【やっつけ映画評】レ・ミゼラブル

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     こういう世間一般にはそれほど知名度がないが、映画好きなら総じてチェック済というような作品は、上映館が少ない分混む(封切間もない日に見たから余計だが)。混むといっても知れた人数ではあるのだが、誰も咳をしてなかったのは余計なことを考えなくてすんで何より。ただ、映画で描かれるのが貧困区域なだけに、こういうご時世、彼らは今大丈夫なのかしらと制作者の意図していない心配がむくむく。


     昔「人間失格」ならぬ「人間・失格」なるドラマがあったが(太宰の遺族から抗議があって変更したんだとか)、本作はそのまんま「レ・ミゼラブル」で、19世紀でもなければジャン・バルジャンも出てこない。ところでついジャン・バル・ジャンと読みたくなる。問題は「MIゼラブル」か「ミSERAブル」かであるが、グーグルで音声を聞いたらどっちも違った。


     パリ郊外を舞台にしたフランス版「シティ・オブ・ゴッド」ないしは「デトロイト」。アフリカ系があまた暮らすいかにも貧しい世帯が多そうな地域で、住民と彼らを取締る警察官との対立いざこざが描かれている。
     撮影好きのオタク少年が重要な役割を演じる点はまさに「シティ〜」と同じだが、特別公務員暴行陵虐罪を繰り出しまくる警察官を延々見せられる構図は「デトロイト」と同じで結構キツい。ついでに後味の悪さも「デトロイト」に同じ。一方で次から次へと登場人物が死んでいく「シティ〜」と違って、本作は死人が出ない。理由は単純で、誰も拳銃を持ってないから(警察官は所持しているが、基本は催涙スプレーとゴム弾を使っている)。フランスの銃規制はそれなり厳しいらしい。数少ない本作の救い(ただしラストの暗転以降はどうなったかはわからないが)。

     

     「デトロイト」と異なるのは、先ほどアフリカ系と書いたが、本作の場合、白人/黒人のような単純な二項対立ではない点だ。漆黒の肌の人もいれば、アラブ系っぽい人もいるし、ロマもいる(ロマの登場人物の全く人の話を聞かずに自分のいいたいことをまくしたてる様子は、しかるべき団体から抗議が来るんじゃないのかというくらいのエキセントリックさだった。とにかくうるさい)。宗教的にも、敬虔なイスラム教徒がいたり、不真面目そうなイスラム教徒だったり、色々だ。
     これが実際のフランス社会なんだな。英国に次ぐ植民地帝国だった歴史を再確認させられる。マクロンかエアバスの工場か農家のおじさんくらいしか登場しない日本の国際ニュースでは見えにくい世界である。唯一つながりを感じるのはサッカーのフランス代表チームで、本作の舞台モンフェルメイユには、いかにもこの混沌から這い上がったアメリカンドリームならぬレッフランセな選手がいそうだと思ったが、wikiで見る限りは俺程度では知らない選手の名前しか出身者の記載がなかった。

     

     とにかくこのような多様な人々がいる町を見るにつけ、社会の安定のためには法治しかなさそうだ、というかしばしば人治と揶揄される日本社会は結局のところ単一性の高さゆえに可能なんだろうと思った。興行やめろ、補償はない、五輪はやる、で納得する人間ばかりで構成されている社会かそうでないか。本作を見る限り、少なくともこの町の人々が全員「それで仕方ねえな」と言うとは到底思えん。麻生とか、日本会議系の議員が「単一民族」をやたら強調したがるのも、地位を失う恐怖のようなところから発しているのかもな。

     

     

     しかしながら、その法治のもと、治安のよくない町だけに、警察はいちいち住民を疑い、住民はそれに反発して鬱憤を溜めていて、そこに貧困があるから犯罪も起こり、犯罪があるから警察が横柄に住民を疑う、という悪循環がある。そしてラストで町のボスみたいなおっさんが子供にボコられるのも、彼らコミュニティの法が破られるということを意味している。

     

     どうしてこうなったかといえば、法治を担う警察官が逸脱したからで、法の支配の重要性を再確認させられる。法の支配が破られる中で結局ものをいうのは人治だから一周回って混乱する。本作に登場する数少ないマトモそうな大人の2人、問題の映像データを託された食堂のサラーに、主人公のステファンは「俺の顔に免じて」とは言ってないがいわばそういうような持ちかけをして「あんたを信用する」とSDカードを譲ってもらう。法の支配が崩れれば人治。よく考えればわが国では日常風景であった。

     

     しかしこのマトモそうなステファンも、そもそもの不祥事隠蔽行為自体を止められてはいない。新入りで発言力が乏しい分、ボスの横柄警官クリスを止めることができない。不正に加担させられている分、赤木俊夫氏と同じ立場であるが、赤木氏と違ってあまり思い詰めている様子はない。というのもステファンは隠蔽を図るクリスらを非難しつつも途中からは消極的に同調しているからだ。もし不正が表沙汰になれば暴動になる。なので大事の前の小事、目をつぶるというわけだ。

     

     で、結局ステファンは、途中までイイ人だったから大目に見られるということもなく、クリスたちとともにボコられる。ラストの字幕を読むと監督の主眼は凶悪さを開花させた少年たちにあるのだろうと察せられるが、俺自身はステファンの方に示唆を感じてやまなかった。

     

    「Les Miserables」2019年フランス
    監督:ラジ・リ
    出演:ダミアン・ボナール、ジャンヌ・バリバール、ジェブリル・ゾンガ


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