【やっつけ映画評】彼らは生きていた

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     新型コロナの関連で、最近何度か「スペイン風邪」という言葉に出くわした。第一次世界大戦中に起きたインフルエンザの流行であるが、人類最初の世界大戦中の出来事なだけに、人類最初のパンデミックともなり、5000万人以上、一説には1億人という物凄い数の人が死んだ。先日美術館で見たクリムトやシーレもこれで死んでるんだな。


     本作は第一次世界大戦をテーマにしているが、変な具合にプレイバックした「スペイン風邪」は登場しない。それもそのはず、主題となっているソンムの戦いの時点ではまだアメリカは参戦しておらず、このインフルエンザはアメリカが発生地である(といっても映画は終戦までを描いているのだが、米軍はちっとも登場しない)。

     

     名前の由来は大戦参加国が情報統制下にある中、中立国だったスペインが感染情報を公開したためで、別にスペイン発祥というわけではない。こんな歴史好きの豆知識のような話をTwitter上でやけに見かけたのは、病名に武漢の名を積極的に冠して語る連中がテレビに出ているからで、そういう密命を背負っているのか、当人の世界認識によるものなのかは知らないが、どっちにしたって恥知らず(差別をまき散らすやつは、殺人か傷害を教唆しているようなもんだから、靴か腐ったトマトくらいぶつけても、豆腐の角でなくてよかったねと温情に感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはない)。ネットは大手メディアと違ってチェック機能が働かないからマズい、などとかつては主に業界関係者が語っていたものだったが、もはや「缶詰が発明されたとき缶切りはなかった」みたいな、「その後のスタンダードにかき消された知られざるかつての認識」になってきておる。大手メディアの「識者」選別のチェック機能の働かなさすぎといったら。そいつは識者じゃなくてただの業者だ。仕事しろ。


     とにかくスペイン風邪はスペインにとってはいい迷惑のような名前だが、爆発的に感染拡大したのが戦争に伴う人口移動や情報統制等が関係しているから、逆説的に名が体を表しているともいえそう。

     

     一方、現在のコロナ流行では、戦争中でもないのに情報が伏せられたり対策が遅れたりで拡大している。中国では独裁体制の弱点と強みをまとめて見せられたようになっている。最初の告発が不届者扱いにされ隠蔽されたが、いざマズいことになると一気に社会統制して病院まで作ってしまう。
     日本の場合はネオリベ・カルトスピ政権が長く居座ればそりゃこうなるわな、というトンマな対応の総力祭になっている。そりゃこうなるわさ。何の驚きもない。


     記者対応をまともにやれば諸々追及されるし、それが不測の事態ともなると場合によっては火だるまになる。現政権はそういう民主党政権の轍を踏むまいとしているのか、それとも単に元々やる気がないだけなのか、とにかく災害のたびに首相が消えろくに対策を打たない、というのを繰り返してきた。場合によっては「アンダーコントロール」に代表される言い繕いでやり過ごし、ついでに記録の廃棄等で情報を隠す。隣国をパブリックエネミーにして見下すことで我が国スゴいの自己暗示をかける。戦争でもないのに情報伏せて、スペインに向けてスペインのせいだ的呼ばわりをしているのだから、はて一体だれと戦っているんだ?

     

     これがある程度通用してきたのは第一にはNHKを筆頭とする大手報道機関のせいであるが、もう一つは自然災害は大規模であっても列島全体からみれば、一部の人しか被害を受けないからだと思う。以前に「共犯者たち」のところで書いた話だ。被害者(被災者)に同情はすれども所詮は他人事、怒りに共感するところまではいかない。ところが感染症というのは災害など比べものにならないくらい実に広範なんだなあ。なるほどこういう災厄があるのかと、自分の不勉強を恥じた。歴史は人の営みだが、そこに実は自然も大きく作用していることを忘れがちだ。

     

     本作は、第一次世界大戦の実映像をつなぎあわせて制作した異色作である。当時の映像資料に証言者の声を重ねている。NHK「映像の世紀」とやっていることは似ているが、大きく違うのは映像を加工している点だ。モノクロをカラーにし、カクカクした早送りのような動きを修整し、音を付け加えている(初のトーキー映画が登場するのが大戦のおよそ10年後につき、元映像に音声はない)。

     

     序盤は未加工のモノクロ映像によって兵士訓練の様子が語られ、うつらうつらとしてきたところで訓練終了、若人たちが戦地に赴くところで画面の縦横比がヒュイ〜ンとワイドに広がり、カラーの音付きに変わる。この演出は憎い。さんざん古臭い映像を見せられた後なので、タイムスリップでもしたような錯覚を体験できる。思わず「お〜〜」と声が漏れてしまった。

     

     カラー化の威力については前にも述べた。映像の加工によって「歴史」から「ニュース」に変わる迫真性というか、自分の居場所からの地続き感のようなものを感じられる。無論、そのホントっぽさの危険性はあって、例えば映像の中の若者と証言者の音声が同一人物だと誤解してしまいそうになるミスリードは、元のモノクロカクカク映像を見せられるよりも遥かに高いと思う。とはいえ一方で、薬師寺の東塔と西塔はどっちが奈良時代の姿を伝えているかというのに似ている投げかけも多分にある。映像の魔力ってところかね。
     年端もいかない英国のあんちゃんたちが、まったくドラマチックでなくバタバタと戦死していく無機質な残酷さはまさに戦争といったところだが、最も目を背けたのは凍傷でぼろぼろになった足の映像だった。これ以外にも塹壕の居心地の悪さやトイレの様子など、自然要件同様、歴史を語るときにはついつい脇にどけてしまうような話が結構出てきて、戦場のリアルを描く切口が吉田裕「日本軍兵士」と似ている。ただし、日本軍と全く正反対なのが、全体的にカラっとしているところ。精神論の跋扈と陰湿ないじめは無縁である(ただし戦後に帰還するとランボーばりに社会から排除されたらしい)。ついでに敵方であるドイツ帝国の捕虜とも和気あいあいとしていて、なんでもういっぺん戦争になるかねと疑問がもたげてくる。


     その後のドイツについてはさておき、とにかくこの戦争は2000万ともいわれる多くの戦死者を出し、その悲惨さの一端は本作にもよく現れている。その結果、戦後各国は国際協調、平和主義に舵を切るわけだが、大戦にまともに関わったわけではなかった日本は、いまいちその時流をつかめず19世紀的帝国主義に突き進み孤立していく。何となくこのズレ具合が今と似てるな。そういう制作者の意図とは異なり変な具合に今につながる作品でもあるのだった。

     

    「THEY SHALL NOT GROW OLD」2018年イギリス=ニュージーランド
    監督:ピーター・ジャクソン


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