特別展三国志 Three Kingdoms Unveling Story

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    ミュージアムは撮影可の時代に突入している。まあ本展覧会の場合、本来展示品を所蔵している中国の博物館は総じて撮影可なので必然そうなるんだろう。

     

     さて親戚の用事に向かう前に、上野へ。終了間際の「三国志」展の招待券が俺の手元にはあるのだった。
     休日かつ終了間際となると混雑必至ゆえ、開館前から並ぶことにしたのだが、到着するとすでに「J」の字くらいの列が門の前に出来ている。最後尾に並び読書しているうちに「Z」がいくつも重なる状態になっていた。


     後があるので早めに切り上げようと考えていたが、なかなかに面白くて無理だった。
     展示は大まか3種類に分けられる。1つは日本における三国志だ。「三国志」といっても、史書としての三国志と、フィクションとしての三国志演義があるのはよく知られた話。日本で広く流布(中国でも同じだが)したのは後者で、特に戦後は吉川英治の小説とそれをベースにした横山光輝のマンガ、NHKの人形劇、コーエーのコンピューターゲームあたりが定着に貢献した作品たちであろう。

     このうち、横山三国志の原画と、NHKの人形の展示があった。国立博物館での開催だし、キャッチコピーが「いざ、リアル三国志へ参らん」だから、これらの展示はあくまで脇役で、合間合間のブリッジのような役割として扱われていた。まあそれでも人気は一番ある。実際原画の力強さといったら。特に連載初頭は作者も若いし張り切ってるしで、線の活き活きした様子にかなり感動した。

     人形もしかりで、衣装の刺繍の精緻さはかなりのもの。ある程度定型をなぞりつつ、横山三国志等との違いを出そうという意気込みが、孫権の金髪あたりに出ていてよい。

     

     メインは中国の博物館が所蔵している歴史的文物だが、これが大きく2種類ある。1つは中国における「演義」。三国志の物語は唐〜宋〜元と長い歴史の中で徐々に形作られていったのだけど、「演義」の作者が明の羅漢中ということになっている通り、明代に確立され、清代で中国における決定版(毛宗崗本)が生まれ人口に膾炙した。なのでそれらの時代、フィクションをベースにした絵画が作られているわけだ。


     そこに描かれているのは日本人でもひと目で関羽だ孔明だとわかる姿なのだけど、それ以外のキャラクターも結構わかるもんで、なるほど日本での描かれ方も中国で流布したパブリックイメージを結構なぞっているんだなと思った。例えば呂布のバッタみたいな兜など。まあ当たり前といえば当たり前なのだが。


     残りは、ズバリ当時の文物だ。陵墓等からの出土品で、具体的には食器類や装身具、像、印鑑などである。まさにこれこそ「リアル三国志」の展示なのだが、最も人気がなさそうでもある。実際、後日に「友達と見に行ったら、全然面白くなかったといっていた」と知人の談を聞いた。あれらを興味深く見ていた人の多くは、どちらかというと博物館好きだったり考古学ファンだったりするような人たちではなかろうか。

     

     多くの人にとって三国志は、赤馬髭男の武勇や忠義、羽扇子白装束男の知謀といった、ヒーローたちの活躍が魅力である。中学生のころの俺も、もれなく同じ入口から入っているのだけど、加齢とともに軍人や政治家に感情移入することもできなくなった。自分がこの物語にあまた登場する知謀の士の誰ほどのインテリジェンスも持ち合わせていない現実を思い知るというのもあるし、周囲の上司も「登場した時点で敗北が決定している名前も覚えていない雑魚の太守たち」とそう変わらんことを目の当たりにし割と世間全体がそうだと知ったというものある。

     そうなってくると袁術とかの、全然人気ない勢力に興味がいったり、社会やら経済やら、英雄譚とは別の切り口を知りたいと思ったりする。

     

     なので、漢王朝時代の技術水準とか、弱小勢力のようでいて案外生産力・技術力は高かったらしい蜀漢の水準を窺わせる出土品なんかは見ていて楽しい。

     ただ一番面白かったのは、投石に使用されたという丸い石で、マンガの中でのさんざん出てくるやつの実物というのは、ただの石ながら「ホンマに投げとったんや」と感動する。土佐文旦くらいかとにかく思ったより結構大きい。あと、あまたいる登場人物のうち、唯一当人のハンコが残っているのが曹休ただ一人というのもおもしろかった。まあ曹休といわれても、そういやそんなやついたっけかくらいの記憶度合なのだけど。

     

    改めて写真で見るとシュールな展示

     

     もう一つの見どころは最近見つかった曹操の陵墓の再現コーナー。玄室の感じを柱だけで表現していて、洒落た演劇のセットのようになっている。そこには出土品の白い器が、従来の定説を覆すほど古い時代の「白磁」として紹介されているが、知人の壺先生は「あれは白磁ではない」とご立腹。単に白く塗っているだけで素材も製法がまるで違うとのことなのだけど、まあこのころの「白い器があればなあ」という欲求が、その後の技術革新につながりまるで異なる白い器が生まれるということなんだろう。そういう点では鳥獣戯画にマンガの嚆矢を見るよりはマシなんじゃないかしら。一緒かな。


     覚悟はしていたが、ミュージアムショップは散財の罠だらけだった。何だかんだ理屈をこねても、横山光輝のあのどこか牧歌的な絵は魅力的だもんで、絵葉書だのクリアファイルだのにされるとつい手が伸びてしまう。

     ただ、名場面や笑えるコマとされているのは、SNS上でかなり定型化されている部分があり、本展覧会の商品も、そのネット上のお約束をトレースしている格好。代表格が「待て/あわてるな/これは孔明の/罠だ」と「温州蜜柑で/ございます」。

     それを考えると少々白ける気分もあるので多少のブレーキにはなる。なのである程度冷静に自重してレジへ。げーっ、6700円!(←定番のコマのお約束


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