映画の感想:ブリッジ・オブ・スパイ

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     グリーニッカー橋のスパイ交換を題材にした手練れ監督の作品。「リンカーン」や「ペンタゴン・ペーパーズ」等、史実モノを実に巧く作っているのに、いまだにこの監督、俺の中ではジョーズ、ET、インディ・ジョーンズの人である。それで久々にお気軽なSFを見てやろうと、この監督の「レディ・プレイヤー1」を借りてきたが、肌に合わなくて途中でやめた。それでいて本作は楽しんで見た。歴史モノの方が上手いんじゃねえか?と思ったが、単に俺自身の好みに過ぎない気もする。

     

     グリーニッカー橋の話を知ったのは、恥ずかしながら横山秀夫「半落ち」だった。検事が記者に、ヒントとも愚痴ともつかぬ調子で漏らす一言で、こんなことボソっと言われても、俺ぜってーわかんねーよ、と思いながら読んだ覚えがある。
     この検事は「互いの捕虜を交換する取引に応じてしまった」という自己嫌悪を吐露していたのだが、本作を見ると、そういう単純な話ではないということがわかった。歴史をキーワードで済ませないというのは大事っすね。

     

     2015年の制作で、割と最近の作品だ。監督には、この半世紀前の事件に何かしら今に通じる部分を感じるところがあって制作したのだろうと推察するが、今現在、より本作で描かれていることが肌身に迫るように思える。敵/味方の単純な線引き、「敵」を「殺す」以外の選択肢を取るやつはやっぱり「敵」という短絡さ。

     先々まで見据えれば、このソ連のスパイは生かしておく方が得策、という深謀遠慮は三国志だと「格好いい(or侮れない)登場人物」として、同じく「敵だから殺せ」はすぐさま滅びる雑魚として、さんざん出てくるはずなのだけど、現実世界ではしばしば後者が幅を利かせるんだよなあ。三国志にハマる男子は、しばしば自分が孔明ほどではなくても荀くらいの知性はあるとか、関羽ほどではなくても夏侯惇くらいの統率力はあるとか思い込むのだが、俺も君も等しく邢道栄に過ぎないのだよ。

     

     米ソ双方、表向き「諜報?はて何の話でしょう?」という立場を取るので政府同士の話合いにならず、主人公のような一弁護士が冷戦の最前線に立たされるおかしな展開になるのだが、何で一私人のオッサンが国同士の命運を左右するポジションにいるんだという点、実にヒーローもののフィクションぽくはある。そんなことを思って見ていたら、ラストの字幕解説によると、主人公ドノヴァンは今回の手腕を見込まれ、大統領から次の任務を言い渡されたとあるから、完全に007と同じ終わり方である。当然、第2作「ベイエリア・オブ・スパイ」が待たれるわけだが、これはフィクションではないので、よくよく考えるとふざけた話である。政府が陰謀作戦実行して、失敗したら弁護士にケツ拭かせてる格好でしょ、これ。なんじゃそりゃではあるよね。

     

     このドノヴァン、弁護士の本領発揮で、手八丁口八丁な交渉術でソ連、東独を相手に立ちまわるのであるが、そこだけに目を奪われてはいけない。軍人だけでなく、それこそ「自業自得の自己責任」的につかまっちゃった学生の救出についてもまったく譲ろうとしない。国防とかなんとかを超えて、人権守ってナンボでしょ弁護士ってのは、という頑固さが眩しいのである。誰であれ国民を守る、それがホントの国益でしょうよ、という立場は、全員正座して目に焼き付ける部分だと思う。

     

    「BRIDGE OF SPIES」2015年アメリカ
    監督:スティーヴン・スピルバーグ
    出演:トム・ハンクス、ピーター・マクロビー、アラン・アルダ


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