【やっつけ映画評】シリアの花嫁

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     シリアとイスラエルの対立を舞台装置として、そこに家族や夫婦の不和や和解を描いている。よその地域の縁遠い話のようでいて、普遍的な物語に昇華できているなかなかの傑作だった。

     

     第三次中東戦争によって、イスラエルに支配されることになったゴラン高原を舞台としている。レバノン、シリア、ヨルダン、イスラエルに囲まれた大阪府くらいの面積の丘陵地で、日本の地図だと点線だらけで国境線のはっきりしないややこしい表記となっている。大方をイスラエルが占領し、一部をシリアが支配しているといった具合。住民は「無国籍」の扱いで、シリアに復帰を目指すデモがしょっちゅう行われ、それをイスラエルの警察が監視している。そんな場所に暮らす一家の結婚式の日を描いている。

     

     以前にバラエティ番組で、このイスラエル―シリア国境を紹介しているのを見たことがある。草の生えた丘に轍ができていて、これが国境線ですよ嘘みたいですよねーと、その牧歌的な様子を強調していたが、本作に登場する「国境」はごっつい鉄柵が張り巡らされ、ガチガチに管理されている(といっても、兵士が花嫁に「どうぞ」と椅子を持ってきたり、割とのんびりした雰囲気なのがシュールなのだが)。

     

     主人公の一家は、イスラエル側で暮らし、二女の嫁ぎ先はシリア側。嫁に行ってしまえば出入国法的に戻ってくることは二度と許されない。ハレの日なのに、今生の分かれがついてくるから、どういう顔をしていいかわからない(この二女の夫は、シリアで人気のコメディ俳優という設定で、彼が出演しているドラマの映像が、「テルアビブ・オン・ファイア」に出てくるドラマにそっくりのチープな雰囲気で笑った)。

     

     そのうえ、家族全体にも諸々問題がある。
     この家の家族は、女2、男3の5人兄弟。男兄弟3人のうち1人はシリア側にいてあまり出番がない。残り2人は外国から帰省してくる。ロシア人と結婚してモスクワで暮らす弁護士の長男と、イタリア辺りであやしげな商売で稼いでいる遊び人風の二男である。大抵この二男と親父が不和で、帰郷しても親子喧嘩、という展開がファミリードラマの定石といったところだが、本作の場合、いかにも真面目でちゃんとしてそうな長男と父が対立している。

     なんでも彼らが信仰するドゥールーズ派というイスラム教の少数派は、異教徒との結婚を禁止していて、長男の行為は信仰に背く禁忌ということになるらしい。そういうわけで、村の長老たちも結婚式を欠席する一方、二男のチャラさ危うさについては一切不問。このシビアさが、まさにレバントだなあと。


     この父親、エルドアン風の外見がいかにも家父長的ガンコ親父でぴったりの配役なのだが、政治運動で投獄経験があり、警察からも危険人物として監視されている。デモ参加はおろか、国境地帯に近付くこともまかりならんと命令されているので結婚式にも影を落とす。新郎が「向こう側」にいるせいか、それともドゥールーズ派の挙式の仕方がそうなのかよくわからないのだが、家族は親戚や地域の人々とともに新婦のみで結婚を祝い、越境を見送るという手順となっている。このため家族は国境地帯で二女を見送る格好になるのだが、父はその臨席を禁じられているということだ。

     

     だったらデモ参加を控えて、警察に「俺もう危険人物じゃないっすよえへへ」と媚を売って警戒を解かせて国境に臨むのが手っ取り早そうなのだが、「逃げるわけにはいかない」と父はデモに参加する。父が家族よりも自身の社会的居場所やメンツを重視するのは馴染み深い風景であるが、先ごろ発表された男女平等ランキングで、日本121位、シリア150位(153か国中)と両国はドベ仲間なので合点がいった。


     この妥協の出来なさが分断のややこしさでもあり悲劇であろう。ところで最近の日本の国際ニュースは、「分断が広がっています」などと〆る例が多く、「今後の行方が注目されます」同様の紋切型の感も強まり、意味わかって使ってんのかと疑ってしまう。単なる差別とか単にそいつが悪いというような話でも「分断」と言うとるときがあるから、わかってないやつが国際報道部門に最低1人はいる。


     さてしかし、このエルドアン似頑固親父はまだマシな方だ。この映画に登場する男性陣は総じてろくでもなく、一方で「抗う」女性の姿が印象的だ。
     結婚する二女の姉で主人公格の長女アマルは夫と不和で、この夫はシリア150位の象徴のような威張りん坊である。要は自分より優秀な妻への劣等感が威張り散らす態度を生み出しているのだが、その半分以上は対面を気にしてのことであるから(「お前の妻はスカートをはかずにズボンばかりはいていると俺は笑われている」などと嘆いている)、彼だけを責めるのは酷だろう。社会全体がそうなのだ。

     また遊び人の二男は、赤十字の女性職員たちに「きゃわいねえ〜」としか言わない(&ソデにされると逆恨みする)。国境管理の役人(軍人)は、まったく融通が利かない妥協のなさで戦争を仕掛けているようなものだし、結婚式の準備も、男性陣が手伝ってないこともない場面もあるが、ほとんどは女性が切り盛りしていて、長男のロシア人妻も巻き込まれ、その間男たちは猥談している。まったくもってこれ日本じゃねえか。男女不平等のケーススタディ見本市のようになっている。あのランキング、結構批判もあるけど、かなり当たってるぞ。


     そういう中で、アマルは大学進学の道筋をつけて夫の願望とは正反対に進もうとするし、二女の越境をサポートする赤十字の女性職員はメンツばかりこだわるガチガチの役人たちに「もう知るか!」と激昂して放り出す。そうして二女は……、というラストがなかなかにまぶしい。

     

     まぶしいのではあるが、本作の10年後の未来をこちらはもう知っている。映画の中でもアサドの就任が描かれている。時代設定は2000年ごろだ。そしてシリアへの帰属運動をしている父は、アサドに期待して支持している。そしてそのアサドが引き起こす地獄は周知の通り。うーん、本作でここまで日本とのドベ共通点をみせられると、男女平等の改善は、男女平等以上の重大な意味を持つように思えてきた。まじで急ぎ考え直しませんかね。とりあえず俺は、女性にマンスプレインの悪癖をしないよう、どうしてもしたくなったら「マンスプしていいっすか」と断るようにしている。小さなことからこつこつと。自分で「急ぎ」と書いといて矛盾している。

     

    「The Syrian Bride」2004年イスラエル/フランス/ドイツ
    監督:エラン・リクリス
    出演:ヒアム・アッバス、クララ・ルーリ、マクラム・J・フーリ


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