思い出横丁51番地4367号

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     テレビをつけたら、間もなくイチローが引退記者会見するぞするぞと言っていて、結局ZEROが冒頭のちょびっとを流しただけでタイムアップ。ネットで見ることになった。

     

     こういう機会なので思い出話を書いておこう。まだ「鈴木」だったころにギリギリ彼を知れたのは、今となってはささやかな自慢になるだろうか。「今年注目の若手」といった主旨の雑誌の紹介を読んだだけの話だが、山田太郎ばりの冗談みたいな名前だから嫌でも覚える。

     そうしたら、間もなく登録名がカタカナになり、「注目の若手」どころかどえらいブレイクになった。「200本に到達するかも」というあのときの熱気は、今となっては想像するのは難しい。打率4割を記録するようなものだろうか。「200」という数字は当時、それほど途方もなかった。

     

     熱気に押され、シーズン終盤のある日。授業終わりにそのまま一人で電車に乗って、神戸市営地下鉄・総合運動公園駅で降りた。「もしかすると本日200到達かも」という日だった。正確な本数を覚えていないが、その日時点で196とか197とか、少なくとも1本ではまだ200にとどかなかったはずだった。結果は達成ならずで、残り1本ではなかったから、まあそりゃそうだよなあとどこか納得しながら満員電車に揺られて帰ったものだったが、確か翌日だったか、4安打の固め打ちでさっさと200をクリアしていて、己の相性の悪さを呪ったのだった。


     その後、何度か見に行ったはずだが、唯一明確に覚えているのは、95年である。本拠地優勝がかかった対ロッテ、ホーム3連戦の3日目だった。日曜なので、野球好きの友人2人と、サッカー派だが祭りに乗っかったのが1人の計4人で再び総合運動公園駅に降り立った。

     ごった返す球場は、前年1人で200本安打を拝みに行ったときの比ではない熱狂に溢れかえっていて、ついでにベテラン岡田彰布の横っ飛び好捕なんかがあって、球場全体が「優勝」を疑わないムードに突き進む。ところがこの年ブレイクしたセーブ王の平井が、おもしろフォームで人気だったフランコの四球で怪しくなり、結局打ち込まれて敗退した。

     

     人生で初めて、プロ野球の胴上げを見れるものだと信じ切っていただけに、大いに落胆して球場を後にした。同行の野球ファン2人が「平井を降板させるべきだったか否か」で喧嘩になっていて、サッカー派の友人は隣でアホくさと首を掻いていた。後年平井は、あそこで代えなかった監督の采配で抑えの何たるかを知った的なことを語っていたから、まああれでよかったのだろう。

     そんなことだけ覚えているのだが、なぜかあの日のイチローのプレーについては一つも覚えていない。とにかく俺はまたもや、己の相性の悪さを呪うことになった。そして、震災からの優勝というドラマに冷や水をこれでもかとぶっかける野村ヤクルトの徹底マークの結果、日本シリーズでイチローのバットは空を切ってばかりになるわけだが、今季のイチローはあれとカブって見えた。

     

     さて、これまで彼が見せてきた数々のミラクルを思えば、もしかしたら覆るかもという期待はかすかにありつつ、東京ドームで引退の筋書きはほぼ既定路線だろうというのが大リーグ好きの大方の見方であったろうと思う。なのでニュースの街頭インタビューで「え?引退?!」などと驚いていた人は、イチローについて実はよく知らない人か、もしくは「驚かないといけない場面」という忖度が働いて演技をしてしまうバラエティ番組化が染みついてしまった人なのだろう。

     シーズン200本の連続が途切れた後、彼に残された記録はワールドチャンピオンだけだとここでも以前に書いたが、結局それが果たされずに終幕したのは惜しむべきことだ。まあ、彼自身がチーム選択には結構古典的な態度を示すのと、ヒットを量産する割には出塁率がそれほど高いわけではない分、昨今のデータ野球にあっては期待するほど欲しがられてはいなかったというのが事情としてはあると思うが。

     

     それでも母国で引退の花道がしつらえられたのは、最大限の敬意と見ていいと思うが、引退記者会見が日本で開かれる流れになったのは果たしてよかったのやら、とは思った。

     

     ここで話は一旦脱線するのだが、ちょっと前に、レポート採点中の大学教授が「学生がこういう文章を書くのはテレビのせいでは」と嘆くツイートをしているのを見かけた。文体や話の運び方が、テレビニュースの言葉遣いのモノマネのようになっているという趣旨だ。
     これは俺がここで以前に書いた話と重なる意見だと思う。ほとんどの大学生は、レポートなり小論文なり、何かしら世の中の物事について主張を組み立てる作業をする段になると共通した作法をなぞる。その1つが「自分が消える」といえばいいのか、模範解答をなぞろうとして、自分では微塵も思っていないことを書く。稚拙な例だと、「最近の子供は外で遊ばなくなった」で、先月も学生が書くそんな文章を読んだ。今時の若者でも相変わらずこんな古臭いロジックを書くというのは一つの発見ではあったが、読まされる方はたまらない。ここまで稚拙でなくても、自分の頭で考えていない点では有名大学でも似たり寄ったり。何より俺自身そうだった。学生なんてそんなものだろ、と思うかもしれないが、ではなぜ学生はそうなのかと問われると、確かに、ある型をなぞろうとする言葉遣いをするテレビの影響はあるかもね、とは思う。

     

     話をイチローに戻すと、居並ぶ報道陣が切り出す質問の多く、特にテレビは、この手の記者会見で尋ねる定型をなぞっているだけで、当人に確かめたいことがあって尋ねているわけではないと聞こえるものばかりだった。テレビなんてそんなものだろと、以前なら流しているところだが、以上のような経緯により、とんでもない害悪を垂れ流しているように思えて、大変にイライラとし、なんで日本で記者会見するんだ、アメリカでやった方がよほど面白かったんじゃないのかとも思った。

     

     ところが悲しいことに、俺も知りたい具体的な質問(朝日の2名が聞いていた「MLB以外でやる選択肢はなかったか」「引退を決めた自身の衰えは何か」など)は、さらっとはぐらかしちゃって、定型句質問の方にばかりイチローは饒舌だった。やっぱり相性悪いな。

     

     おそらくふわっとした質問の方が、彼にとっては自分の考えを逐一選び抜いた表現で言語化していく行為をやりやすいからだと推測する。若いころは相当に意味不明のことを語っていたが、年のせいか随分わかりやすく説明するようになった(あれでも)。

     その中で、自分が外国人になって考えが変わった等の印象的な話もあったが、一番引っかかったのは、試合後にファンが居残って声援を贈っていたことに対する驚きで、この人は、記録を達成するたび似たようなことを言っている。つまり、ファンやチームメイトが大いに祝福してくれることへの戸惑いで、毎度謙遜でもなんでもなく、本当に困惑した様子だった。

     「△△と感じる一方で、〇〇な自分もいる」のような、自身を客体化する話法の好きな御仁だが、世の中における自分が何者なのか、ちっともわかってないんだよな。まるで超頭脳明晰なのに「ナゼ泣イテイルノデスカ」のように人間の感情を一つも理解できない昔のSFのアンドロイドのようだ。と書いたところで、外国人の話す日本語をカタカナで表現しているバラエティ番組のテロップを見たが、まだそんなことやってんのか。そのステレオタイプももうやめた方がいい。理由は差別につながるからだが、どうせわかんないだろうから、クリーンハイスクールのフォアマンか!と言っておく。余計わかりにくそうだが、野球ファンなら知っておくべきだ。イチローだって、殿馬に衝撃を受け、岩鬼の悪球打ちを見て己の道を見つけたと巷間伝わっているじゃないか。

     

     話がとっちらかった。今年のマリナーズはガラリと顔ぶれが入れ替わり、優勝争いに食い込めるか注目。


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