映画の感想:翔んで埼玉

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     子供のころ、テレビのバラエティでは、ある地域を田舎だと見下すことがギャグとしてまかり通っていた。その筆頭が埼玉県で、俺はそのたび東京の隣なのになぜ田舎扱いになるのだろうと不思議で仕方なかった。埼玉は田舎なのかしめしめと同じ土俵に乗らなかった己の賢明さを誇りたいところだが、ピンと来ていないのだからそもそも乗っかりようがない。これはつまるところ、首都圏だけで通じるギャグなのだなと理解したのが中学生のころか。


     要するに関東から遠く離れた我が故郷は、この「田舎/都会」の論争の枠にすら入れていない辺境なのだと、より深い理解をしたのが高校のころだ。というのは、高校になると小中の学区を離れ、より広い範囲からやってきた人々とクラスメイトになる環境変化がある。その結果、自身の居住地は市内の中でも僻地扱いになっていることを知り、かつ「〇〇町は市内じゃない」「うるせー」というような市境じゃれ合いお約束にすらカウントされない存在感のなさも併せて自覚させられたものだった。そこには「埼玉=田舎」を理解できず、ぽかーんとテレビを眺めている構図の小さな相似形があったわけだ。


     このため、テレビでやっていた本作を眺めながら、あのころの疎外感をまたも今更再確認していた。原作マンガがまさしく俺が子供のころの作品なのだから、元ネタは埼玉見下し全盛期に描かれた格好だが、映画は昨年ヒットしているから今でも通用する観念なのだろう。「月曜から夜ふかし」を見ていると、定期的にその手の話題を嬉々として語る地域住民が登場している。

     

     個人的感慨はこの辺にして、本作がギャグとして成立する牧歌的さについて考えた。


     戯画化された設定で県民アイデンティティのようなものを描いている。絵面が「パタリロ!」みたいだなと思っていたら、元はパタリロの人のマンガだった。作風が徹底かつ確立している。すごい人だ。中性的雰囲気の美男子同士が愛し合う調子がパタリロと同じなのだが、だとするとガクト演じる麻実に恋する百美(女子風男子という設定)は女優ではなく男優を起用すべきな気がするが、そっちの方がむしろ男女の枠に囚われているのだろうか。どっちなんだろ。

     

     貴族的に振舞う都民に虐げられている埼玉県民という図がまず描かれる。県民が都内で遊んでいると治安当局に拘束される。主人公が入学する学校では、より都会っ子が威張れるヒエラルキーの中で、埼玉県からの生徒が惨めな扱いを受けている。そういうデフォルメされた県民の悲哀の中で埼玉の復権を画策する主人公は、やがて千葉県なんかとも対立しつつ、そして埼玉県民同士も浦和だの大宮だの言い合う対立に翻弄され、といった混沌とした対立図式の中で奮闘することになる。


     このいがみ合いは、日本社会では常に他人事として語られる世界各地の民族対立を身近なものとして理解する助けになりそうな気もするが、裏を返せばそういう地域では本作はしゃれにならんのではないかと思う。

     

     これが爐靴磴譴砲覆覘瓩里蓮現実にはどこの道府県民であれ、東京に移り住むのは自由で何ら権利が制限されているわけではないからだ。ついでに宗教対立が絡むわけでもなく、言語系統や肌の色が違うわけでもない単一性の高さも一役買っている。
     ただし、本作では通行手形がないと都内には入れないという権利の制限が設定されているから穏やかではない。そして差別された側が陰で世界を制していくラストは、排除される側が黒幕で排除する側が被害者、というユダヤ陰謀論ないしは在特会の理屈と重なってくる。どうも落ち着かない。

     

     おバカな映画に何を真面目くさって、とも言い切れないのは現実のエグい差別も元はこういう無邪気さから始まっているからである。そしてたまたま俺が本作を見た時期と重なっただけのことではあるが、さいたま市が市内の幼稚園、保育園向けにマスクの配布をはじめたけど朝鮮幼稚園は除外というニュースがつい先日あった。感染症の前には何の合理性もないまるで百科事典に載せたいような差別事案である。こういう現実だもんで、埼玉だ東京だいうてるのは実に牧歌的に映るし、どうせ差別だの同胞愛だの扱うなら、もっとほかに描きようがあるんじゃないのとは思うんだよな。端的にいえば、古いなあってこと。


     一方、不正が発覚したことで悪の権化たる都知事が失脚していく展開は、本作の方が現実世界より上だった。残念ながら今の日本社会では不正が発覚しても為政者は失脚しない(まあ地方の首長の場合はちゃんと失脚するのかもしれないが。ただし大阪はあやしい)。完全に詰んでるのに、盤の外に王将逃がしてなぜかそれで対局が続いていることになっている。こういう現状につき、都知事の失脚という大団円は、また別の意味で牧歌的に見えてしまった。前にも書いたが、政治がぽんこつになると物語が作りにくくなるので大変に困る。

     

    2019年日本
    監督:武内英樹
    出演:二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介


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