【やっつけ映画評】ROMA/ローマ

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     仕事終わりに、さっとそこのイオンで晩飯を済ませて、で帰宅してあの資料とこの書類を終わらせて・・・、などと算段を立てながら映画館の横を通ったらば、話題の作品がちょうどの時間に上映だった。自転車操業状態の日々に追い詰められていると、人はしばしばすべてをうっちゃって逃避を試みようとする。俺はレストラン街の中華屋で適当に炒飯をかきこみ、30分後には暗がりに居並んだ座席の1つに深く身を沈めていた。あの作業、この雑務、全部知るか。

     

     伝え聞く作品概要から察するに、疲労困憊の身でもあり、そのうち寝るんじゃないかと危惧していたが、終わってみればたいそう感動している己がいた。いやあ、確かにこれは素晴らしい作品だ。

     とはいえ、何が?と問われるとうまく説明できない。そもそも映画の内容からしてうまく説明できない。

     

     メキシコの比較的裕福な家庭で働く家政婦が主人公だ。70年代、冷戦が絶賛継続中のころ、メキシコは韓国や台湾同様、「反共」が全ての存在理由のような独裁政権下にあって、民主化を求める動きときな臭い対立関係にあった。

     そういう時代が舞台であるが、この辺りの要素は物語の背景にとどまっていて、家政婦クレオと主家の騒々しい家族の日常が綴られていく。そういう中で、いくつか家族やクレオを苦しませる問題事が起きるのだが、BGMがないせいか(ラジオから音楽が流れる場面はある)、全体的に抑揚がなく、静寂な印象を受ける。

     

     聞くところによると、監督の幼少期の思い出話がもとになっていて、ここで描かれる物語はほぼ実話らしい。道理で。
     そう納得したのは、物語の中核を担うはずのいくつかの厄介事と、何てことのない瑣末な要素を等価で並べるような描き方をしていたからだ。飼い犬のうんこがやたらと画面に登場するところとか、狭い空間に無理やり車幅の広い車を通そうとするシーンがくり返し登場するところとか、何かのメタファーなのかとも思ったが、単に事実がそうだったというだけなのかもしれない。個人の人生は割とそういうところがある。例えばかつて大好きだった彼女の顔は忘れかけているのに、好きでもないCMの唄は覚えているとか、記憶の残り具合はしばしば当人の思い入れとは何の整合性もないものだ。

     

     そういう「何でもない日常」として綴られる日々の中には、実は既に述べたような政治のかまびすしさがあり、移民白人と先住民との経済システムの中に組み込まれた支配/被支配の構造があり、家政婦との無邪気な思い出として済ますことを許さない重い矛盾が横たわっている。その中でも見終わって俺の中で一番残った沈殿物は、「男はしょうもない」だった。

     本作に出てくる男は総じてしょうもない。短慮で無責任で、そのくせ口先は大義を語るから、時に人を殺める。まともな男性はたまに出てくる運転手のおじさんと、病院のシーンで登場する医師くらいではないか。いずれもただ職務を遂行しているだけの存在としてだけ登場するから、男は真面目に仕事をする以外に存在意義がないのではないかという気もしてくる。

     

     以上のようなことが全部間接的な伏線となって、終盤の出産のシーンでたいそう感動したのだった。映画やドラマで出産のシーンはいくつも見たことがあるが、こんなに心をゆさぶられたのは初めてだった。おそらく何年か後には、本作については出産シーンと飼い犬のうんこしか覚えていない気がするが、これはそういう映画だ。

     

    蛇足:画面の中のメキシコは、コロニアル風建築の街に人と車が溢れていて、収拾がつかないほどうるさくて雑然としている。一昨年行ったインドとよく似ていると思いながら見ていたが、メキシコとインドが似ているわけではなく、今の日本社会がこれらと似ていないだけなのだろうと、少子高齢人口減社会を実感した。

     

    「ROMA」2018年メキシコ=アメリカ
    監督:アルフォンソ・キュアロン
    出演:ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ


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