【やっつけ映画評】ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス

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     「泉南石綿村」よりもさらに長い3時間半近い長尺ドキュメンタリー。図書館好きとしては気になる内容で、世評もそれなり高い。夏のクソ暑い日に、暗がりで長々と過ごすのもそれはそれでかなり贅沢だろうと思って足を運んだ。うーん、しかしこれ、こんなに長く要る内容かなあ。

     観察映画というのか、日々の営みの断片を並べているシンプルな構成で、明確な展開があるわけではないので興味の持続が難しい。隣のおっさんはソファーの射殺体(ヤクザ映画なんかに出てくる座ったキリスト像のような姿勢)のように寝入っていた。俺も二度ほど寝落ちした。逆説的に大変贅沢な時間の過ごし方となったな。


     アメリカの図書館のレベルの高さについては以前も書いた。読んだノンフィクションに登場するアメリカの図書館司書がどれもこれも優秀だった。友人の研究者が調査に行った際も同じような感想を述べていた。いかにも先進国だ。日本でも国会図書館の司書は優秀な人が多い。地域の図書館にもそういう人はいるだろうが、いるとかいないとかとは別の位相に行ってしまっている。本作を見ると、日米では根本的なあり方が違うと痛感させられた。

     

     「公共図書館」という名前なのは、市の予算だけでなく、民間の寄付からの2つのリソースで運営されているからで、市立図書館というわけではない。だが「民間の活力」というペラペラスカスカの理屈は登場しないし、税金を使っている以上反米はダメだというアホな話も出てこない。ただし、人気の高い本を購入するか専門書に予算を使うかとか、ホームレスの利用者に対する苦情にどう対処するかといった日本と同じような議論は登場する。


     日本との違いとして目につくのは、図書館機能の幅の広さだろう。子供向けの教室のような日本にもあるような取組だけでなく、就労支援にパソコン教室、学者や物書きの講演会、演奏会、朗読会、読書会など実に幅広い。エルビス・コステロやパティ・スミスのような有名人も登壇している。著名人を呼んで「にぎわいづくり」という安い発想ではなく(「にぎわい」=何か上手くっている風を味わえるマジックワード)、知的側面からの機会提供ないしはセーフティネットといったところから来ている。

     例えば会議の中では、自宅にインターネット環境がない市民をどうサポートするか、うまくやってるシアトルに比べてニューヨークは心もとないぞと熱弁している男が登場し、市民が取り残されないためにはどうするかということを繰り返し強調している。

     

     これらから見える日本との最大の違いは、登場する職員が総じて誇り高い点だ。なので今年の予算の使い道の話でも議論に熱を帯びる。日本の場合、司書は保育士や介護士などと同様、資格職なのに待遇が悪い。悪いどころか指定管理になっているところが多いので、従来型の司書が消えつつある。それを一手に請け負っている会社の名前が、協賛として作品冒頭にどーんと出てくるから悪い冗談のように見えた。

     こちらのインタビューを読むと言っている内容がいかにも薄っぺらい。そして薄っぺらいとはあまり感じない人の方が多いと思う。記事自体も好意的に取り上げていて、これが世の平均的な反応だろう。だが本作に出てくる職員と比べると彼我の差はかなりのものだとわかる。あちらさんの社会は、諸々問題含みとはいえ、少なくとも学術分野は先進国なんだなあと思う。こちらはすっかり後退期。そんなインタビュー記事でっせ、これは。

     

     というようなことがわかる点、いいドキュメンタリーだとは思うが、さすがに長いと感じた。会議のシーン何回入れんねんといったように、大体わかったと思っているのにまだやるかというくらい似たような場面が繰り返される。とにかく出てくるのは人、人、人。上映前、後ろの親子(?)が、知り合いの誰それが全然本読まんくせに本棚が好きという変わり者で、なので本作を観たいといっていたという笑い話をしていたのだけど、そんなに本棚は出てこない。

     アーカイブの潤沢さを窺えるシーンや、それがハイレベルで活用されていることをうかがわせる優秀な司書による運営のシーン、あるいは返却図書のシステマチックな整理の場面など、この図書館自体についてわかるシークエンスもあるにはあるが会議や催事に比べるとかなり少ない。ええい本を出せ、貴重資料を出せ、と後半は結構イライラしてしまった。

     

     しかし制作側にしてみると、そんなものはとっくにわかりきっていることなので撮ってもしゃあないということなのだろうか。だとすれば、彼我の差は周回遅れの勘定になる。まいったなあ。

     

    「EX LIBRIS - THE NEW YORK PUBLIC LIBRARY」2016年アメリカ
    監督:フレデリック・ワイズマン


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