小島一丁

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     わけあって実家で一人終日留守番することになった。この年にして初めての出来事である。十代で家を出ているので、帰省するときは必然(少なくとも夜には)誰かがいるときだったからだ。

     

     普段、帰省したときに外食することがほとんどない上、行くとしても親の希望でそば等のさっぱりしたものになるため、いい機会だし、周辺の店を探訪した。

     DIY風掘立小屋の店構えの、いかにもスパイス調合してますよなカレー屋を覗くと、ココロックに似ている店主が出てきた。スキンヘッドにひげ。パン屋の店主がジャムおじさん風の外見だったのと同じような、やらせでしょと言いたくなる取り合わせで、かつ知人に似ているとくれば、可笑しくて仕方がない。これが昼飯。

     

     夜は自転車で少し行ったところにある中華に入った。ネット上の評価によると本格的らしい。実家の周辺の飲食店を、グルメサイトでチェックするのも不思議な感覚だ、というのは故郷を出た人間の安易なノスタルジアだろう。

     

     カウンターに通されメニューを見ると、あれれ、エビチリだの酢豚だの、いかにも日式中華な料理ばかりである。どこが本格中華なんだと困惑していたら、中国語のメニューも置いてあるのが目に留まった。そちらには中国や台湾でうっすら見覚えのある文字列が並んでいる。日本人客と中国人客それぞれに合わせて別々のメニューを用意しているということか。だとすればうまい商売だな。しかし言葉がわからないくせに中国人向けから頼もうとする斜に構え日式男もいるのである。

     というわけで、現地で食べて以来すっかりファンになってしまった干し豆腐の炒め物と、残念ながら羊がないというので、口水鶏、日本名よだれ鶏をいただくことにした。
     うん、実に本格。うまいうまいと食べているうちに、満腹ではないのに気持ち悪くなってくるところまでこれぞ中華であった。

     

     さて帰阪し、例年春先に担当している某私大の講義。1回生前期の授業という入口も入口につき、特に留学性はまだ不安も多かろうと気を遣い、世話を焼く。だって「さすが日本の大学はいい先生がいる」と思ってほしいやん。例年そうエエ恰好しいを意識しているが、東京福祉大の件なんか見るにつけ、ますますムキになるよね。

     

     彼ら彼女らが年を取って社会の一角を担うようになったとき、留学時代は楽しかったと振り返られるのは極めて重要なわけで、そういう長いスパンで俺様はとらえとるわけですよ。1回生前期の講師芸人などすぐ忘れ去られるだろうけどね。学位のない講師芸人風情ですらこれくらいのことは考えるよ。

     

     とはいえ例年、彼ら留学生はレポートの出来が悪い。俺の日本語をあまり理解できていないせいだろう。なるべくわかりやすい表現を選んでいるつもりだが、授業回数が進んで内容がどんどん込み入ってくるとなかなかそうもいかなくなってくる。そういうわけで今年は前年以上に授業についてこれてるかと確認した。大抵「はい」と返事はいいのだが、その実そうでないことはもう学習済みである。授業内容の骨子を伝えて少しでも理解の助けとなればと期待したが、大して意味がなかった。

     

     甲斐ねーなと少々落胆したのだが、こうして「セデック・バレ」の小島は生み出されるんだなと我が身を振り返ったのだった。台湾総督府の日本人警察官で、何かと原住民たちにやさしく声をかけて面倒を見るのだが、後にその「善導」が裏切られたことで豹変する男である。恩を仇で返しやがったといった怒りであるが、原住民にしてみれば、別にその恩、頼んだわけちゃうしというすれ違いである。ま、こちらの場合は望んでやってきた留学生相手に、教えるのが仕事の人間が接しているだけなのでまるで状況は違うのだが、根底にエエ格好しいがあるという点では俺も小島も同じなのだった。


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