映画の感想:幸福路のチー

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     こちらは現代のアニメ映画。クラッシャージョウに比べれば、はるかに単純な線で描かれた牧歌的なタッチをしているが、アニメもずいぶん進化したもんだと思いながら見た。


     内容は個人の伝記、回顧録の類で、30代半ばくらいまでの一人の女性の来歴をたどりながら、家族とは、ふるさととは、といったところを描いている。1975年生まれとあるので、俺と同世代の設定だから、国は違えど手触りの似たノスタルジーを感じた。そのせいか、俺と同世代とおぼしき後ろのおっさんは上映後、会場が明転してもなお豚泣きしていた。俺はおばあちゃん子ではなかったせいだろう、大して涙腺は反応しなかったが、まあ泣く観客はそれなりいそうな作品だと思う。女性が主人公で、結婚とか出産とか母との相克とかがストーリーに絡むので、女性の方がより楽しめそう。


     ただ、本作はアニメの絵の仕上がりが貢献するところ大で、実写だと、NHKの地方放送局制作ドラマと似た、かつさらに凡庸な内容になったと思う。何てことのないある一人の女性の半生を上手い具合にまとめているという点ではよくまとまった佳作だが、「故郷に戻って自分を見つめなおす」というパターンがNHK地方局的で、かつその故郷への接し方なり距離感なり主人公への影響度なりは凡庸に見えてしまった。俺も以前に同じような「帰省モノ」を作ったことがあるが、凡庸さがまあまあカブってみえるような気も。これは一つには、主人公の設定年齢が俺と同世代のせいもあろう。

     

     アニメの出来栄え以外で興味を牽引する要素は「台湾社会」に尽きる。観光や他の台湾映画で見たことのある台湾の街並み、檳榔屋、家屋、学校、高圧的な教師、田舎の景色、スクーターの移動、そして80〜90年代の政治の激動。これらが個人史の中に織り混ぜられていて、興味をそそる。主人公が「この運河もすっかり変わったなあ」と眺めるかつてのどぶ川が親水公園に整備されてるさまは、現地でも真新しい同型のスポットを見たので、印象に残った。あと、祖母の葬儀の様子が「父の初七日」と違って泣き屋もいなければ派手な飾りつけもないのは、祖母がアミ族の出で道教信者でもないからだろうか。これも興味深く見た。

     

     

     「ちびまる子ちゃん」のようなタッチ、内容でありながら、主人公がデモに参加したり、陳水扁の当選を受け国民党支持者が民進党シンパの主人公の勤務先を取り囲んだり、母親が馬英九の熱烈なファンだったりするのに困惑した日本の観客も少なくない模様である。

     これは昭和20年前後が舞台の日本のフィクションで必ず戦争が登場するのと同じようなもので、80末〜90年代の台湾社会を舞台にすれば政治の話が登場するのは必然である。それほど人口に膾炙した激動だったということだ。一方でそれに困惑する人がいる日本社会は、それだけ鼓腹撃壌な日々を過ごしてたといえる。蔵書の種類で逮捕されるような社会でなかったことは幸福なことだが、一方でツケもずいぶんため込んでしまってる。物価だけでなく、社会の成熟度合でもどんどん差が開いてきてるんじゃないのか。


     そういう台湾的な断片をずいぶん面白くみたのだが、しかしこれ、台湾の人にしてみればどれもわかりきっている普通のことなので、ただただ一人の女性の地味な日々をつづっただけの作品になってしまう。だとすれば、現地で何でヒットしてるんだろう。

     

     と疑問に思ったが、これまで見た台湾映画はしばしば、あまり新味のないものを堂々とやってのける作品が珍しくなかったと思い出した。そういう作品でしばしばみられる余計な脱線のような雑味がない分、本作はずいぶんスマートな仕上がりといえる。

     そしてふと思ったが、主人公がきちんと年を重ねている描き方をしている映画は、最近の日本だと少ないのかも。簡単なタッチの絵なのに、主人公の小学生時代の友人が、大人になって登場したときに説得力のある外見(確かにあのガキが年食ったらこんな感じになりそう)をしているところといい、年を重ねるという点では、結構見事な描き方をしている作品ではないかという気がにわかにしてきた。

     

    「幸福路上」2017台湾
    監督:宋欣穎
    出演;桂綸鎂、魏徳聖、陳博正


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