【やっつけ映画評】バジュランギおじさんと、小さな迷子

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     インド×パキスタンの対立をテーマにしている時点で俄然興味が湧く作品だが、前半のツラさは「パッドマン」と似ていた。ご都合主義が酷い分、本作の方がよりキツい。インド映画はあまり本数を見ていないが、聞くところによると大抵こういうものらしい。ベタベタな展開に呆れていたはずがいつの間にか引き込まれ、最後は感動している。
     裏を返すと前半は耐えるのみ。つまり、北米や西欧、韓国の映画などではある程度共通している物語の組み立て方や端折り方が、インドでは通用しない、だいぶ違う発想で作られている、ということだろう。やたら踊るところもまたしかり。異文化交流の難儀さを簡単に味わえる。そこへいくと「めぐり逢わせのお弁当」はインド映画のくせにやけにシンプルな展開だったと思わずにはいられないのだが、改めて確認すると「インド・フランス・ドイツ合作」となっていた。道理で。

     

     パキスタンの少女が政治的に対立する隣国インドで迷子になり、偶然出会った男が苦心惨憺国境を越えて少女を家に送り届ける。そういう温かな物語だ。

     

     序盤、国境を横断する鉄道から少女が迷子になる過程は、まるで「銀河鉄道999」だ。あのマンガ、わざわざトラブルになるために主人公・鉄郎は停車駅の惑星で下車している感がある。まあ子供というのは往々にしてわっかりきったミステイクを無邪気にやるものであろうが、この少女、利発そうな外見とは裏腹に、興味関心に引きずられてすぐどこかに姿を消したり、手癖悪く盗んだりする。日本だと難しい漢字かアルファベットが並んだ病名を付けられてしまいそうなレベルに見えるが、それもこれも物語に起伏を作るためのご都合主義に見えてツラい。


     そしてこの少女は発声できない障碍を抱えていて、そのため家探しも難航する展開なのだが、ラストで去っていく「バジュランギおじさん」に向かって呼びかけたい一心でとうとう声を発するあたり「北斗の拳」だった。そして印パ対立は必然宗教の違いが絡むわけだが、相手の宗教の作法で敬意を示すくだりは「ブラック・レイン」を思い出さずにはいられない。

     

     というわけで本作は、銀河鉄道999で始まりブラックレインを経て北斗の拳で終わる「日本が世界の中心で輝く」映画、「日本が南アジアの平和と安定の架け橋」である映画といえよう。ブラックレインはアメリカ映画だが、そういう意図に沿わない事実は無視しなければ、日本万歳利権のおこぼれには預かれないのである。


     さて高校世界史レベルで歴史を振り返っておくと、第二次世界大戦後、英領インド帝国は独立することになるが、その際宗教対立から西のパキスタン(イスラム教)と東のインド(ヒンドゥー教)に分離独立することになった。不法入国を手伝う業者の男が「ジンナーの札を寄越せ、ガンジーのは要らない」と言う台詞があるが、ジンナーはこの分離独立の際のパキスタンの代表者である。両国は印パ戦争に代表される激しい対立を繰り返し、現在に至るわけだが、中でも帰属を巡って話がややこしくなっているのがカシミール地域だ、というのが試験の定番である。ついでに昨年、モディ政権はジャム・カシミール州の自治権剥奪を行って混乱が広がり、再び注目が集まった。ここの時事の試験で出るから要チェック。

     

     迷子の少女シャヒーダーは、このカシミール地方のパキスタン側の山村の出身という設定である。冒頭、ゴタゴタとしたニュースからくるイメージとは程遠い実に美しい景色に圧倒される。急峻な山の白と丘陵の草の緑が映えること映えること。これぞ「深夜特急」冒頭で触れられている白いカシミールというやつか。

     

     このシャヒーダーが旅先のインドで親とはぐれて迷子になるのだが、かような政治対立のため、やすやすと両国間が渡航禁止状態になったりで容易に帰国できない。日本も戦後、長く大陸と国交がなかったから残留日本人もなかなか帰国できなかったから遠い国同士の奇異な出来事ではない。
     彼女を救うのがバジュランギおじさんことパワンだ。気は優しくて力持ちという御伽噺的な設定の主人公で、篤い信仰心がその源泉である。ハヌマーンという神を折に触れ拝んでおり、要するにヒンドゥー教徒だろう。熱心な信者過ぎて「正直であること」が常軌を逸しており、これがまた物語のドタバタを生んでいる。その最たるものが不法入国の場面だ。
     隠密行動が基本なのに「こそこそしたくない」と、正々堂々国境警備隊に「通ります!」と宣言する。当然「ふざけてんのか」とボコボコにされるのだが、ついにはパワンの信念が勝り、根負けした警備兵が見らんふりしてやると温情をかける。だのに「見ないふりとかそういうんじゃなくて、こそこそしたくないので許可下さい」と一切の妥協がない頑固なブレのなさを見せる。警備隊にすれば最大限の譲歩をしてやっているのにたまったものではない。ついでにこのやりとりも結構長くてしつこく、うんざりする。


     

     ここまで正直さを貫徹しても、後にこの警備兵たちが意外な協力をしてくれ…、という日本昔話的な展開にはならない。見返りを求めるのは正しい信仰のあり方ではない。ただし、こういう彼の正直まっしぐら(さすがにこれでは脚本が立ち行かなくなるからか、途中から3人目の同行者に黙らせられる格好でこそこそするのだが)路線が、市井の人々を巻き込んでいったのは間違いない。ラストのパワンは、歴史の名を遺す宗教指導者のごときカリスマ性に溢れているから、信仰という俺には全く縁のない価値観のパワーを見せつけられてしまう。

     

     ただし、これがパワンの抱える矛盾であり、本作の見どころのひとつだが、シャヒーダーを送り返すという割に合わないミッション(国境越えが大変なだけでなく、入国してからも大変。シャヒーダーの家がどこかわからないし、全体の行程も砂漠地帯から入ってカシミールまで行ってるから直線距離でも500-600キロくらい移動している)に力を与えるほどの篤き信仰心のゆえに、パワンは異教徒に対してすぐに身構える。「異教徒?それがどうした。モスクは誰にでも開かれているぞ」と相手は寛大なのに(このサングラスムスリムおやじの格好良さといったら)、パワンは敷居を跨ごうとしない。

     

     ところがラストでカリスマと化したパワンは、イスラム教の作法でパキスタンの人々に敬意を示す。これを宗教を超えた!と感動するのは容易いのだが、彼をここまで押し上げたのは信仰の力であるというのは見逃してはなるまい。
     ではラストこそが本当の信仰のあり方なのかというと、信心深くないのでさっぱりわからない。俺にいえるは、パワン本人を含め、周囲の人々は総じて「正しくあろうとするようになった」ということだ。

     

     わかりやすいところではパワンを追いかける刑事だ。ただの陰湿な脇役かと思ったら、急に恰好よくなる意外なキャラだ。裏付け捜査の結果パワンがスパイではないと判明しても、彼の上司はメンツのためか釈放を認めず、スパイだと自白させるよう念を押す。しかしこの刑事は最終的に命に背いて釈放を選択する。自分の祖国が不正義の国だとの誹りを受けるのは許されないという公務員の矜持がそこにはある。ゴーンにいいようにやられてしまった日本の刑事司法の面々には耳の痛い話であるが、どちらかといえば中村某より警察庁次長に就いてほしい人材であるというのを強調しておきたい。
     話が逸れた。途中でパワンの協力者となるフリー記者(?)のナワーブは、パワンの行動に惚れ、マスコミの力を捜索に利用しようとテレビ局に売り込みを図るが、「印パ関係は憎悪しかニュース価値がないと思われている」と当人が分析する通り、どの局も一顧だにしない。しかしネットにアップロードすると、一気に拡散して各局慌てて流し出す。これもまた、正しくあろうとするようになったということだ。

     ちなみに「憎悪しかニュース価値がない」という話も、遠い国同士の対立の話ではなく、本邦社会でもおなじみの構図である。少し前だと中国が発展している的な話はちっともニュースにならず、パクリや手抜き工事や誤魔化し処理なんかだと即採用で、韓国については絶賛進行中。チョ・グクの疑惑で沸騰しつつ、検察改革のデモが巻き起こるとさっと撤退。まるで同じことだよ。もう少し、敬虔になった方がよいのかしら、それとも宗教が絡んでない分、あちらよりこちらはいくらでもうまくやれる方法があるという話なのか。

     

    蛇足:外国人のうち母語によっては日本語の「かきくけこ」と「がぎぐげご」を聞き分けられないという事実に日本人はしばしば戸惑うが、日本人だって外国名詞の濁点や半濁点をうまく区別できない、というツイートを見かけたが、まさに本作のタイトルの名前を、一発で正確に把握できる日本人はどれくらいいるのだろう。

     

    「BAJRANGI BHAIJAAN」2015年インド
    監督:カビール・カーン
    出演:サルマーン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナー・カプール


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