゴン・ペーパーズ」でも描かれていたが、権力者にくっついているうちに同化してしまったり信仰のような感情を抱いたりしてしまうケース。ブラッドリーのような優秀な記者でも、ケネディという人気者の政治家にくっついていると色んなものを見らんふりしてしまうのだから、いくらでもこうなることは考えられる。そりゃまあケネディみたいな人気者ならわからんでもないが、李明博や朴槿恵ってそんなカリスマ性あったっけ?という疑問もつきまとうが、強引なやり方を好む政治家と記者は、通底する部分がありがちだと思う。朝の話を昼のニュースに、という高速自転車操業を日々繰り返す仕事な上、ある程度物事に白黒つけないと商品にならないから、必然せっかちで強引になる。そうすると法令に四角四面かつ何事も慎重な公務員が無能に見えてきて、彼らをこき下ろす政治家がとても有能で正しく見えてくる。そこにシンプルな正義感が加わると、いっちょあがりである。こちらは韓国にもいくらでもいそうな気はするけど、どうなんだろう。

     

     映画の中に、そういう人も一部出てきはするが、背景的にちらっと映っているだけでインタビュー等の積極的な形では登場しない。このため上部構造×下部構造の対立のような図式しか示されないが、果たしてそれが正確な姿なんだろうか? ま、長々書いた割には、こちらは脇の話の、ただのふとした疑問。

     

     政権側からの介入によって現場が変質していく様子を見ていると、報道のあるべき姿を改めて考えさせられてしまう。こちらが本題。
     

     そもそも、権力の監視を担うことに一体どんな意味があるの?ということだ。報道とはそういうものだ、とか、民主社会を保つには重要なことだ、とか、世間的にはよくそのように語られるし、本作の登場人物も多かれ少なかれこのようなことをいう。だけど、こういうピンチの状態に陥ったときこそ、教条主義にも聞こえかねない「べき論」ではなく、いったい何のために?という具体論が欲しくなってくる。
     

     極端な話、口を封じたい側がいて、喜んで封じられることで保たれる地位があって、ついでに視聴者も何の不都合も感じてなければ、一部の志高い記者が髀肉之嘆をかこつだけの問題ではないかという気もする。実際日本の現場にはドグマ的理解にとどまっている人は珍しくないと思う。少なくとも俺自身は「権力の監視」とか言われても何のことだかよくわかってなかったし、ただ命じられていることをやっているだけだった(正確にいうといかに要領かまして逃げることばかり考えていた)。ついでに俺にそういうことを言った当時のおっさん連中の相当数が、「権力の監視」の意味を理解していなかった(断言)。
     

     本作終盤にその答えが示されていて、この点、よくできたドキュメンタリーだと思った。日本でもよく知られたセウォル号の事故だ。
     事故自体やその後の被害拡大の直接原因はさて置き、この悲劇の背景に政権の口封じ政策があったことは明らかくみ取れる。都合の悪いことを報道させないことは、自ら都合の悪いことは見たくない知りたくないという緊張感と責任感の欠如につながり、しまいになかったことにしようという二度寝状態に陥りかねない。そういう結果でのあの悲惨な事故だった。
     

     だからこそ、報道がきちんと機能していることは重要なのだといえるのだが、ここでのポイントは、そのような状況が明白になるのは、そうそうあることはない非常事態に限られ、ついでに割を食う人々の数も限定されるという点だ。なので大多数の国民にとっては「被害者は可哀想な不運に見舞われたのであり、騒いでいる遺族は被害をかさに着て調子こいているだけ」ということにしておけば、それですんでしまうことになる。

     だけどそんな切り捨ては19世紀じゃあるまいし、そのうち自分に「不運」が巡ってくるかもしれないし、それが大多数になったときはとっくに手遅れだしで、報道が少数者に目を向けましょうよという理由はこういうところにあるのだろう。


     どれもこれもわかりきったはずの当たり前のことなんだが、わかりきったはずの当たり前を再確認させられるのはとてもよくできている作品だからでもある。だって当たり前のことをいってるだけだと普通つまんないからね。そして当たり前すぎることはしばしば「それっぽい」理屈で踏みつぶされてしまったり、そもそもわかりにくかったりするもんだ。
     

     それにしてもKBSだったか、打切りになった番組の代わりに始まった李明博自ら出演する公報番組は強烈だった。セットの豪華な政見放送といった様子だが、「ちゃんとやってます」以上の内容が皆無の、政見放送以下の貧しさで、何より全体の雰囲気がびっくりするほどダサい。NHKもこれくらい振り切ってしまえばいいんだけどな。従来のニュースの枠組みを維持しながら、ある程度うまいことやるから余計たちが悪い。そういうところだけ洗練されてんのな。
     

    「공범자들」2017年韓国
    監督:チェ・スンホ


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