【巻ギュー充棟】ネット右派〜、歴史修正主義と〜

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     テーマ的には非常に興味が湧くが、気が滅入りそうでなかなか手が伸びないでいたところ、先に読了した知人から面白かったとの感想を聞いて背を押され、ついでに両書の著者が登壇する書評会があったので、まとめて読んだ。


     世の中の変化というのは、肌の変化や薄毛の進行と似ている。薄毛の自覚はあるのだが、基本的には昨日と同じ今日を過ごしているつもりでいる。それがあるとき「何か妙に減ってないか?」と気づく。大抵は写真に写る自分を見るときなのだが、うわ俺、こんな老けてたっけ?などと驚愕しつつ、全く身に覚えがないわけでは当然ない。ただし、毎日自撮りしているわけでもないから、いつからこうなっているのかはよくわからない。

     在特会のような武闘派的な差別者集団が現れたとき、その恥知らずぶりに驚きつつも、「不思議」とまでは思わなかった。こういうのが出てくる素地について全く心当たりがないわけでもなかったからだ。百田とか竹田とかケントとか、あの界隈の跳梁跋扈についてもしかり。大手出版社までもが差別扇動的ビジネスに手を出すことに驚きはあっても、こういう連中が一定の支持を集める土壌はそりゃすでに醸成されとるだろうとは思ったものだ。

     

     じゃあそれがいつからどうして、といわれると個人的感覚以上のことはわからない。フランス革命が起きたとき、国外に亡命した特権身分の人々は、何が起きているかさっぱりわからず深く考えようともしなかったので、あれは新教徒の陰謀だとかフリーメーソンの暗躍だとか陰謀論で片付けようとした、というのは内田樹のブログに書いてある話だが、俺もつい同じように、小林よしのりのせいかなとか、MSN産経のせいかななどと単純に片付けたくなるのでこの特権階級を嗤えない。

     

     左の黒い本は、これらの動きについてネット普及以前のころからさかのぼり、様々な場面で様々な方向性を持って現れた「ネット右派」が、離合集散を繰り返す2010年ごろまでの動きを細かく追いかけている。「ゴーマニズム宣言」を愛読する人々という、まんま身に覚えのある話も出てくるし、ネット黎明期のよく知らなかった掲示板コミュニティの話も出てくる。書評会で増田聡氏が「大河ドラマのよう」と言っていたが、確かに、そのうち信長は出てくるに決まってるのだがまだ織田信秀しか出てこない「麒麟がくる」のような射程の長さが印象的な本だ。


     そして扱う対象がインターネットだけに、史料の集めにくさが容易に想像されるから、それだけでもすげーなと思う。デジタル媒体と紙媒体ではどちらが保存がきくかというと、ハードディスクと紙の耐久性の違い、ではなく、保存する枠組みがあるかどうかの違いである。著者はインターネット黎明期から仕事と個人的興味の両方でこの界隈にかかわってきたらしいから、なかなか真似のできない蓄積がある。


     で、やはり個人的には「ゴーマニズム宣言」のくだりが、自身がまさにそこを並走していたリアルタイム感があり、身につまされつつも面白かった。まあ俺の場合は、彼が教祖的になっていく直前くらいで読者をやめているのだが。それがなぜか、という話を後述の懇親会で著者の伊藤氏に話出来たのは楽しかった。あと、右の赤い本の著者は俺より年下なので、いわば後になって「かつて流行ったマンガ」を見た世代になり、そういう人と話せたのも面白かった。「あー、雨宮処凛のパターンすね」と言われて、なるほど年下にはそうくくられるのかと知った。雨宮については黒本の方にもちらっと登場する。


     さてこの右の赤い本は、タイトルにも表れている通りもっと論点を絞った黒本に比べればずっとコンパクトな内容だ。黒本がなるべくフラットな立場からの記述を心掛けているのに対し、本書の序文はなかなか戦闘的で、若い研究者だけにさすがに勢いがあるなあという印象。書評会に登壇した著者は、この序文から受ける印象通りの風体をしていたのでちょっと可笑しかった。


     本書を読んだ多くの人が述べているが、「ディベート」のところがやはり面白く、ディベートについては個人的に思うところもあり(例えばこういうこととか)、それを重ねながら読んだ。これまた「否定と肯定」の世界であり、リビジョニストしぐさの典型として腑に落ちるところ多々である。


     もう一つは「コンバージェンス」で、こちらは大塚英志のメディアミックスの本を読んだときに感じたことを思い出した。ロードス島戦記や翼賛一家のごとく、与えられた枠組みの中でいろんな人が派生作品をせっせと生み出す。この仕組みそのものとリビジョンはよく似ている。


     書評会には、ツイッター上だけで知っている人がわんさと来ていて、オフ会状態だった。ネット上に顔出してる人は見れば、お、あの人か、とわかるし、そうでない人も、「この件に詳しい〇〇さんが本日いらっしゃってるので」などと聴衆側に司会者が振るものだから、あれがあの人か、なんてな具合で、ただの一読者でしかない部外者からするとミーハー的な気分も盛り上がるのだが、一方でこの劇団ころがる石の公演の客層のような内輪感(出演者の知人と向井の親族のみ、みたいな)はどうなんだという疑問も。同行のK氏も「今これ以上に大事なテーマなんかなかろうに、この集まり具合じゃ寂しいだろう」と言うておった。書評会で、赤本の著者が言った「やつらに〈言葉〉を与えるな」は印象的だった。


     90分2コマのプログラムで、これは普段俺が仕事で毎日のようにやっている長さなのだが、聞き手に回るとなげーし疲れるなあと感じてしまい、当然それは寝ている学生を叱れないという形で己に返ってくる。
     そうして厚顔無恥にも会の後の懇親会に参加した。両書を出した出版社の人が幹事をやっていたが、この人から「どっかの研究者」だと間違われ、それくらいには面の皮厚く平然としていたのだろう。
     ただし、研究者だらけの会だったから、飛び交う会話がその界隈のそれである。これまでの人生でも学者と酒席をともにした経験は何度かあるが、いずれも「学者と学者でない人との酒席」であったから、学者が学者の言葉そのままにしゃべることはなかった。だがこの日は研究者たちの飲み会に部外者が勝手に参加した格好だから容赦がない。聞いてるだけであまり経験のない種類の疲れに目いっぱい襲われた。

     

    「ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990-2000年代

    伊藤昌亮 青弓社2019

     

    「歴史修正主義とサブカルチャー」

    倉橋耕平 青弓社2018

     

    会の始まる前に昼飯を食べた大阪工大の食堂より。ビュッフェ形式なので多少お得感があるが、味は同大学の普通の学食の方が旨かった。景色はこんな具合で壮観。普段は迷惑にしか思わないスマホの超ワイドレンズを、初めてワイドが足りんと思った。


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