【やっつけ映画評】さよならテレビ

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     会社員時代のこと。気難しいおじさんにインタビューをする機会があり、同行した後輩に写真撮影を任せた。ほうほうへえへえと話を聞いている傍らで後輩がカシャコンカシャコンとシャッターを切っている。黎明期のデジタル一眼レフだったのでシャッター音がダサかった。終わって帰社するとその後輩がニヤニヤしながら撮ったばかりの写真を表示したPC画面を見せてきた。写っていたのは実に陳腐な愛想を浮かべている俺だった。これぞブン屋の欺瞞だという決定的瞬間を激写したと、大意そんなことを言われ、まさしく嘘まみれの作り笑いだったからぐうの音も出ず、自戒も込めて記念にありがたく頂戴した。


     本作はいわば、この後輩と似たようなことを戯れ抜きでやったドキュメンタリーといえる。単に同僚にカメラを向けたのが同じ、というだけではない。「正体捕えたり!」とばかりにゲラゲラ笑っていたあの後輩自身に、どれくらい自分と重ねる視点があったのかという点含め、似ていると思った。


     自社の報道部門が被写体だ。日々の仕事ぶりを写している。テレビ局がテレビ局にカメラを向けるのは地震発生時の社内の様子くらいなものなので、映し出されているもの自体、それなりに貴重な内容である。報道という括りでは、知らないこともない現場の様子であるが、新聞とは結構カラーが違う。くだらないところでは、全体的に服装がチャラい、というほどでもないが、とにかくシャツのストライプ率が高い。会議の際に常にマイクを握って発言する(フロアが広いから?)のは不思議な文化だと思った。
     もう少しまともな話だと、やはり文字媒体と映像媒体との違いである。制作過程がまるきり異なるので、同じ報道といっても会社内の雰囲気だとか社員の基本スタンスはかなり違う。何というのか、報道をやっているというより番組を作っているという方が表現としては正確な印象を受ける。作中、社内で問題になるのは、抜いた抜かれたの報道合戦ではなく、放送事故や「お詫び・訂正」だったり視聴率だったりする。この辺のことは本稿の本題ではないので深くは触れない。1つだけ、「人が多い」というのは後で触れる。

     

     本作の趣旨は、自らを撮影対象とすることで、凋落が言われて久しいテレビメディアについて改めて批判検討するといったところだろう。事前の原稿通り綺麗にまとまったことしか言えないメインキャスターの福島、ジャーナリズムの鈍化に危機感を覚えつつもスポンサー絡みの提灯記事ばかり振られる契約社員で記者の澤村、同じく契約の立場につき何とか成果を出したいと意気込むも、どうにも要領が悪くミスばかりしている若手記者の渡辺。この3人の男性を主役格に据えて(元々見られる仕事の人と正社員でない人2名という人選に若干もやもやしたがそこは言いがかりかもしれない)、テレビの現実を炙り出す。

     

     その個々のエピソードはそれなり興味深いものの、全体としてこれは何をエグろうとしているのだろうと疑問符がついて回ったところで、最後に犖事な瓮チが待っている。爿疉佞で勿体ぶった書き方をしているのは、俺自身はあまり見事には思えなかったからだ。急に森達也にカブれた人が作ったようなオチだった。言いたいことはわかるしそれも一つの大きな課題だろうが、いま問うべきは「そこ」ではないんじゃないのと強く思った。

     

     

     少し以前に、テレビ局勤務の知人と会う機会があり、酒を飲みながら表現の不自由展の話になった。凄く面白い話なのに社内の人間が誰も取り上げようとしないという。河村がこう言った、大村がこう反論した、展覧会はこうなった、というようなストレートニュース以外にやる意味があんのか、というような雰囲気が支配的で、じゃあ俺にやらせろと企画を考えたと。そこまでの心意気は素晴らしい。
     彼はそれぞれの立場のいわゆる「有識者」を揃えて討論番組を用意したといい、俺はこの時点で賛同できなくなった。ついでに「有識者」の人選も俺からすると大いに問題あり。これぞまさしく今のマスメディアが抱えている悪癖の代表格ではないかと思ったものだ。

     

     ここでの問題点には、まず両論併記の悪癖があり、この辺の話は映画「否定と肯定」のところでも書いた。世の中には意見が拮抗して大いに議論すればよい物事もあれば、「歩きスマホの賛否」のように賛否を戦わせる意味がないものもある。科学的に危ないんだからやめとけという話でしかない。日本のマスメディアは客観報道の名のもと過度にこの両論併記に傾く傾向があるが、その必然の帰結として、高みの第三者ポジションを取るもう一つの悪癖を呼び込む。俺が彼に引っかかった一番はこの点だ。

     

     あの展覧会の一連の話は、テレビ屋の仕事にもど真ん中で関わることなのに、自身は無色透明の第三者ポジションにいようとする。だったらせめて人選くらいどうにかすべきだが、テレビのコメンテーターとしてよく見かけるようなイージーな面々(単に安直だというだけでなく、よく見る面々にはパチモンが多い)。これは彼特有の問題ではなく、どこのチャンネルでも見かけるいつもの光景であり、それだけに「お前もかよ」と苛立ってしまったのだった。

     

     本作も同じようなスタンスを感じた。例えば澤村記者のくだりである。経済紙や雑誌を経てきたベテランながら契約社員のため便利屋のように扱われているのだろう、「是非ネタ」と呼ばれるスポンサー絡みのユルい取材ばかりやらされている。「経済紙で企業の提灯記事ばかり書いてきたから抵抗ない」と自虐を嘯きつつ、内面にはジャーナリズムへの渇望があることが次第にわかる。共謀罪を巡る他局のニュースに「批判精神がない」と嘆いたり、メディア関連の本は全部読んで自分なりにあるべき姿勢を模索したりしている。そして折に触れて本作監督に向かって「あなたはどう思いますか」とか「ドキュメンタリーは事実ですか」とか問いかけてもくるのだが、監督は決まってわからないという姿勢を取る。

     

     一方、正確性を意識するあまり周囲から無難過ぎると評されている福島アナに対しては「リスクを取ることも必要だろう」と積極的に議論を吹っ掛ける。しまいに福島は「何が言いたいんですか」と苛立った表情を見せるのだが、おそらく監督は議論がしたいのではなく、素の表情を取りたくてわざと怒らせるようなことを言っているのだろう(もし本当に議論がしたかったのなら論点の提示が雑過ぎて学生以下だ)。

     

     どちらもテレビ取材の常道なのだろう。いわば取材者が馬鹿になることで相手から言葉や表情を引き出す。同局制作の「ヤクザと憲法」はこの手法が多いに功を奏しているが、本作ではどうか。

     

     本作のラストは、こういった「テレビ的な手法」を露悪的に種明かしすることで問題提起している。それはそれで重要な自戒だろうが、今時そこ止まりかあと拍子抜けもした。ジャーナリズムの行く末に苛立つ澤村にしろ、キャスターのあり方に悩む福島にしろ、彼らが投げかけるものは監督にとっても自分の商売のど真ん中の話であるのに第三者でいようとしている。そのスタンス自体が大手メディアの機能不全を生んでいるんじゃないのかね。ラストで示しているのはその発露の一端に過ぎない。

     

     それにしてもテレビは人が多い。人手は足りてないから総数の話ではない。画面に映るのがレポーター1人でも、画面の外にはカメラ、音声、照明、その他の担当の人々がいて、街ぶらロケなんかするとさながら財前教授の総回診の図のごとくになる、そのような多さについて、改めてしみじみ感じた。ただでさえ組織の中で常道を覆すのは難しいものであるところ、1つの取材でここまで人が絡むから、そりゃ余計に難しくはなるんだろうなと思った。会社が「お前を前面に押し出して売り出すぞ」と発破をかけたところで福島アナに出来ることは構造上そんなになさそうな印象を受けた。

     

     だからこそ、曲がりなりにも「監督」が存在する劇場公開映画として制作しているのだから、普段のテレビの仕事とは違うアプローチができる分、やるべきことはもっと他にあったんじゃないのかしらと思うわけである。ま、この取材を本当やるべき相手は、大阪のテレビ局だけどね。


    2019年日本
    監督:圡方宏史


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