きたれ、バウハウス

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     仕事で近くまで来たので、かなり久しぶりに西宮市大谷記念美術館を訪れた。夙川沿いは桜並木になっていて、すっかり紅葉している。快晴と相まって心地よいが、この小綺麗な環境は内心ではあまり落ち着かない田舎者である。その落ち着かない住宅地に、地主の金持ちの邸宅、くらいの面構えをした美術館がある。


     「開校100年 きたれ、バウハウス ー造形教育の基礎ー」。バウハウスという固有名詞は個人的には、文化格差を痛感した懐かしい響きを覚える。大学に入ったころ、バウハウスがどうのこうのと周囲の人々が話すのをちょくちょく耳にして、文脈上、美術かデザイン関連の言葉だとは察しがついたが、何のことかはよくわからなかった。以前に書いた「ブレードランナー」と似たような話だが、あれは少なくともそういうタイトルの映画があるということは知っていたのに対し、こちらは何者かすらもわかっていなかった。そのうち洋服ブランドの「アバハウス」という名前も知るところとなり、ごっちゃになった。ダンシングクイーンのアバのイメージが付きまとうので、思ったより地味なデザインの服屋だなと言いがかりのような感想を抱いた覚えがある。アバハウスに話が逸れている。

     

     学生のころに「耳にはするがよく知らない」だった物事は、大方その後の人生で何らかの形で知るところとなったものだが、バウハウスについてはちっとも知らないままとっくに四十も過ぎた。いい機会だ。お勉強するとしよう。


     戦間期のドイツ(ヴァイマル共和国)で生まれた建築とか工芸とかを学ぶ造形学校である。こんな基本のキも知らんかった。この程度のことは嫌でもどこかで目や耳にしそうなものだが、そうならなかった。なんでだろ。「胡散臭い」の「胡散」て何なん?と知らないまま「胡散臭い」と使っているようなもので、言葉だけが独り歩きしたせいかとうがってみるが、よほど興味がなかっただけのことだろうな多分。

     

     実際、この学校にかかわった芸術家として名を連ねている、クレー、カンディンスキー、モンドリアンといった面々は、作品に何の興味も持てなかった記憶がある。何を描いているのかがわからない、というよりは、その「よくわからない絵」を好きというのが格好いい、という態度に反発していたから。一種の反知性主義だな。「ああわからんさ。だけどわからんと正直に言う俺の方が正しい」という(今はわかるのかというと、わかるとかわからないんじゃないんだよとわかった風な口を利けるようにはなっている)。なので、「バウハウス」なる単語が出てきたとき、目の前に浮かんだのは「俺には縁のない何やら洒落たもの」で、それを忌避していたのだろう。青臭さにむせかえるな。

     

     かなり欲張りで貪欲な学校だったようで、「バウハウス」は「建築の家」くらいの意味だというが、写真だのレタリングだのテキスタイルだの陶器だの、美がつきまといそうなものには軒並み手を出して続々講座を開いている。

     で、ベースには工業製品を意識した合理性のようなものがあるので、仕上がったものは大抵幾何学的なシンプルなつくりになっている。これが現代のライフスタイルにどれだけ影響を与えているのかは、椅子の展示コーナーがホームセンターの家具売り場にしか見えないことで十分に窺い知れる。

     

     この、工業との密接なつながりは、産学連携的な国策との親和性を想像させそうなものだが、なんでもかんでも講座を開講するところとか、教授陣にカンディンスキーのようなわけわからん絵を描く人がいるとか、センタクとシューチューとは正反対を行っているところが日本にとっては今こそバウハウスという感じがする。

     ついでにこの学校はナチスの台頭で閉校になるから、統制的な政府とも相性が悪いのもまた示唆的。なぜナチスに目をつけられたかといえば、ナチスは「わけわからん絵」が頽廃芸術だからってんで嫌っていたせい。これもまた、統治者が芸術の良し悪しに口を出すとどうなるかを教えてくれるという点でもすばらしい学校であり、知らんままだったことを反省した次第。
     外に出たら、隣の学校の校舎が、まんまバウハウスの建物やんけ、と思った。


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