【巻ギュー充棟】タイムトラベル

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     以前にも読みかけ段階で軽く触れた本についての感想。「時間についての歴史」という内容といえる。おかしな表現だ。ほとんど「日常についての日記」といっているような同語反復感がある。「時間認識の歴史」といえばまだいいのか。ただ、時間という言葉・概念がそもそもかなりあやふやな代物で、「歴史」は「時間」の一部かというとどうもそうとも言い切れない様子なのだということを本書は明らかにしている。


     すでに書いたように、ウェルズが初めて描いたタイムマシンSFを出発点としている内容だが、話はSFにとどまらず、人類が時間をどう捉えてきたかについて広範に述べている。このため哲学や神学、物理学、あるいはタイムカプセル事業(「20世紀少年」にも出てくる地中に埋めて後で掘り出すあれ)のような生活史など話はフィクションだけにとどまらない。


     その一方で、フィクションにおける時間の描かれ方も色々紹介されるから、SFだけにとどまらず、「失われた時を求めて」のような古典も登場する。この、膨大な文献を集約して概観していく感じは、サイモン・シンの数学科学ノンフィクションや、ビル・ブライソンの(どう分類していいかわからない)著作群を思い起こさせる。

     

     ただし、扱うものが「時間」ないしは「タイムトラベル」という結局正体不明 ないしは可能かどうか不明な対象物につき、読み進めるほどにただただ混迷が深まるだけの印象がある。そもそも物理学とSFが同列に並んでいる本書の構成が成立するのも、タイムトラベル、ひいては時間の正体不明さによるところが大きい。
     そして娯楽フィクションの性格上、あまり詳らかに述べることができないため隔靴搔痒の感もある。例えばタイムパラドクスのくだりで「ターミネーター」が登場するが、あの映画におけるタイムパラドクスを明確に説明すると、いわゆるネタバレになってしまうのでボカして紹介している。ターミネーターなら見たことがあるので問題ないが、よく知らないSF作品も多数登場するから、本書を読むだけではわかったようなわからないようなにしかならないので少々ストレスである。書き手もストレスだっただろう(そして無論、物理や哲学の難しめの話はしばしばついていけない)。

     

     19世紀になるまで、人類には未来を夢想したり新世紀を言祝いだりする感覚がなかった、という話は以前に紹介した。そしてタイムトラベルのSFが書かれるようになってしばらくは、未来に行く話はあっても過去に行く話はなかったらしい。この辺の感覚は面白い話だ。そういえば前に読んだ別の本には、日本語の場合、「前」とか「先」には未来と過去の両方の意味があるとの指摘があった。「先のことはわからない」「前を見て歩もう」に対して「先代のころから」「前の知事は」の用法もある。そして昔はいずれも過去の意味しかなかったとかなんとか、うろ覚えなのでやめとこう。

     

     時間は、科学の世界では物体の運動や反応を説明するために、日常生活では生きるとか死ぬとか起きるとか寝るとか昼飯を食う等の「存在」のほぼ同義として用いられる概念で、ホントに時間なるものがあるのかどうかはよくわからない。この部分を読んで、俺はビッグバンを知った子供のころを思い出した。
     宇宙には始まりがある。ではその前はどうだったのかといえば、何もないという。「何もない」状態が「ある」とはどういうことなんだ。何もないならどうして「ある」が始められるんだ。じゃあ何でそもそも宇宙は「ある」んだ? 何歳ぐらいのことなのか忘れたが、こんなことを考えて物凄く気持ち悪くなった覚えがある。というか今でも考えると気持ち悪くなる。そしてこの話は本書でも俺の中でもこれ以上先へ進めない。ホーキングによれば時間が一方向に進みだしたのがビッグバンということらしいのだが、これもテレビで聞きかじったうろ覚えでしかない。ついでに本書では、時間を線的にとらえることの疑義を呈した学者たちが登場している。

     

     

     惜しむらくは、著者がアメリカ人につき、日本の作品で登場するのは浦島太郎と、「1Q84」くらいな点。さすが多数翻訳されてる村上春樹であるが、やはり日本のタイムトラベルの筆頭は藤子不二雄、というか藤子F不二雄だろう。まああの人の場合は海外SFを多数トレースしているので、本書に登場するよく知らないSFについても、ああ巨匠Fのあの作品と同じようなプロットかと俺の脳内で補完的に登場してくるのであるが。

     

     SFについてそれほど詳しいわけではないので、タイムトラベルやタイムパラドクスのパターンをそれほど知っているわけではない。このためああだこうだ言うのは恥ずかしいが、そういう性分なのでつい書いてしまう。
     今のところこの手の話で面白かったのは「メッセージ」がまずある。タイムスリップするわけではなく、時間の感覚が地球人とはまるで異なる宇宙人とコンタクトする話である。時間は果たして一直線なのか、とか、実はグルグル循環しているといった本書の紹介している問いや説を踏まえたような内容の映画だった。未来を知って解決につなげるという手法は手垢にまみれていると思うが、全体の構成が一直線の時間ではないというオチがおもしろかった。

     構成というところでいえば、シリーズ全体がいったん過去にさかのぼって狢莪貂遶瓩砲弔覆る「スター・ウォーズ」も、この「メッセージ」と似たようなところはある。これは一種のタイムスリップだという感想はずいぶん以前に書いた。ただし作品自体はちっとも賛同できず残念だった。

     

     このように、タイムトラベルものでなくてもフィクションの世界では時間を縦横に行き来することがしばしばだ。瑣末なところではカットバックの手法なんかがそれにあたる。本書によると、文学の世界では一直線的な時間を壊す傾向が時代が下るにつれて高まっていくらしい。

     

     俺が以前に賞を逃したとき、読んでくれた映画会社の人が時間の経過が正確で驚いたと言っていた。つまり小説を映像かする場合、作中の時間経過を確認するため、各登場人物が何時にどこにいるのか表を作るらしいのだが、しばしば登場人物が瞬間移動しないと辻褄が合わないことがあるという。俺のにはその手の矛盾が一切なく、あんたどういう頭してんだと驚かれたのだが、俺自身がそういう表を作って整理していただけのことに過ぎない。そして本書を読むと、俺のこういう姿勢は、線的な時間経過に囚われている分、実に保守的だとわかる。

     

     時間に囚われない作品として俺が思い浮かべたのは例えば「自転車泥棒」である。現代を生きる主人公「僕」の物語ではあるのだが、各登場人物の回想が入り混じって、描かれる時間空間が実に自由奔放である。それでいてしっかり「僕」の物語として成立しているから小説ってこんなんなのかと驚いてしまった。

     

     一方で、読者は結局1ページ目から順繰りに読んでいくので、読書行為そのものは極めて線的時間経過である。俺はここでゲームブックを思い出した。今でもあんのかなと思ってアマゾンで検索したら、あるにはあるんだな。物語の途中で「A逃げる Bとどまる」という具合に読者が主人公の行動を選択し、指定されたページに移動すると選んだ行動に沿った次の展開がなされていく。これなど、物語は時間の経過に沿って進むがページ自体はバラバラである。そして逆に1ページ目から読むと、展開のバラバラな話を断片的に読むことになる。

     

     それが何だといわれると、ただそういうことを思った、というだけのことで、こういう瑣末な思いつきが、あるときふと物語のアイデアになったりするものだから書き留めておくだけのことである。そういえば「ふと」という言葉は、過去形の話を現在形にスライドさせる、という指摘を読んだことがある。例えば「私は職場に向かっていた。ふと気が付くと、後ろを犬がついてくる」。これなんかも時間を無視している書き方になるということか。
     だらだらと長くなったがまとめはとくにない。時間ではなく、構成を無視したフリースタイル文章である。

     

    『タイムトラベル「時間」の歴史を物語る』(Time Travel a History)柏書房2018
    著:ジェイムズ・グリック
    訳:夏目大


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