映画の感想:RBG 最強の85才

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     ドキュメンタリー映画としてはあまりいい出来ではないと思う。ミュージシャンのドキュメンタリーでよく用いられる、当人を知る周囲の人々の称賛的証言を切り貼りつないだようなスタイル。ミュージシャンの場合は薬で死んだり金で揉めたり、大抵こういうダメ人間な部分も描かれるから称賛部分が中和されるが、本作の主人公RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグはまったくもって立派な人なので顕彰礼賛要素でほとんどが占められる格好となっている。

     

     でもまあいいんじゃないかな。変な言い方だが、それでバチは当たらんと思うわ。

     

     9人いるアメリカの連邦最高裁判事のうちの1人で、かつ女性の権利拡大に尽力した法律家を題材としている。権利拡大というよりは、女性の権利の平準化とでもいう方が正しい。元からあるものを大きくしたわけではなく、そこにあるはずなのに見らんふりされているものを「ある」と言った爐世鵜瓩覆里如


     本作では「特別扱いを求めているわけではない。私の足を踏みつけているその足をどけろ」という言葉で表現されているが、これと似たようなセリフが「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」にも出てくる。「特別扱いは求めていない。同等の敬意が欲しいだけ」。ルースが女性差別的な法制度と裁判で闘い出す時期と、あの男女対抗テニス試合が開催される時期は概ね同じころである。

     

     このルースは、単に功績を残した法律家というだけでなく、世間からの注目度も高い。特に若い衆を中心に人気がある(一方で、いつ何が起こっても不思議ではない高齢なので、オバマ政権下で引退しなかったことを批判されてもいる。今空席になってしまうと、彼女の信念とは正反対の人をトランプが指名するのは不可避だからだ)。

     なので本作を見てまず思うのは、法律家が法律分野の功績において人気を博しているという事実だ。日本で人気のある法律家がいたとして、「法律の解説がわかりやすい」くらいが今のところ関の山。基本的には法律とはあまり関係のない部分による人気の方が一般的で、その代表例が「茶髪」だから、なんじゃそりゃである。加えて最高裁判事って今誰だよって話でもある。国民審査は「制度としてあるだけまだマシ」程度のものであるのは間違いない。

     

     もちろん、向こうの国民が総じて民度が高いというわけでは必ずしもないだろう。単に「人気があるから好き」というブームに乗っているだけの人とか、キャラが面白いとかのそれこそ「茶髪」と大差ないマインドで拍手を送っている人もいよう。俺が注目したのは国民の反応よりは取り上げる側の姿勢だ。取り上げる側が何をもってちやほやしているのかは、相当次元の違う印象を受けた。

     

     ルースを人気アメコミ映画のヒーローに当てはめたイラストなどに、日本と変わらないバカ騒ぎ感を見出すのは容易いのだが、もうそんな類似の理屈が通用しないほど日本の「取り上げる側」の根本姿勢は違っていると思う。基本は内輪サークルの理屈なので、ルースという存在がその内輪サークル視線でもっては全く捕らえられないのではないかな。つまり、よう扱わん存在なのでは、ってことである。まあ向こうさんのメディア事情が、本作ではあんまりはっきりとはわからないので、どれほど猖められた瓩發里は判断できないのだけど、今の日本メディアが、未明のドキュメンタリーかETV特集、あとはせいぜいニュース番組内のインタビューくらいでしか、それも「奇特な人」という枠でしか扱いきれないというのは断言しておく。

     

     個人的に最も注目したのは夫だった。学生時代、優秀なルースに「かわいげがない」と敬遠する男たちばかりの中、屈託なく接してきたという男前である。最近のアメリカ映画では、女性の優秀さに嫉妬する男をよく扱っているが、全く正反対の存在だ。どうしてそんなことが出来たかといえば自分に自信があったからと作中説明されている。優秀なやつは何でもできるんだなと、この夫に嫉妬してしまいそうになるが、この人、いかにも全く敵がいなさそうな人当たりのよさがあって、できるやつはやっぱり何でもできるんだな。ただただ敬服した。

     

    「RBG」2018年アメリカ
    監督:ベッツィ・ウェスト、ジュリー・コーエン


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