映画の感想:ファースト・マン

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     昨年、50周年記念だとかでアポロ11号が月面着陸した際の当時の中継を再放送していた。中継というのは、結果を知っている後代の人間にとってもリアルタイム感を感じられるものなんだなと割と感動した覚えがある。それと同時に、有名な出来事でも後の時代に伝わるのは一連の中のごく一部、という真理を再確認した。


     着陸に至るまでに、まあまあ細かくピンチがあったのは知らなかったし、着陸の際の台詞が「The Eagle Has Landed」というのも、これは有名だそうだが、恥ずかしながら知らなかった。字幕が「イーグルは舞い降りた」となっていたから、有名なスパイ小説&映画である「鷲は舞い降りた」(格好いいタイトルだが、結構地べたを這いずり回る物語である)を文字って言ったのかと勘違いした。「鷲は〜」の方が月面着陸の後に出版されているから、このスパイ小説がアームストロングの台詞をパクってタイトルにしている。

     ただ、字幕を「着陸した」ではなく「舞い降りた」にしているのは、おそらくこのスパイ小説の邦題の逆輸入だろう。おかげでまたどっちが先かこんがらがる。ちなみに本作の字幕も、「舞い降りた」になっていた。「風と共に去りぬ」同様、ほぼ直訳とはいえ印象に残るという点で見事な邦題である。


     本作も、その中継同様、当時のリアルタイムを疑似体験できる。ただし視点は中継ではなく、アームストロング当人。狭苦しい宇宙船内の顔面アップと手元アップの連続だけで描いている演出が功を奏している。これぞ実話をフィクションでやることの醍醐味といえよう。

     

     それにしてもこの息苦しい船内の様子が怖い。アポロに至るまで、アームストロングは何度か宇宙に行っているが、どのシーンも船内のきしみがすごくて今にも壊れるんじゃないかと思わされる。旅客機でも、特に離着陸のとき機体がギシギシいうたり、あと船でも海が荒れてるときなんか船体と海面がぶつかってバーン!と音がするものであるが、俺はああいうときに「南無阿弥陀仏」とにわか浄土真宗信者になる性質だもんで、ああ怖い。遣唐使船とまではいかなくても(造船技術が未熟だったので航海はほぼ博打だったとか)、リンドバーグの大西洋横断くらいの危うさはある。

     と思ったが、よくよく数えるとリンドバーグからアームストロングまで、40年くらいしか間はない。空を飛ぶことの発展てめちゃくちゃ早いんだなと思ったが、「Apple I」からiPhoneまでが30年だから、そんなものなのか?

     

     宇宙飛行士の家族たちはNASAの近くに集住しているのだが、同僚たちが事故で死んでいくから、近所づきあいが相当にキツい町内である。トップガンにおけるマザーグースがごとく、仲のいい同僚が命を散らし、2番目に月に降りたオルドリンは、その結果昇格(?)した超脇役だったというのが驚きつつ苦笑した。口さがないザコキャラ的な登場人物で、本作を見ると、こいつと月に行くのかよと若干絶望的な気分になる。当人は本作見たのかしら。


     当時、必ずしも世論は好意的ではなかった点が描かれているのも興味深い。中でもカート・ヴォネガットが反対していたシーンは、へえ〜と貴重な資料を見た気分だった。

     妙ちきりんなSFを書いてた御仁なのに、「税金はもっと暮らしに使うべきだ」とかって、えらく真面目な発言をしていた。それは別の人に任せればという気もせんでもないが、低所得者層が反発するのはよくわかる。戦争に使うよりはマシなのではと思いつつ、じゃあ五輪と比べるとどうなんだろうともなるわけで。そして現在、地球上には月に行けるロケットは存在していない。まあそれくらいの金食い虫ってことではあるのだろう。


     月のシーンもなかなか圧巻だった。夭折した娘をアームストロングが思い出すところで、がんは治せないのに月に行けるってのはどういう不条理なんだと思わされる。誰もいない、音もしない、岩と砂しかないひたすら荒涼とした景色に、「時間なるものは本当にあるのか」という「タイムトラベル」で読んだ話を思い出した。

     月面上で時間を意識しているのは、アームストロングとオルドリンの2人だけで、月にとってはただの珍客でしかない彼らがいなくなれば、同時に時を刻む存在も月面上にはいなくなる。誰のためでも何のためでもなく、月はただそこにあるだけだから、やはり時間というのはただの概念で、本当はそんなものないんじゃないかという気にさせられた。


    「FIRST MAN」2018年アメリカ
    監督:デイミアン・チャゼル
    出演:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク


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