映画の感想:フォードvsフェラーリ

0

     案の定、見終わった後にシャドウボクシングをしたくなるロッキー現象が起こった。やりたくなるのはボクシングじゃなくて車の運転だが、我がスーパーカー・ランボルギーニエスプリデロリアンストラトキャスタークレイジーソルト、別名フェアレディZ(記事下写真参照)はとうの昔に手放してしまったのでブウンブウンと口で言うだけ。大体、車の運転は嫌いではないが割とゆっくり走るタイプで高速走行は苦手なのだった。


     主人公の一人がレース用マシンにフォードの社長を乗せて爆走した後、助手席の社長が、感情が混線して泣いてるのか笑っているのか怒っているのかよくわからない顔をするシーンがあり、あれの気分はよくわかった。中国でタクシーに乗ったとき同じような顔になった。最高速度140〜150くらいなのでレースの半分も出ていない勘定だが、元レーサーが操るレーシングマシンに対して結構な年寄りが操る整備不良音を轟かせる10何年落ち乗用車だから、辻褄は合う。

     

     主な舞台はアメリカだが、決戦の地ル・マンはフランスで、ライバル・フェラーリはイタリアの会社だから時たまヨーロッパの映像が出てくる。殺風景なだだっぴろい田舎とは似ても似つかぬ、味わい深いこじんまりした石造りの街並みは、文化や歴史におけるアメリカのコンプレックスを疑似体験できる。この街並みの違いは、効率だけが支配している流れ作業のフォード工場と、クラフトマンシップに溢れ、工房という呼び名が似つかわしいフェラーリの工場との違いにもそのまま対応してくる。エンツォ・フェラーリが買収の提案に来たフォードの幹部に「クソ汚え工場で一生クソダセえ車作ってやがれカッツォ!」と罵倒した気分は、なのでわかる。


     今でも自動車メーカーごとのイメージはそれなりにあるのだろうが、技術の差が大きかった時代はそれがより激しかった。
     新入社員のころ、研修で外部講師の話を聞く機会があった。その人はかつて「BC戦争」のころ自動車セールスマンだったという。日産ブルーバードとトヨタのコロナ、同タイプ車種のシェア争いだ。その講師はコロナを売る側だったが、「性能で何一つ勝てなかった」から、売るためにあれこれ知恵をひねったと面白おかしく話していた。


     コロナの性能が悪いかどうか乗り比べたことがないので知らないが、少なくともその時代は「日産>トヨタ」という世評が浸透していたのは確かなようだ。俺が子供のころのトヨタの地位はもう少し上がっていたと思うが、エンジンスタート時の音がキャンキャラキャッキャンキャンと、甲高くてうるさいチワワのごとしで(向かいの家のマーク兇そんな音だったと記憶)、子供心にもダサいと感じたものだった。我が家は日産で、キュキュキュッ、ブン!と、もっと低く貫禄があった。

     

     フォードも同様、大衆車を初めて生み出した自動車業界の革命児だが、それだけに安っぽいイメージはついて回ったのだろう。そこへいくとフェラーリは、昔も今も「最も速くて赤い車を作っている」というイメージがゆるぎないので大したものだ。ま、そんだけ客を選んでいる鼻持ちならない高級ブランドってことだけど。


     本作は、若い層にウケるスポーツカーを売りたいフォードが経営戦略としてレースに参戦し、絶対王者フェラーリに挑む実話をもとにしている。車に詳しくない人にこのアンバランスを例えれば、ユニクロ対ベルサーチ、パイロット対モンブラン、ヤマザキ対江川の水ようかんと似たようなものだ。実に無謀な対決だが、ポイントは経営規模だけは敵方よりずっとデカいということである。資本力はある。だがこのなめらかさは出ない。いやようかんの話ではなかった。町山智浩によると、エンジン音は本物の録音を使用しているらしいのだが、フォードのただの爆音に対して、フェラーリのエンジン音の美しいこと。


     ただし、作品の2/3ほどは「フォード対フェラーリ」ではなく「現場の俺ら対副社長」になっている。現場の油まみれツナギ組はみんな有能で純粋でイイやつらばかりなのに対して、スーツ組は体裁と社内政治ばかり考えている馬鹿。ベタベタな構図。つまるところ本作は物凄く金のかかった池井戸潤ドラマなのだった。道理で2時間半あっても楽に見れると思った。

     

     見どころはすでに述べたエンツォ・フェラーリのキレるジジイぶりのほかは、やがて強力なF1チームを作る当時はまだレーサーのマクラーレンが超脇役で出ている点、そしてコブラ! バカ高いとはいえそれでもたまに街中で見かけるフェラーリに対して、まず見かけることのないモンスターマシンをしっかり拝める稀有な体験ができる。世界中のコブラをかき集めないと撮影できないんじゃないか。なにせリッター辺り300メートルくらいしか走りそうにない。

     

     そして序盤は主役級だが中盤以降ロクに登場しなくなるスーツ組のアイアコッカは、後に社長に就任する御仁だと見終わってから知った。カルト的スーパーカーにしてスーパーカー界のピザハット(イタリア風アメ車)であるデトマソ・パンテーラに肩入れしすぎて首になり、代わりにクライスラーに移って本作の主人公シェルビーとともにダッジ・バイパーを生み出すのだとか。ただのうさん臭いマッチョ野郎ではなく、どうやらかなりの変態らしい。この車も結局は一部のマニアにしか受けていないから、やっぱりフェラーリには勝てんということか。
     テスト走行中、コースの一番遠くで車が見えなくなって事故るくだりは、「F」のピーポーを思い出した。

     

    「Ford v Ferrari」2019年アメリカ
    監督:ジェームズ・マンゴールド
    出演:マット・デイモン、クリスチャン・ベール、カトリーナ・バルフ

     


    コメント
    コメントする








       

    calendar

    S M T W T F S
         12
    3456789
    10111213141516
    17181920212223
    24252627282930
    31      
    << May 2020 >>

    selected entries

    categories

    archives

    recent comment

    • お国自慢
      森下
    • お国自慢
      N.Matsuura
    • 【巻ギュー充棟】反知性主義
      KJ
    • 【映画評】キューブ、キューブ2
      森下
    • 【映画評】キューブ、キューブ2
      名無し
    • W杯与太話4.精神力ということについて
      森下
    • W杯与太話4.精神力ということについて
    • 俺ら河内スタジオ入り
      森下
    • 俺ら河内スタジオ入り
      田中新垣悟
    • 本の宣伝

    recent trackback

    recommend

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM