年の瀬1

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     外形上の仕事納めで、某私大へ。年に2度ほど依頼がある単発の講義で、たまにしかないので毎度担当営業の人が同行してくる。
    この若い男性とは、ことさら気が合うわけでもなく、ことさら合わないわけでもなく、つまり仕事上はスムーズに話が進む相手であるが、それ以上の付き合いや会話は特にないという間柄。なので毎回、講義前後の事務作業の打合せとか、仕事の延長線上の雑談くらいしか話したことがなかった。

     

     ところが、ちょっと前に、彼の同僚たちと話す機会があったときに、どうやらロックバンドをやっているらしいと聞いた。「詳しくは知らないが、パンクバンドで絶叫しているらしいですよ」。これは当人が「ロックバンド」にはちょっとそぐわない非常に真面目臭い、カタブツ的な印象さえある外見をしているせいだろう。反動で過剰なイメージが独り歩きしているに違いない。それにしても気になってくる。

     

     というわけで、この日、ちょっとした空き時間の間に頃合いを見計らって尋ねことにした。
     「あの・・・、ちょっと小耳にはさんだんですけど、バンドやってるんすか?」
     「はい」
     独り歩きしている噂のせいだろう。俺の尋ね方はやや慎重さ多めだったのだが、彼の返答は実にあっさりしたものだった。「大阪市内に住んでるんですか?」「はい」くらいの軽い調子。
     「どんな感じの?」
     「どう、ですかねえ、まあ、普通の感じの・・・」
     「ハードコアパンクなんじゃないかと噂している人がいたんですが」
     「まあ、ギターのやつがメタルとか好きなんで、リフがそっち系の感じはありますが笑」
     本人はもうちょっと軽めのものが好きっぽい印象で、ついでに担当はベース。ステージの中央で髪を逆立て中指を立てながら四文字英単語を絶叫しているわけでもなんでもなかった。やはり噂は噂。若干の真実を含みつつ、全体的には相違が多いのだった。

     

     それで彼と、帰りの電車もやけに話し込んでしまった。ライブの頻度や全体の技量は我らより断然上という印象なので、色々質問しつつ、今年の持論の「台湾でライブやるべし」を語りつつ。まあバンドに限らず趣味は社会の潤滑油だよね、とまとめようとしてふと考え込んだ。それは果たして本当だろうか。

     

     例えば音楽を「聴く」だけの趣味だったら、ここまで話は盛り上がらなさそう。そもそも細分化されたジャンルごとに趣味に合う/合わないがある上、年齢にもしばしば相関するから、年が離れている分あまり重なるところがなさそう。これは読書とか映画とかにも同じことがいえる。

     

     じゃあ「やる」趣味の場合はというと、草野球とかフットサルの場合、特に仕事関係の間柄だと「試合しようよ」という話になったら面倒くさいから黙っておこうという深謀が働きそうな気もする。やってないので知らないが。知ってる世界でいえば、演劇だと変な警戒心が働いて黙るというのはよくある。「映画好き」と名乗る片方がタイタニックしか知らなくて、片方が小津安全部見た人だと、互いが互いに舌打ちをする。「タイタニックしか知らなくて映画好き自称すんなよ」「うるせえよスノッブエリート野郎」といった具合。これと似たような状況を避けたがる警戒心、といえば少しは伝わるだろうか。この場合、必ずしも作品の話ではなく、立場のある誰それさんを知っている知らないというケースの方が多いかも。いずれにせよ面倒臭いので適当に誤魔化してやり過ごすことも珍しくないものだった。
     そう考えると、こうしてリラックスして話せるのは音楽の特性だろうか。などと考えつつ年の瀬。


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