マナー警察と天動説

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     というようなことを知人若人の愚痴を発端につらつらと考えたわけだが、己の仕事でも、同じジャンルの話に直面することになった。
     就職試験の論文の採点を依頼されることがたまにある。その設問が外国人観光客関連だったのだけど、学生が書いていた内容が無邪気な偏見の満開桜だった。酷いのになると、「外国人観光客の増加で、日本に麻薬の流入が増える」などと、観光客が全員ヤクの密売人に見えている内容のものも。由々しき事態である。

     

     この学生が、実際にそう思い込んでいる可能性は低いとは思う。社会現象について論じさせると、何を書いていいのかわからずに、思いつきを支離滅裂なまま、とりあえず指定の文字数を埋めるかのようにひたすら並べるだけで済ませようとする学生は多い。結果、書いている当人も「相当あやしい内容」と自覚しているケースが多い。
     とはいえ、放っておくわけにもいかない。いわば連想ゲームで思いついたことを並べているということは、外国人とヤクの売人がこの学生の脳内では(無自覚だとしても)同じ棚に収まっているということになるからだ。

     

     加えてタチの悪いことに、そもそもこの論文の設問に「〜インバウンド需要が見込まれる一方、トラブルも起きている。そのような中〜」などと誘導尋問めいた一節がある。出題者の頭の中も、学生同様無邪気な書棚状態になっている、もしくは明確に偏見を持っていると推察される。この出題者にしてこの解答者ありではないか。これはいかん。

     

     なので、自分が講義を担当しているクラスでも似たような設問で論文課題を書いてもらうことにした。当然トラブル云々の一文は外して。
     案の定、提出者の半数程度がマナー警察になっていた。「彼らも悪気があるわけではなく、文化が違うのが原因だ」などと、一定配慮を見せている分まだマシといえるかもしれないが、それにしても、である。
     講義を終えた帰途、あちらこちらの居酒屋では、いわゆる「新歓コンパ」の時期だからか、酔っぱらった学生が集団で道路をふさいでいたり、騒ぎ倒していたりで、いったいどの口が「マナー」を言うんだという矛盾甚だしい。

     

     別に外国人がすべて清く正し人だといいたいわけではない。観光だけで3千万人も来ている。中にはおかしな人もいるだろうし、学生がいう生活文化のすれ違いによるトラブルの類はもっと件数があろう。俺が引っかかるのは「日本天動説」とでもいえばいいか、とにかく日本社会に絶対の基準があって、あとは異物という発想である。

     例えば学生は、日本人より「マナーのいい」外国人は一切想定していない。基準がこちらにあるから、理論上想定されるはずもない。自分たちだって(「の方が」というのが正確か)馬鹿騒ぎして「マナーが悪い」事実に目がいかないのも、こちら側は基準なのだから必然そうなる。

     

     そういえば、以前大学の食堂で留学生の歓迎会を開いているところと遭遇したことがある。一部を貸し切りで使用していて、俺は残りの席の方で魚フライ定食を食っていた。それで担当課の課長みたいな人があいさつしていて、是非みなさんには日本のよいところを学んでいただき、そして同時に日本の悪いところは見ないようにしてくださいなどと言っていて、俺はアホかこいつはと呆れていた。

     「悪いところは教えてくれ」だろうに。「悪いところ」が具体的な当人の被害だったらどうするんだ。それでなくても大学もあろうところが事実の見らんふりを推奨するなど言語道断である。でもこれが日本天動説の平均的な気分なんでしょうよ。

     

     というわけで次の授業で説諭した。とはいえ学生にしてもマナーしか思いついたことがないから書いたか、もしくはそういう猝枠浪鯏瓩鯑匹鵑世で、明確な主張に基づいているわけではないのがほとんど。本心ではない内容について説教されても馬耳東風であろう。

     しっかし思いつくことが「マナー」ってのもな。法令違反ならともかく、むしろくそくらえじゃん。問題は外国人への偏見等ではなく、気兼ね気兼ねの塊で、不便な方不便な方に帳尻を合わせようとする現代日本社会の特色にこそあるという話かもしれん。


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