台風の日

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     12日は西国に出張予定だった。加えて夜にバンド練習の約束があり、それに間に合わせるためには仕事終わりで大急ぎで駅に戻って最も早い新幹線に乗る必要があり、そのためには自腹でタクシーを手配しないと無理なので、事前に地元のタクシー会社を確認して…となかなかに慌ただしいスケジュールを描いていたのだが、直前になって出張は取りやめになった。新幹線が止まるというから土台無理なのだが、大学はそもそも警報が出ると休講になる。SNS上では「台風が来て出勤できなくなる恐れがあるので今夜中に出社して会社に泊まれ」等の狂気の沙汰に怨嗟の声が上がっていたが、その点大学は責任があるので必然理性的である。

     

     そもそも行く予定だった大学は、土曜は職員が誰もいないので、自分で鍵を開け、終了後に自分で締めなければならない。余談だが、終了後に女子学生がトイレに行くと、施錠の手前、終わるまで待っていないといけないので、これは俺今ハラスメントをしているのではないかと思えてきてしまい困る。

     

     話を戻すと、今時の大学は正課だろうが課外だろうが補講を必ずやらないといけないので、休講になると日程調整その他かえって面倒なことになる。正直なところ、警報出ているのに休講せず、学生が誰も来ずに教室に俺一人、というのが最も楽だ。日程調整しなくていいし、不労所得ごっつぁんですになる。だから休講になるというのもあるんだろうな。台風の日に会社行きたい連中も、自分だけ行ってりゃ後はファミコンしてるだけでも給料もらえるのに、わざわざ部下を呼びつけるとは要領が悪い。

     

     関西は進路からは逸れている予報であったが、昨年のあの暴風が頭にあるので、あちらこちらで風で吹っ飛びそうなものを軒並みしまっている様子を目にした。で、その日になると風より雨が酷かった。

     出張がなくなりのんびりスタジオに行けることになったが、しかし、バンド練習はやるのか?土砂降りの中、楽器を持ち出すのも、出歩くことさえ大変だ。ついでにスタジオ側からすれば、我々はまるで豪雨の日に宅配ピザを頼む客のようなものなのではないか。やはりここは中止しようと合意したのだが、途中までドラマーと話が若干噛み合わない違和感を覚えていたところ、ニュースを全然見ていなくて台風の存在を知らなかったとのことだった。そんなことあんのか。

     まあでも、阪神大震災のとき、目覚めると部屋がめちゃくちゃに散らかっていたので空き巣だと慌てて財布の在処を確認した友人もいたっけか。こいつの場合はあの揺れで起きていないのだからどうにかしているのだが、台風はレーダーだの衛星だのからわかることをニュースで伝え聞くからそうだと認識できるだけなので、確かに情報がシャットアウトされた状態では、今日は酷い雨だなあくらいにはなる。

     一方で、地震と違って何日も前から来ることはわかっているからまだマシだといえるが、それでもいざ物凄いのが来ると、わかっていたところでどうしようもない部分はいくらでもあるとニュースを見ながら思った。来るとわかっているものが実際来たら想像以上に抗えなかったというのは、想像すると心底ぞっとする。

     

     話を戻すと(2度目)、ひと月以上前から決めていた予定だったので、延期にするのは正直嫌なものである。補講と同じく日程のすり合わせも少々面倒くさい。会社員時代は、そういう仕事だったのでしょっちゅう予定が覆り、なんとかバックレようと画策したり、実際トンズラしたりした(地方都市の勤務でも、こまごましたことはそれなり結構あるものなのだな)。

     なので予定が変わることを嫌う気持ちはよくわかる。よくわかるのだが、若手のボンクラ社員と同じ行状を、50も60も過ぎたいい大人、兼、国や自治体(大阪府)を預かる立場の長が平気でやれてしまう(今回の台風ではなく、昨年のや先般の15号でのこと、大阪の場合は去年の話)というのは、君主制の限界ととらえればいいのだろうか。

     少なくとも、向いてないから辞めたら?と思う。一応君主制じゃないんだし。災害用の臨時態勢をとにかく嫌うという点、社員に無理やり出勤を命じてくるマインドとも通底しているんだろうな多分。スイッチ押せば電気がつく、の入出力だけで世界が出来ているような認識というか。だから河川敷に建物作って「有効活用」とか、避難所にもなりうる公共施設つぶして売り払って無駄削減とかいう発想になるんだろう。頭の中に平時しかない銭金平時だからな。

     

     まあ「予定変更嫌い」ととらえるのはお人よしなとらえ方で、要するに「自分らでどうにかしろ」を実践してるというのはいろんな人が指摘している通り。

     ニュースを見て思ったのは、東京はやはり災害対策のインフラも地方よりは俄然整っていて、タワマンざまあみたいなことで留飲下げても、地方はもっとひどいからやりきれん。それで「自分でどうにかしろ」に持っていきたいんだから、これはいよいよ日本でもタクシン派が出現するのか。と思ったが、日本の場合は自民党が長らくタクシン派の役割を担ってきていて、今じゃ同じなのは看板だけだけど、看板は同じだからタクシン派なんか出てきようもないか。

     

     ところで公務員の採用に当たっては、論文試験があるのだが、定番のお題に「災害対策」がある。最近の学生は多くが「自助・共助」を強調した内容を書いてくる。それが模範解答だと思っているからである。なぜそれが模範解答だと思っているかといえば、元をたどれば政府がそんなことを言っているからで、それを受けて地方自治体も似たようなことを住民にPRしているからであり、そしてさらに「これが模範解答だよ」と無邪気にふきこむ人間が彼らの周辺にいるからである。「自助・共助」は、自分を律し、助け合うことを意味しているから正しく美しい響きがあり、学生の側も受け入れやすい。

     

     しかし。役所が掲げる美名の正しさだけに目を奪われるのは最悪死につながる馬鹿馬鹿しく危ういことなのだという認識は、世間知として大事なことだ。危うさに無自覚なまま「これが正解なんでしょ知らんけど」という若人ないしはひたすらに本気で信奉している若人を放ったらかしにはできん。採用試験での有用性はあやしいものだが、大学で大学生を相手にしていると業者に徹するのは小判でももらわんとやれんわ。


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