読者からの注文

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     年度が変わって正月気分の花見シーズンだった。なぜか知人からの誘いが続いた。今夜一杯どう的な急な誘いがすっかり珍しくなっている昨今、「慣れないことをする」ことになってしまったせいか、まんまと体調を崩して、一件不義理をする羽目にもなった。プラスマイナス帳尻だ。

     

     そのうち1人は、最近企業のCMの炎上が続く中で、自身の勤務先でも「チェック体制を強化することになった」という。法務の専門家以外にも、大学の先生なんかにも意見を聞いて炎上につながる要因がないかを探るわけだが、こんな話はあんたがチェックするのが一番早いんじゃないかと言われた。

     

     当人は数少ない当ブログの継続読者。このブログでたまに書いている差別関連の話を読んでの言である。別に俺なんかに尋ねなくても、今時のSNSは、在日外国人や働く女性や体のどこかに障碍がある人などなど自分が普段過ごしている位相とは別のところにいる人々からの直接の指摘がいくらでもあるから、そちらを見ればいいだけのことに思うが、そこはさて置き、俺がそんな話をここでくり返し書いているのは、そういう映画を見たからに過ぎない。なのでとりあえず「グリーンブック」でも「ドリーム」でも見たらどうかと思うのだが、裏を返せば洋画でも見なければ、日本社会の中ではその辺りの感覚を磨くフィクションに触れる機会が極めて限定されているということになる。身近にないから、それなり高学歴で勤務経験の長い大人が少なからず関わっているのに誰も気づかないという事態になるのだろう。

     ま、まったくないわけでもなく、例えば女性差別関連の「あるある」は一部のマンガやそれを原作にしたドラマなどで目にすることはある。そういえばこのブログでも、日本のマンガ作品についてこんなことを書いていた。差別問題についての基礎知識的な内容になっている、と自分で書いて自分で賛辞をつける。

     

     あんたがやれば、と言ったその若人によると、勤務先の会社は炎上しないことばかりに気を取られているといい、「人を傷つけないという本質部分をおろそかにしている」とコボしていた。まあ「会社員が考えることは常に目先の付け焼刃に留まるやれやれ」といった話であるが、「人を傷つけない」というのは考え出すと全部疑わしく思えてきて「これじゃ何も表現できない〜〜」と頭を抱え、迷走の末に松本人志辺りの言に救いを感じて「傷つけない表現なんてこの世にはないんだ!」と薄っぺらに格好よく居直りを決め込むの図が社内で蔓延するのではないかと、長ったらしい心配を勝手にしてしまった。

     

     CMの場合はやはり、ステレオタイプに注意を払うのが最初になすべきことだろう。
     そもそもは、わかりやすさのためにパターン化をするのがステレオタイプの機能である。このパターン化が、固定化された観念と結びつきやすいため、場合によっては差別や偏見や無自覚・無理解につながる。例えば洗剤のCMは、いかにも皿を洗っていそうな人が登場するのがわかりやすく、意外性を狙ってダースベイダーあたりが出てきても、そちらにばかり目がいって、何のCMかわからなくなる恐れがある。ただしその「いかにも洗いそうな人」が30〜40代の女性ばかりだと、性別と役割の固定化を助長するおそれが出てくる。

     

     こういうわかりやすさが固定化したいわゆるパターン化は、フィクションの世界ではしばしば「手垢にまみれた古臭い描き方」となり、「つまらない」とか「いまさら」といった低評価につながる。「金にうるさい男=関西弁」のように、パターン化はしばしば、そう語られる側が辟易していたり、「常人離れして心の美しい障碍者」のように、そんなやつは実際にはそうそういないというケースも珍しくないから、場合によってはそれこそ「人を傷つける」。

     

     逆にいえば、差別を題材として扱うのは、既存の価値観を揺さぶることにつながりやすいことになる。俺がその手の映画を好んで見ているのも、その辺りのトンガリ具合を期待してのことだ。

     

     そして広告でもそういうのが本来ありがたがられる現場ではないの?とも思うのだが、これはおそらく牧歌的な発想なんだろうな。実際は、もっと情けない事情なんだろう、炎上広告の背後にあるのは。なのでチェック体制の強化も結構だが、鈍感に固定化されたイメージに基づく発想が優先されて、斬新なアイデアが出てこない組織の仕組みそのものを考え直した方が効果的だと思う。


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