【やっつけ映画評】国家が破産する日

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     本作を見るため、アメリカ村に足を踏み入れた。今でもここは若い衆の街である。少子高齢人口減少社会にあって、年寄りが眉をひそめる風体の若人をこんなに大量に見れる場所は関西では珍しくなっている。こんなエリアに不釣り合いなおっさんおばさんがうろついている場合、そこそこの確率でシネマート心斎橋の客である。俺しかり。まあ、老若入り混じる十三の雑踏の中でも見分けがついてしまうナナゲイの客に比べれば全然普通の風体だが。

     

     映画館が入居する商業施設の向かいには、楽器屋が3軒も並んでいる。我らがバンドがいつも利用しているスタジオの支店も反対側の向かいにある。ロックがとっくに年寄りの趣味になっている今時にあっては、こちらも不釣り合いな存在に思えてくるが、これはただの脱線。

     

     このアメ村で服を物色していた学生のころ、世の中は受け手が動かしているものだと思っていた。つまり「タピオカがブームだからタピオカ屋が続々開店する」といった図式である。しかし実際のところは逆で、それを仕掛けたやつがまずいて、受け手はその掌の上で踊っているだけというのが珍しくない(タピオカはあくまでたとえなので誤解なきよう蛇足ながら)。そして踊らされている方は大抵その自覚がない。あったとしてもせいぜいタピオカ屋の主にボラれている可能性を想像する程度。だけど実は店主も同じく踊らされている側で、仕掛け人はもっと奥にいるものだ。

     といっても別に裏のフィクサーとかそんな陰謀論めいた話ではなく、政治の世界の話として新聞にも堂々載っていたりする。普通の人はそこまで記事を読まないか、テクニカルな読み解き方をしないとわからないかで知る由もない。
     本作を見ながら、そんなことを想像した。

     

     20世紀末の通貨危機が題材だ。韓国版「マネー・ショート」。経済の話を上手く娯楽映画にまとめている。前にも書いたことを繰り返すが、韓国はこういう重厚な映画が生まれ、ヒットする社会である。過去を検証できない、顕彰しかできない日本社会が見下せることなんか何もねーよ。

     

     バブルがはじけて経済が崩壊していく中で、その危機を以前から警告していた中央銀行のチーム長(課長クラスくらい?)のハンと、なぜか彼女の動きを封じようとする政府高官パク、経済危機をいち早く嗅ぎ取って逆張りで大儲けしようとする金融屋ユン、思い切りこの恐慌に生活を脅かされる町工場の経営者ガプス、それぞれを主人公とする場面がテンポよくつながり、スリリングに経済危機を描いている。「マネー・ショート」と違って、政府側の人間が登場するから殺伐しているし、町工場のおっさんの追い詰められ具合もしっかり描かれるので、あの映画よりも重い。

     

     本作で最も印象的なのが、ユンのセリフだったか、この経済崩壊を国民が自分らのせいだと思うと指摘している場面だ。自分たちが(あるいは世の中の人々が)欲にかられたから、贅沢をし過ぎたから、こんな悲惨な事態に陥ったのだという認識である。そういう側面があったことを否定はできないだろうが、必ずしも市井の人々の熱病だけで起こったことではないと本作は描いている。

     

     

     破産が迫る中で、韓国銀行のハンは、いくつかの対策案を提示している。通貨を安定させるという中央銀行の責務を背負って彼女はあれやこれやと必死に色々と考えるのだが、政府高官のパクにことごとく阻止される。このパクは彼なりの正義でもってそうしていることが描かれているのだが、他に取りうる選択肢を取らなかったという点で、ガプスら庶民の生活を破壊させた能動的な存在となっている。

     しかしガプスには知る由もない。政府内部の話だし、彼自身、工場内で流しているラジオでニュースがはじまると「何難しいこといってんだ」と歌謡番組に切り替えるから、たとえ報道されても知りようがない。おそらく「現金決済」の信念をまげて手形に手を出した己の判断を恨んでいるのだろう(なぜか映画では、ガプスにそういう後悔のセリフが一切ない。監督も「未だ自分たちのせいだと思っている人がいるのをどうにかしたかった」と公式HP上で語っているし、ガプスの悔恨なり、手形決済を強く勧めた同僚をなじるなり、何らかセリフが要るのでは?)。


     一方、若いくせに政府の出方やからくりを見抜いて上手く立ち回るユンは逞しいのだが、彼とて仕掛けられた社会の中でうまく立ち回って、庶民が失う金や資産を我が手に収めたに過ぎないから、踊らされプレイヤーの一人にすぎないともいえそう。

     ついでに仕掛け人のはずのテクノクラート・パクもIMF担当者の前では借りてきた猫状態。彼はラストで、その後大企業のCEOに就任していることが描かれ、まさに悪い奴ほどよく眠るを地で行っている憎たらしさなのだが、彼もまたIMF・アメリカの描いた筋道の上で踊らされている一人にしか見えなくもあり、憎たらしさの持って行き方がよくわからなくなってしまった。とりあえずは「IMF、ダメ!ぜったい」という啓発を確認するほかない(交渉とは名ばかりで、ひたすらジェントルに恫喝・強要してくるこの俳優の演技はとても素晴らしい)。


     この後韓国は、テクノクラート・パクが思い描いたように、構造改革路線を行き、サムスン、LGといった大企業が世界シェアを獲得していく一方で、格差は拡大していく。同じく日本も、いつまでもパソナ会長のいうことを唯々諾々聞いて構造改革、新自由主義を相変わらず突き進むも、韓国と違ってちっとも経済成長していない。この映画を見て振り返る必要があるんじゃないかと思うが、上映館は非常に限られていて、東京ですらそんなにやってない。

     

     そういう俺はというと、年末が近づくにつれ、確定申告の時期を実感し出して落ち着かない気分になっているくらい、金勘定はとことん苦手なのでユンになれないのは言うまでもなく、ガプスにすら及ばない。くだらない話に着地しようとしているが、この映画もろくに救いのない具合で終わるから仕方ない。唯一の希望は、ラストに登場する若い女性の逞しさだけだ。

     

     なので帰途、すれ違う若人たちに「勉強しろよお前ら」と心の中で迷惑説教ジジイになりながら電車に乗ったわけだが、すでに書いたように本屋に寄ると反日ナンチャラの本がずらーっと並んでいるから、そりゃゲンナリするさ。同じ韓国産でも、そっちに手を出してどうするんだ。「これだから韓国は」などと留飲下げたところで、そっちに行ってくれた方が何かと助かる面々にまんまと乗せられてるだけだよ。

     

    「국가부도의 날」(国家不渡の日)2018年韓国
    監督:チェ・グクヒ
    出演:キム・ヘス、ユ・アイン、ホ・ジュノ


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