天動説第2章

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     昨年夏、仕事に向かう途中の車窓から、停泊中のクルーズ船が見えて「おー、でけーなあ」と写真を撮ったものだったが、よくよく写真を見返してみると、あれがダイヤモンド・プリンセスだった。長い長い伏線だったな。ちょうどホテルニューオータニくらいのデカさである。昔NHKでやってた戦艦武蔵の最後を扱ったドキュメンタリーで、沈没の際の渦に船員が呑み込まれていったと説明していたが、たしかにこんなの沈んだらどえらい波になるよなあ。


     最近電車に乗ると、テレワークや時差出勤にご協力を、などと車内放送が流れている。鉄道会社が電車に乗るなとアナウンスするのもシュールであるが、国交省から言われてやっている。にしても、個人に訴えてどうするんだ、会社に言えよという話である。
    聞くたびイラつくのはちょうど今の仕事状況と関係がある。


     大学生の就職活動が徐々に本格化(している中、説明会の類がどんどん中止になって可哀想なのであるが)していく時期につき、その手の仕事が必然増える。具体的にはいわゆるエントリーシートだの小論文だのの添削である。これが今期はめちゃくちゃ多くて、商売繫盛ありがたいことではあるが、在宅勤務ならぬ「在宅でもたっぷり勤務」につき頭がどうにかなりそうになる。毎年言ってる気がするが。
     公務員試験の小論文だと、災害対策だとか子供の貧困だとかいかにも仕事に関係ありそうな社会問題について対策を考えさせるような内容の出題が多い。学生にはかなり難しい設問だと思う。中には見事にまとめてくる大した若人もいるが、そういう人はやはり限られていて、大半は推して知るべし。繰り返すが学生だから仕方ないところはある。当然、対策といわれても思いつきをぶつけるよりほかなく、その代表例が「周知徹底PRすべし」。ま、ろくに現状を調べてない学生だとこんなんしか思いつかんわな。

     で何が言いたいかというと、国内感染が始まって最初にやったことが電車内の意味なさそうなアナウンスだから、現実の行政機関がやってることが不勉強な学生の思いつきレベルなんだな。

     

     もう一つは、これは入口出口が逆の話なのだが、個人に呼びかけてどうするんだという部分である。
     このアナウンスに限らず、何事も個人の心がけにまず呼びかけるのは日本社会の悪癖だ。たまたまこういう本を読んでいたが、この感覚は明治のころに確立されたらしい。これはWGIPの洗脳などというぬるい妄想と違って今の若人にもしっかり根付いている。なにせ「周知」の次に多く見かける「対策」が、個々人の意識改革だったり懲罰だったりする。

     例えば災害対策だったら「住民一人一人の危機意識が重要だ」、プラごみ等の環境問題だったら「住民一人一人が3Rを進めることが重要だ」、動画の違法アップロードだったら「見る側にも何らかの刑罰が必要だ」。別に100%間違いというわけではないし、それも重要といえるものもあるが、だがしかし。


     行政機関で働きたいいう人間が「住民一人一人」に丸投げしてどないすんねんと、例年指摘はしてきているのであるが、今回の政府の一連の対応を見ていると、昨年書いた「日本天動説型外国人差別」同様、若人の無邪気さにもっとしっかり釘を刺すべき重大事案に思えてきた。

     一斉休校のような行動制限かけといて諸々の多大な影響についての補償・対策はろくにないかあっても実にショボい。それでも一定支持がついてくるのは、個人の心がけが第一に来る社会では個人の心がけを呼びかけるのは善政になるからだろう。この感覚は公的支援とのトレードオフがついてまわるから、検査がなされないことより検査がパンクする方にまず懸念がいく(そして公的部門をばんばん縮小してきたので実際能力もない)。


     これが妙に目につくのは、世界的な疫病につき、多少の時間差はあれど各国の対応の違いが同時並列となるので、いやでも違いが目につくからだ。当初、感染拡大の中で対策会議は10分程度(ついでに会議の面々が安倍自民の秘蔵っ子佞臣たち)その後首相は帰宅か会食という疫病なのに犒主瓩宴会な状況に、俺たちゃ三国志の時代を生きてるのかよ歳在甲子天下大吉と思ったが(今年は甲子じゃなくて庚子なんだって。惜しい)、韓国や台湾の気合の入った取組を見るにつけ(そして遅れて感染者が出たフランスあたりの対応を見るにつけ)、三国志ではなくて西ドイツ/東ドイツなんだなと思い知らされた。


     韓国はセウォル号のときに今の日本と似たようなことをやってこけた経緯があるから、朴槿恵だったらどうなってたかわからない。それが打倒されてできた政権だし、ついでに進歩主義はこういうときは強い。
     日本の場合は東ドイツと違って何主義でもなくただの日本天動説、要するに夜郎自大だからどうにもならん。タマネギ男とかって嬉しがってりゃそりゃ必然こうなる。東ドイツと違って情報が遮断されてるわけではないのに夜郎自大が高じて積極的に遮断してる。嫌でも目につくと書いたが、実際のところはそんなに目についていない。その結実が、あの記者会見という名の無意味な首相原稿音読会だろう。「五色の虹」「牙」の三浦記者が驚いた旨のツイートをしていたが、何をいまさら。かまととぶってるなら阿呆だし、ホントに驚いたのならもっと阿呆だ。そして恥入ってる分だけ三浦はまだ全然まとも、というのが何とも。

     

     とかなんとか書き連ねても、出来ることが手を洗うだけだからショボい身だ。先週くらいから、公衆トイレの乾燥機がようやく使用中止になった。チン先触った指をさらっと湿らせる程度でブォーンと乾燥機にかける連中に舌打ちしなくて済むようになった。ちゃんと洗え、という個人の心がけは重要なのだが、一方で施設責任者は責任もって乾燥機を止める。ま、そういうことっすよ。とりあえず、この曲でも聞こうか。


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